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自然のエネルギーを活用した天然氷から
地域の未来を考える

温度

天然氷

PROFILE

富士山天然氷・蔵元「不二」

http://fujiyama-ice.com/
富士山の大自然を望む土地で、美しい地下水と自然の力を利用した天然氷を製造・販売する。経済活動が及ぼす地球温暖化やエネルギー問題をはじめとする、社会における重要な課題への対応策として、自然エネルギー活用を進める。また、地域福祉活動やボランティアにも積極に取り組んでいる。東京都昭島市にて「天然水 蔵元 カフェ不二」を運営。

ふわふわとした食感と口どけの良さといったイメージで、人気を誇る天然氷のかき氷。壮大な富士山の麓で豊富に湧き出る地下水で、天然氷づくりに取り組む蔵元「不二」は、「自然エネルギーを上手に利用することが大切」だと話します。透明に輝く天然氷づくりと自然エネルギーとの関係とは?天然氷をきっかけとした地域連携の可能性とは?

きっかけは日光で食べた天然氷のかき氷

― 天然氷と出会ったきっかけを教えてください。

施設に設置された、保存用の巨大な冷蔵庫。

これまで、造形業や運送業、警備業、病院経営など、多種多様な会社を経営してきました。ある日、日光でゴルフを楽しんだあと食事をしていると、店主から天然氷のかき氷を勧められました。私は、あまりかき氷は好きでなかったのでお断りしたのですが、「天然氷でおいしいから、ぜひ食べてみて欲しい…」と言うのです。勧められるままに食べてみると、それが驚くほどおいしかった。あまりのおいしさに、その後は直接かき氷屋さんに通っては大量に購入し、毎日のように食べるほどでした。おいしさを共有しようと、沖縄に住む友人にまで送ったりもしました。

その当時、天然氷は今ほどの人気はなく、かき氷屋さんも閑古鳥が鳴いたような状況でした。そこで、関連会社が運営していた喫茶店でも天然氷のかき氷を提供したいと考え、仕入れの相談をしたところ快く受けてくださったのがはじまりです。

― はじめは仕入れた天然氷で、かき氷を提供していたのですね。そこから、ご自分で天然氷をつくるに至った経緯はなんだったのでしょう。

喫茶店で天然氷のかき氷を注文し、その美味しさに感動された、とある施設の職員さんから、「子どもたちにも食べてもらいたい。ぜひ、施設まで来てくれないか。」と相談をいただきました。そこで、ボランティアでお伺いすると、50~60人いる子どもたちが、一斉に「おいしい!!」と大喜びしてくれました。おいしいものを食べたとき、人は誰しも笑顔になるもので、天然氷に大きな可能性を感じた瞬間でした。

その時は仕事が忙しく何も考えらませんでしたが、数年経ちリタイアしたタイミングで、これから何をしようかと考えたとき、子どもたちの笑顔が蘇ってきました。、そこで、天然氷をつくろうと決意したんです。

水の性質を理解して、柔らかく口どけのよい良質な氷をつくる

― まずは、どんなことから始めたのですか。

プールには、透明度の高い地下水で満たされている。

おいしい地下水が豊富にあり、冬の気温が氷づくりに適している場所を探しました。過去の全国の気温を調べて、少し寒すぎる傾向がありましたが、地球温暖化の影響や、施設の工夫次第で対応できると考えて、この地域に決めました。

はじめは、自然の中に25mのプールを6個つくり川の水を引いて水を張りました。見事な氷が出来上がりましたが、カットしてみると小さなゴミが含まれておりとても売り物にできるものではありませんでした。天然氷とはいえ、食べものとしての衛生面はしっかりと考慮しなければなりません。そのためプールをすべて壊し、衛生面に配慮した石灰を敷いたプール、コンクリートを敷いたプールを新設しました。また、屋根の設置、ビニールハウスの設置、さらには鉄骨の建物を施工することなど試行錯誤を繰り返してきました。氷を切り出す際にも、直接氷の上に乗ることなく作業出来るよう機械を設計するなどの工夫も施しています。

― そもそも天然氷のおいしさとは、どこから生まれるのですか?

オリジナルで設計された、氷切り出し機。

天然氷とは一般的に、自然環境下につくったプールに、地下水などを引き込んで、自然の寒さでゆっくりと水面から凍った氷のことをいいます。一方、家庭の冷凍庫などでは、マイナス18℃前後で急速に冷却して氷をつくります。

水の中には不純物が含まれていますが、ゆっくりと冷却すると水分子同士がしっかりと結合し不純物を押し出すため、不純物のない透明感のある美しい単結晶になります。すると、水分子が六角形の網目をつくり乱れなく並んで一体化し、分子間の隙間がなく溶けるスピードがゆっくりになります。また、柔らかさを兼ね備えるため、砕くとふんわりとした口どけになります。一方、急速に冷却した氷の場合は、多結晶となり溶ける速度が速く、ジャリジャリとした食感となります。

― 結晶の違いだけでなく、不純物をなくすことも大切なんですね。

蔵元「不二」の天然氷は15cmの立方体で販売されている。

水は、4℃以下になると軽くなり表面に浮いてきて、0℃になると凍りはじめます。その際に水深が浅すぎると、不純物を含んだ水の逃げ場がなくなってしまいます。ですから、プールにはある程度の深さが必要です。蔵元「不二」では15cmの立方体で氷を販売するために、水深70cmのプールを使用しています。水深が深くなるほどに、氷が出来るまでに時間がかかりますが、試行錯誤した結果、(15cmの立方体で)良質な氷をつくるのに適した深さだと考えています。

自然エネルギーを利用して、安定的な生産を実現させる

― ゆっくりと冷却するための施設は、どのような仕組みになっているのでしょうか。

ビニールハウスの建物内。

蔵元「不二」では、天然氷であるからと自然に頼りきるのではなく、自然のエネルギーを最大限に利用して氷を製造しています。

現在は、ビニールハウスと鉄骨製の施設の2棟を使用しています。どちらも施設の外部には、暑い日差しを避けるため90%遮光できる可動式ネットを設置しています。これだけでも、施設内の温度の急激な上昇を抑えることができます。

ビニールハウスでの経験をもとに改善を加えたのが、断熱強化をした鉄骨製の建物になります。細かな埃も入りにくく、日差しの影響も受けにくくなりました。また、天井や壁には断熱材を入れているため、プールに冷たい地下水を溜めることで、夏でも室内をひんやりとした気温を維持することができます。

さらに、地熱の影響を受けにくいよう床面にも断熱材を入れています。

― 試行錯誤を繰り返しながら、施設の設計もアップデートを繰り返しているのですね。

天井からぶら下がるウレタン製の断熱材。

この数年、真冬でも昼間の気温が10度を超えることがあることから、安定した氷づくりが出来るように試みていることがあります。熱伝導性を高めるためにプール全面をステンレス板で覆い、そして、ウレタン断熱材とアルミで造作した蓋をプールに設置したことです。氷が解けないように、昼間の必要な時間帯だけ冷房することを考え、この蓋をウインチで下げ冷房範囲を狭めるという作戦です。

また、氷は温度の変化に大変デリケートです。凍る過程で氷が膨張することで、氷に亀裂が入ってしまうことがあります。そのため、コイルヒーターをステンレスの周囲に埋め込み、周囲の氷だけを溶かすことでひび割れを防いでいます。すべて自分で設計して、可能な限り手作りしたものです。自ら手を動かし、効率を考えることで、より良いものを作ることに繋がると考えています。

さらに、科学的な視点を持つことも大切です。少し前に、氷の研究者の方に、2棟の施設でつくった氷の分析を依頼しました。すると、ステンレス張りの貯水プールでつくった氷から、多結晶化している部分が見つかりました。ステンレスを用いることで効率よく水を冷やすことができますが、伝導性の高い性質上、冷えるのが早すぎたり、氷層下の水温まで低くなってしまっているのかもしれません。。今は、コイルヒーターを埋め込んだステンレスを残し、その他のステンレス板は取り外そうかと考えています。

また、冷房に使う電力を、この建物内で賄うために屋根に太陽光発電パネルを設置する計画もあります。この建物では、試行錯誤を繰り返しながら、自然環境に左右されることのない、天然氷に勝る「極み氷」を作ることを目指しています。

目的は地域の資源を活用すること

― 自然エネルギーを活用することで、さらに良質な天然氷をつくっていくという発想はたいへん興味深いです。OMXでは自然と共生するパッシブデザイン、つまり自然の力を活用する考え方がありとても共感するところがあります。

富士山を望む山中湖畔。

氷をつくるには、膨大なエネルギーが必要です。しかし日本全国には、自然エネルギーを活用しながら天然氷をつくれる可能性のある場所がたくさんあります。例えば、冬の寒さが厳しく農業が出来ない地域で氷づくりができれば、新しい地域の産業に成り得るかもしれません。そのためには、農家や農協と一緒に取り組むことも大切です。

ある市町村が、自然エネルギーの利用目的で視察にいらしたことがありました。しかし、その市町村では間伐材が利用されず廃棄物となっていました。まず、すべきことは間伐材を利用したバイオマス発電であり、余剰電力があれば天然氷をつくるべきだとご提案させていただきました。

今、日本の各地域で過疎化が進んでいます。また、若い世代の人口減少は顕著です。その中で魅力ある地域として生き残るには、自然エネルギーの活用が大きな役割を果たす可能性があります。しかし、そのためには独自性があること、地域と連携していくこと、他と競合しないものを生みだしていかなければなりません。

― 人にも地球にも負担をかけず、持続可能な社会を実現していこうということですね。

天然氷をつくることで儲けるだけではなく、地域と連携し未来の子ども達のためにもCO2を削減しながら、産業として取り組むことが必要です。そして、儲かったお金はボランティア活動に充てることで、社会的な循環が生まれます。

蔵元「不二」では定期的に、施設の子どもたちにボランティアでかき氷を届けるイベントを実施しています。子どもたちに、おいしい果実から作った天然のシロップをかけた本物のかき氷を味わって欲しい。しかし、定期的なイベントのためだけに食材を仕入れることは難しく、継続的なシステムを実現するために東京都昭島市にカフェをオープンさせました。

― 継続的な関係性を構築するためにカフェをつくったというのは驚きです。

今、農業は担い手不足に悩んでいます。そこで果樹園でのフルーツ狩り体験と、果実で作られたシロップと天然氷のかき氷を提供するツアーを旅行代理店と一緒に計画しています。障がい者施設の子ども達やボランティアの協力も得ながら、地域の産業として仕組みをつくっていけば、カフェ単体での経営が赤字でも意味があるものになります。

― 一つの事業を成功させるためには、地域の農業や、環境、そこに暮らす人々が、お互いに助け合い健全であることが必要なのですね。私たちの考える家づくりと少し似ているかもしれません。

また、氷は食べることで体内に溜まった熱を奪う効果もあると言われます。氷を食べることで、熱中症から人を守ることが出来る可能性を秘めているのです。天然氷は人気で儲かる以上に、本当に必要とされている場所に届けられるポテンシャルを秘めた産業だと考えています。

季節限定の宮崎産マンゴーのかき氷。カフェ不二にて。

文:小高 朋子写真:樋口 晃亮編集:MULTiPLE Inc.

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