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陶芸と熱量の関係を探る
心地よいうつわが生まれるまで

温度

陶芸

PROFILE

水野幸一(みずの・こういち)

焼き物の街、岐阜県土岐市で、製陶業を営む家庭に生まれる。1996年、大阪芸術大学美術学科陶芸コース卒業。その後、王立デンマークデザインスクールに留学し、クラフトデザインを学ぶ。1998年に帰国し、同年土岐市にて「陶房一窯」を開窯。現在に至るまで作陶を続けている。

日本人の暮らしの必需品であるうつわ。土をこねて成形し、熱を加えることでできあがる陶磁器は、私たちの生活に馴染み深い日々の道具です。日本有数の焼き物の産地、岐阜県土岐市で「陶房一窯」を営む水野幸一さんは、陶芸には責任のある温度があるといいます。作品をつくるうえで必要な、陶芸家にとっての温度とは?陶芸と温度の関係性について伺いました。

窯のある町に生まれ、陶房を構えるまで

― 20年間、作品づくりを続けられていますが、もともと陶芸を志したきっかけはなんだったのでしょうか。

土岐市は陶磁器の街として全国的に有名で、僕の実家も製陶業を営んでいました。生まれたときから、いたるところで窯の温度を感じることができたので、焼き物は身近な存在でしたね。今と違って昔は共同窯というものがあって、焼き物をする人たちは、みんなそこで焼いていたんですよ。

僕は、そういった環境もあって陶芸の道に進むことになり、美大を卒業後、デンマークに留学してヨーロッパのデザインも勉強してきました。滞在中は、日本との感覚の違いに戸惑いつつも、うつわを暮らしのなかでどう表現するか模索していたように思います。2年半滞在しましたが、最後の半年でやっと土をこねることができました。

― 帰国後は、この場所で開窯されたんですね。

帰国後、父からは「窯だけはつくってやるから、あとはなんとかしろ」と言われていたので、家業には入らず、いきなり独立してスタートすることになりました。最初は、焼き物を極限まで薄くするなど、嗜好性の高い作品づくりをしていましたね。

あるときから、うつわと料理のイベントをはじめたんです。毎月3種類お酒を選び、お酒に合う料理を考え、料理を引き立たせるうつわをつくる。それを続けているうちに、料理人の方々と一緒になる機会も多くて。彼らから料理の理屈を教えてもらったんです。

― 料理の理屈。具体的にどのようなことでしょうか。

京都の料亭で出た話なのですが、あるうつわを取り上げて、これが5mm大きくても、3mm小さくてもだめだと。大きいと香りがにげる、小さいと香りがこもる。だから、うつわには料理ごとの最適な形があるという話でした。そして、自分で実際につくってみると、たしかにそうなる。料理をする方の視点を取り入れたことで、だんだん自分のつくるべき焼き物のイメージが固まっていきました。

― 料理とうつわに、最適なバランスがあるということですね。ちなみに、気温の変化が大きい日本の暮らしのなかでは、うつわはどのように使われてきたんでしょうか。

実は、日本のようにうつわの多様性がある国というのは、世界的にも珍しいんです。その理由として、よく言われるのは日本の食文化です。うつわを持って食べるのは、日本人くらいなんですよね。料理が身体と近いんです。

四季ごとの素材で調理法が異なったり、それに合わせて、うつわに季節感を持たせる。さわやかな青磁は夏、厚みのあるうつわは冬など、景色や気温の変化で使用するものも変えていくのは、日本人ならではの感覚だと思います。

土をうつわに変化させる「責任のある温度」とは

― 陶芸というと、土をこねて焼くというイメージがありますが、実際にはどのようなプロセスでつくるものなんでしょうか。

僕がつくっているやりかただと、土を仕入れてブレンドして、生地をつくる。その後、ろくろを使って成形して、乾燥してから、「素焼き」と呼ばれる工程に入ります。700〜800度程度まで焼くのですが、素焼きをすることで、土が水に溶けなくなるんですよ。

― 粘土質だった土が、変化するということですね。この素焼きまでは、どんな変化があるのでしょうか。

実は、この過程で大事な温度が3つあります。僕が思う一番重要な温度は、573度。これは「土からうつわに変わる温度」なんです。陶芸家にとって、責任のある温度といえます。それまでは土だったものが、この温度に達したら土ではなくなってしまう。

一度うつわになれば、土に戻そうとすると、何万年もかかってしまいます。焼き物ということで、二酸化炭素も出して地球に負荷をかけてつくっていることでもあるので、この温度になると、自分のつくるものに責任を持つということを意識させられますね。

― 573度で覚悟が決まるわけですね。他の2つの温度はどういったものなのでしょうか。

最初に変化が起こるのは約430度で、生地が膨張し始める温度です。ただ、この温度まで慌てて上げてしまうと焼き物にヒビが入ってしまうため、適切な時間をかけて温度を上げていく必要があります。

もうひとつ。600度も重要な温度です。焼く過程で徐々に水分が抜けていきますが、完全な乾燥状態になるのが600度前後。素焼きは、このプロセスを経て焼きあがります。厚みがあるものは毎時50度ずつ上げるなどして、各温度で維持する時間の長さを決めていきます。

― そういった温度と時間は、何か法則はあるのでしょうか。

陶芸には、科学的な部分も多いと思います。たとえば、このくらいの厚みのうつわで600度を維持する時間は何時間と、おそらく数式はあるのでしょうけど、季節や湿度の影響もあるので、自分のデータを信じています。どの温度でヒビが入った、などサンプルを何度もつくって調べることが多いですね。

祖父が言っていた言葉に、「1焼き、2土、3細工」というものがあります。まずは、ちゃんと焼かないといけない。次に材料の品質、最後に細工の順で大切だという意味なんです。それくらい、陶芸の世界では「焼き」の温度管理はシビアなんだと思っています。

「熱量」という陶芸と農業の共通点

― 素焼きを終えると、いよいよ本格的に焼く工程に移るのでしょうか。

素焼きの後は、耐水性を高めるために「釉薬(ゆうやく)」と呼ばれるガラス質のコーティングをして、1,200度以上の熱を加える「本焼き」に入ります。釉薬は、鉱物や木を焼いてできた灰をベースに、銅や鉄などの発色する成分を混ぜてつくります。混ぜる物質によって融点が異なるので、釉薬が溶ける配合をしてあげることや、窯の温度調整で、素材の発色や表情が変わってきます。

僕の場合、陶器は1,230度まで、磁器は1,280度まで熱を加えることで、焼き締まるようにつくっています。このときに面白いのが、焼き物と農作物との共通点なんです。たとえば、大根などは種をまいて収穫時期まで、太陽光の熱を浴びている積算温度は1,230度ほど。これは、陶器を焼き締める温度と同じくらいなんです。農作物も焼き物も、要は「どれだけ熱量を与えられたか?」と捉えることができます。いい天気に恵まれた年は、農作物が早く収穫できたりしますよね。これは熱量の差によるものなんです。このことを知ってから、陶芸も農業なのだなぁ、と思って畑を始めたんですよ。

― 陶芸と農業の共通点があるのは意外でした。熱量が大事な要素なんですね。

そうなんです。焼き物の窯の中にどれだけ熱量を行き渡らせるか、酸素量×温度×時間で、決まってくる部分が大きいですね。釉薬が溶け出すのが1,160度くらい。そこから発色が始まります。陶器だったら1,230度までの70度の幅の中で、どこで火を止めるかという駆け引きになります。焼きかたの方法に「還元焼成」というやり方があるのですが、これは窯のなかの酸素量を意図的に減らして、釉薬に含まれる銅などの酸化物を変化させる働きがあるんです。

その働きのおかげで、思いもよらない色が出ることもあります。狙った通りのいい色が出ることもあれば、ちょっとした手違いで逆にくすんでしまったりすることもあります。窯の中の酸素や熱量調整を自分の手で行い「うつわに最適な環境をつくる」という点が、焼く工程で一番難しく、技術が求められる部分です。そういった意味では、家の中に快適な空気を行き渡らせるOMXとも似ている部分がありますね。

他にも、冬と夏では空気密度が異なるため、酸素量が変わります。また、液化天然ガスにも夏ガス、冬ガスと呼ばれる違いがあるんです。さらに湿度も要因のひとつ。そうなると、温度管理は窯の温度計だけで測るものではなく、実際の経験と勘がなによりも大切になってきます。

心地よさを感じるうつわとは

― 焼き物に対する美しさや心地よさ。水野さんはどう考えていらっしゃいますか。

感覚的なものかもしれませんが、包まれる感じが心地いいのかな、と思っています。実は、人類が最初に作ったうつわは、手のひらふたつ合わせたものと言われているんです。ふたつ合わせると、お椀のような形になりますよね。

だから、持ったときに手のひらで包まれる感じを意識しています。軽いとか薄いではなく、感覚的な心地よさなのかもしれません。四角くても丸くても、収まりがいい。でも、それを作為的にすると、いかにも!となってしまうので、どれだけ使う人に意識させないかというのも大切です。同じうつわの80gでも、下の方に重心があると重く感じますが、重心を上に持ってくると軽く感じるなど、受け取り方は変わってきます。このとき、想像と感覚の差がないと心地いい。意識させない心地よさ、というのは快適に暮らしていく上でも大切なことですよね。

― 均一なものをつくり続ける、というよりも、使う立場を考えた心地よさの追求ですね。

たとえばタイルなど、産業として機械生産している陶磁器もあります。ベルトコンベアで運んで、このポイントで温度を上げて、と全部コンピューターで制御して、トンネル窯と呼ばれる窯で焼く方法が一般的です。この場合は工業製品として、均一なものを大量生産できるのが特徴です。

ただ、この方法だと偶然すばらしいものができる、ということは非常に稀です。自分の手でつくっていると、ときどき、自分の腕を超えた「窯の神様が降りてきた状態」で焼きあがることがあります。研究を重ねてデータを取ってつくる焼き物と違って、手でつくっているからこそ偶然生まれるものがあるんです。それを再現しようとしてできたものが、お客さんに気に入ってもらえることもあるので、陶芸は面白いですよね。

画一化したものや、違和感のあるものをつくるのは、簡単だと思います。意識をさせない、心地いいものは消化に時間がかかるんじゃないでしょうか。なんだかよく分からないけれど、心地いいよねと。暮らしにぴたっとあてはまるニュアンスがある。そんなうつわづくりを、これからもしていきたいなと思います。

文:白石達史写真:オモテモモカ編集:MULTiPLE Inc.

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