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体温、血流、疲労回復、免疫力向上……
入浴がもたらす本当の効果とは?

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入浴

PROFILE

石川泰弘(いしかわ・やすひろ)

昭和37年12月9日生まれ。株式会社バスクリン広報責任者。博士(スポーツ健康科学)、温泉入浴指導員(厚生労働省規定資格)、睡眠改善インストラクター(日本睡眠改善協議会認定資格)の資格を持ち、現在順天堂大学大学院スポーツ健康科学研究科で協力研究員としても在籍。お風呂や睡眠、スポーツに関して深い知識をもち、日々の疲れをとって健康なからだをつくるためのアドバイスが好評。著書に「たった一晩で疲れをリセットする睡眠術」(日本文芸社)や「お風呂の達人 バスクリン社員が教える究極の入浴術」(草思社)など多数。

「お風呂好き」と言われる日本人ですが、東京ガスが2015年に発表した調査によれば、近年、シャワーだけで入浴を済ます人が急増しており、湯船につかる人は減少する一方。特に、若年層においてその割合は拡大しており、なんと、20代のシャワー入浴派は4割にも増加しています(「現代人の入浴事情 2015」)。しかし、しっかりと湯船につかることは、リラックス効果だけでなく健康面にも効果があると語るのが「お風呂博士」としても活躍する入浴剤メーカー・株式会社バスクリンの石川泰弘さん。体温を上昇させ、血液の循環をサポートし、深い眠りに導くという入浴のメカニズムとは、いったいどのようなものなのでしょうか?

熱いお風呂は「間違い」!?

― 石川さんは「お風呂博士」として、お風呂の魅力や効果をメディアや講演などで多くの人に伝えています。お風呂は、身体に対してどのような効果を与えるのでしょうか?

お風呂に入ることによって、お湯に温められて体温が上昇しますよね。それに伴って、身体の機能が高まります。具体的には、栄養を吸収したりエネルギーを生み出したりする酵素が活性化され、白血球の一種であるマクロファージが活発になるために免疫力が向上する。また、細胞を修復してくれる働きのある「ヒートショックプロテイン」というタンパク質の増加も見込めるんです。一日一回の入浴によって、身体が持つ自然の機能が引き出されていくんですよ。

― 湯船につかり身体を芯まで温めることは、免疫力をはじめ、さまざまな面で健康に効果的なんですね。

入浴と同様に、運動をすることによっても体温が上がりますが、運動の場合は身体に負荷もかかってしまうし、なかなか手軽に行うことも難しい。その点、入浴は家の中で誰でも手軽にできますよね。手軽で簡単に健康的な効果を生み出してくれるんです。

― 体温を上げることによって身体の機能が活性化するということは、やはり熱いお湯であればあるほど、健康にも効果的なのでしょうか?

いえ、そうではありません。我慢して42度程度の熱いお湯につかるほうが効果的と思ってしまいがちなのですが、健康面においては必ずしも効果的ではないんです。熱いお湯に数分だけつかるような入浴法は、温まった気分になるだけで、身体の芯にまでしっかりと熱が届いていない。ステーキで言えば「レア」の状態ですね。

― では、健康のためには何度くらいのお湯につかるのが適切なのでしょうか?

最適な温度には個人差があるので一概に言うことはできませんが、冬であれば40度くらい、夏なら38度くらいがひとつの目安になります。この温度に設定してみて、自分の身体が「気持ちいい」と感じたらそれが最適な温度だし、少し寒いと思ったら1度ずつあげてみる。そうして見つけた「自分にとっての心地いい温度」がいちばん適切な温度なんです。我が家の場合、妻が熱いお風呂を心地いいと感じるタイプなので、お湯の温度は41度くらいに設定されていますが、私自身が入るときには、38度くらいに下げて入浴しますね。

― あくまでも大切なのは「自分にとっての心地いい温度」なんですね。

実は、お湯の温度については、気にしない人がとても多いんです。今は、ボタン一つで設定できるお風呂が普及しているはずなのに、夏なのに冬の温度設定のまま我慢して熱いお風呂に入っている人はかなりいます。感覚値ですが、温度に気を配りながら入浴している人は、全体の20%程度といったところでしょうね。けれども、昼間は仕事で我慢しているんだから、お風呂くらいは快適な温度でのんびりと入ることが大切ですよ(笑)。

― 快適な温度に調節した後は、どれくらいの時間を目安として湯船につかればいいでしょうか?

私の場合、毎日20分は湯船につかるようにしています。しかし、それでは長すぎるという人は、10分でも大丈夫。人間の血液は、およそ1分間に1回循環します。10分入浴することで、10回循環させれば、身体の芯まで温めることができますね。

トップアスリートも実践する入浴の効果

― 近年では、浴槽につかることなく、シャワーだけで入浴を済ます人も増えていますね。シャワーで得られる効果と、入浴で得られる効果とはどのように違うのでしょうか?

シャワーとお風呂との決定的な違いは血液循環です。お風呂では水圧がかかり、心肺機能が高まります。また、体温が上がることによって血管が開き、血液が流れやすくなる。シャワーだけでは、身体の内側まで温まらず、血液循環を高める効果がないんです。

― 湯船で温まるというのは、血液の循環にもいい効果を与えるんですね。

また、衛生面でも湯船につかることは効果的です。食器でも水やお湯に浸けておく「浸け置き洗い」は、水やお湯で汚れを分解しますよね。それと同様に、人間の身体もお湯につかることによって、毛穴に詰まった皮脂などの細かい汚れが落ちていき、細部までしっかりと清潔になれるんです。

― では、「シャワー入浴」とともに近年増えている半身浴についてはいかがでしょうか?

半身浴については、肺や心臓の弱い方に対しては有効ですが、そうでない人に対してはその効果に少し疑問がありますね。入浴の効果には大きく「浮力」「水圧」「温熱」があります。しかし、半身浴によって「水圧」と「浮力」が弱くなることによって、入浴の持つ効果は減ってしまうんです。お風呂の持つ効果を最大限に引き出すことを考えれば、肩までしっかりつかる全身浴のほうが効果的でしょうね。

― 心地よい温度のお湯に10分間肩までつかる、というのが健康にとっていちばん効果的な入浴法なんですね。ところで、石川さんが所属するバスクリンで開発している入浴剤にも、血行促進などの効果があるのでしょうか?

はい。お風呂の効果を高めるものが入浴剤なのですが、入浴剤にもいくつかタイプがあるので、用途によって使い分けるのが大切です。炭酸ガスのタイプはお湯に溶け込んだ炭酸ガスが皮膚を通して血管に入っていき代謝機能を高めるので、血行を促進するし、粉のタイプは保温が基本機能になる。一方、液体タイプは、保湿効果がメインです。それぞれの入浴剤によって狙った効果が違うので、症状や目的にあったものを使ってほしいですね。

― 以前の記事で株式会社イワタの岩田有史さんにお伺いしたところ、睡眠は、一日の体温リズムに深く関わるというお話でした。入浴し、浴槽につかることは、体温のリズムにも関わりがあるのでしょうか?

はい。入浴と睡眠はとても深い関係があるんです。お風呂に入ることで体温は急激に上昇しますよね。上がった体温が、入浴後にはゆるやかに体温が下っていくことで、睡眠に向けて準備ができる。そんなリズムが生まれることで、睡眠の質が向上し、疲れがよく取れるようになるんです。「お風呂に入って疲れを取る」と言われますが、お風呂で取れるのはあくまでも気分的な疲れ。お風呂は、疲れを取る準備をするための場所であり、お風呂と睡眠はセットになっているものと考えたほうがいいでしょう。「明日は大きなイベントがある」「明日は大事な仕事がある」という場合、早く寝る前に、しっかりとお風呂に入るべき。前日のお風呂でいかに疲れをとる準備をするかによって、翌日の動きが違いますよ。

― 石川さんは、スキージャンプの高梨沙羅さんや、レスリング女子の伊調馨さんをはじめ、さまざまなトップアスリートに入浴の指導を行っています。お風呂につかることは、アスリートのパフォーマンスにも大きな影響を与えるのでしょうか?

睡眠が深くなることによって前日の疲れが取れ、試合でのパフォーマンスが向上します。それに、怪我もしにくくなりますよね。あるメジャーリーグの関係者に教えてもらったのですが、メジャーリーガーは、球場に来て、一番初めにやることはお風呂に入ることで、それから練習を始めるそうです。筋肉の端の部分である腱(けん)は、熱に弱いコラーゲンが主成分となっており、温めることによって関節の可動域が広がります。それによって、ケガの予防ができるんです。

― 入浴が健康面にも高い効果を発揮する一方、入浴の効果を無視するとどのような弊害が考えられるのでしょうか?

近年、低体温の人や夜眠れない人が増えていると言われています。そういった症状を持つ人の中には、浴槽につかる習慣のない人が多いんです。また、免疫力が低下して風邪を引きやすくなることも考えられます。

特に、親がちゃんと子供をお風呂に入れることはとても大切な習慣だと思いますね。免疫力が向上し、子供の身体が健康的になるだけでなく、入浴の経験が次の世代にまで受け継がれる。子供の頃からしっかりとお風呂に入れば、その子供が親世代になったときに「子供をちゃんとお風呂に入れなきゃ」と考えるようになります。そうして、健康にいい入浴の文化が受け継がれていくんです。

温度差をなくして、快適な生活を

― 心地よい温度の湯船につかることによって、血行が促進され、体温が上昇します。では、お風呂に入る前、出た後の温度管理についてはどのように心がけたほうがいいでしょうか?

特に高齢者の場合、冬にはヒートショックの心配がありますよね。行政でも、ヒートショックによる入浴中の事故に関する注意喚起していますが、これを防ぐためには脱衣所と浴室の温度差をなくしていくことがとても大切。特に高齢者は、血管がもろくなっているし、血圧の変動も大きいですよね。寒い脱衣所で服を脱ぎ、浴室の冷たい床を踏むことによって血圧が上がります。さらに、湯船につかることで外気温との温度差が血圧を上昇させ、その後、温められると血管が急激に開くことで血圧がぐんと下がってしまう。それによって、脳卒中や心筋梗塞を引き起こしているんです。

この事故を防ぐために最も重要なことが、できる限り温度差をなくすこと。特に、お風呂場や脱衣所は、北側につくられ、家の中でも特に寒い場所。近年、ユニットバスは進化しており浴室暖房も普及してきましたが、脱衣所の寒さ対策はあまり進化していないんです。ヒートショックのリスクを避けるためには、浴室や脱衣所に暖房器具がなければ、服を脱ぐ前にお風呂の蓋を開けて蒸気を出すのが効果的。それによって、室温をあげるだけでも事故は確実に減っていきます。

― では、お風呂から上がった後にはどのような温度管理が必要でしょうか?

まず、あまり冷やし過ぎないようにすること。寝付くときに最も快適な温度は、冬だと16〜17度、夏だと26度程度と言われています。その程度の室温で、身体が自然に冷えていくことに任せていけば、体温のリズムが快適な睡眠に導いてくれるはず。できれば、寝る1時間〜1時間半くらい前にお風呂から上がり、ゆったりと水分補給をしてリラックスをすることが理想的ですね。

― 忙しい現代人には、なかなか実践していくのは難しそうですが…。

具体的なメリットを感じられなければなかなか実行は難しいですよね。私自身も、この仕事をしていたにもかかわらず、若い頃はほとんどからすの行水という生活だったんです。

― お風呂博士も、かつてはお風呂に入らない生活を送っていた!?

それが変わったのは、冷え症を改善しようと思ったからでした。サーモグラフィで撮影をしても、指先が映らないほど体温が低かったため、ちゃんと湯船につかったらどうなるのかを試してみたんです。毎日20分間、浴槽につかる生活に変えたところ、2週間経つと、サーモグラフィに何かしら映るようになった。さらにもう2週間継続していったところ、指先までくっきりと映るようになったんです。人間の身体は、1回や2回の入浴ではなかなか変わらないのですが、継続していくことによってはっきりと変わります。このようにしてメリットを感じることができたからこそ、毎日継続して入浴する習慣が身についたんです。また、20分間入浴し、代謝が活発になっているからか、この年になっても「肌が綺麗ですね」と褒められることは多いですね。

― 冷え症の改善や、肌への効果などの、具体的なメリットを実感できれば、入浴習慣が身につきそうですね。生活の中でも、いかに入浴が大切なのかが改めてわかりました。

男性にも、私のように冷え症で悩む人も多いはずなのに「我慢すればいいや」と、思ってしまう人が多いんです。しかし、そういった人たちにこそ、入浴や入浴時の温度、そして部屋の温度についてもっと関心を持ってもらいたい。我慢することをやめ、快適な温度の環境を得ることによって、健康的な暮らしができるんですよ。

文:萩原雄太写真:フランコ・タデオ・イナダ編集:MULTiPLE Inc.

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温度睡眠

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温度?

coming soon

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coming soon