OMX

Facebook Youtube

SPECIAL

「人も菌も温度の波に適応して進化してきた」
発酵から考える、身体の合理性

温度

発酵

PROFILE

小倉ヒラク(おぐら・ひらく)

発酵デザイナー。「見えない発酵菌たちのはたらきを、デザインを通して見えるようにする」ことを目指し、全国の醸造家たちと商品開発や絵本・アニメの制作、ワークショップを開催。東京農業大学で研究生として発酵学を学んだ後、山梨県甲州市の山の上に発酵ラボをつくり、日々菌を育てながら微生物の世界を探求している。絵本&アニメ『てまえみそのうた』でグッドデザイン賞2014受賞。2015年より新作絵本『おうちでかんたん こうじづくり』とともに「こうじづくりワークショップ」をスタート。のべ1,000人以上に麹菌の培養方法を伝授。自由大学や桜美林大学等の一般向け講座で発酵学の講師も務めているほか、海外でも発酵文化の伝道師として活動。雑誌ソトコト『発酵文化人類学』の連載、YBSラジオ『発酵兄妹のCOZYTALK』パーソナリティも務めている。

しょう油に味噌、お酒に納豆……実に多彩な発酵食の文化を持つ日本。「発酵デザイナー」として世界の発酵文化を研究する小倉ヒラクさんは、日本特有の温度変化の波が、その多様性を生み出しているといいます。発酵と温度の関係、そして人間と温度の長い付き合いとは? 小倉ヒラクさんに伺いました。

温度変化の波が、日本の豊かな発酵文化を生んだ

―まずヒラクさんが発酵に目覚めたのは、どのようなきっかけだったのでしょうか。

僕はもともとデザイナーとして働いていたのですが、25歳くらいで体を壊してしまって。そんなとき、職場の同僚を介して出会った発酵学者の小泉武夫先生に「お前は免疫不全だ。発酵食品を食べろ!」と言われたんです。それで実行したところ、体調が本当に良くなっていったんです。

そこから発酵を勉強し始め「発酵デザイナー」を名乗るようになりました。もともと僕は文学部出身のド文系の人間でしたが、身体にいい!と実感して学びはじめた発酵って、実は生物学や化学などの理系の学問の分野に属するんです。なので30歳をすぎてから東京農業大学の研究生になって、改めて微生物の勉強をしました。

―今回のインタビューのテーマは「温度」なんですが「発酵は科学の分野」ということで、やはり温度も大きく関係してくるのでしょうか?

はい、発酵において温度はきわめて重要な要素です。発酵とは人間に有用な微生物(発酵菌)が働いている過程のことですが、微生物にとって快適な温度と湿度があるんです。だから、醸造元が醤油や味噌など製品をつくる過程というのは、温度や湿度をうまくコントロールしてあげているんですね。

さらに言えば、その変化もとても重要なファクターになります。僕の住んでいる山梨の家は、一日のなかの寒暖差や、四季の温度変化が比較的大きい場所にあります。すると豊かな生態系が生まれて、いろんな菌が住めるんです。

―梅雨時や夏はジメジメした気候に、冬には寒い気候に合う菌が現れる、ということですか?

そうそう。温度変化の波が小さい土地は生物相(※一定の地域に生育する生物の種類、生態系)の幅も小さくなるので、発酵食のバリエーションもそんなには多くならない。。四季があり、1日のなかの温度変化も大きいからこそ、日本の発酵食はバリエーションが豊かなんです。

昔から日本では、発酵食をつくる過程で季節の波をうまく利用していて。たとえば関西のほうでは春先にしょう油を仕込みます。すると、梅雨の蒸し暑い気候で微生物が元気になって、発酵がよく進むんですね。その後、秋冬で気温が下がり、湿度も下がってくると、菌の働きが落ちて、味が熟成されるんです。

―四季の温度変化と微生物の働きを合わせている、と。とてもよくできていますね。

お酒もそうですね。微生物がおとなしい冬の時期に仕込むことで、雑味をもたらす変な菌が入りづらくしている。だから、発酵に関わる人たちは、温度や湿度の変化にすごく敏感なんですよ。

人間は温度の波に適応して進化してきた

最近、酒蔵の温度管理をオートメーションから古いやり方に戻しているところが増えているんです。

なぜなら、機械で温度管理したお酒は、80点くらいまでしかいかない。そこから上のものをつくるには、手間はかかるけど人の手で管理してやる必要がある。麹って、高度に発達した生物なんですよね。つくる人との相性があって、アナログな熱のコントロールのほうがよいものができる。

―機械と人の温度管理の違いってなんなのでしょう。

菌にとっての「まあまあ気持ちいい」と「バッチリ気持ちいい」の判別が、今のところ機械では難しいんですよね。機械で「まあまあ」の酒はつくれるけど、120点の酒をつくるためには、そのときの麹にとっていちばんいい温度や湿度のポイントを探さなきゃいけない。

―菌にとって心地よい温度って、どのように探るんですか。

だいたいみんな「計って忘れる」って言いますね(笑)。データは全部とるんだけど、それだけでは決めない。数字だけで決めずに、杜氏(※お酒の醸造工程を担う職人、監督者)が麹と対話しながら探っていくんです。

もうひとつ、いい麹をつくるには温度の波が重要です。僕は麹づくりのワークショップを長年やってますが、そこではいつも「いい波をつくってください」と言っていて。そのときどきで適切な温度の波をつくってやると、麹がのびのび育つんです。科学的にいうと、温度変化が麹の持っている力を最大限に引き出す。温度が低いとき・高いとき、それぞれで働く酵素があるんですね。

―菌にとって心地よい温度の波を、つくり手である人も敏感に感じていたんですね。

ダーウィン的にいうと生き物は環境に適応して進化してきたわけですが、ずーっと温度が一定の環境って自然界にはありえないですよね。人間だってもちろん、初期人類の頃から考えると300万年くらい、温度の波がある環境に適応して身体をつくってきた。

生物にとって「気持ちいい」感覚って、実はすごく長い歴史があって身体のなかにデザインされているんです。なぜなら、自然にある温度変化の波を気持ちいいと感じた個体だけが、生き延びられたはずだから。

―たしかに考えてみると、生き物より先に、まず環境があったわけですよね。

だから、クーラーや機械で一定の温度が保たれた環境って、短期的には気持ちいいかもしれないけど、生き物本来のバイオリズムには合ってない気もしますよね。自然環境でいうと、「昼は温かく、夜は寒い」みたいに温度の波があるのが当然なので。

―その点、時間帯に合わせて快適な室温をつくるOMソーラーの「OMX」は、温度の波を技術で再現しているといえますね。

クーラーが静的に25度で一定の環境を保つのに対して、OMXは動的な温度環境をつくる。どちらも良い面はあると思いますけど、エネルギーの側面から見てよりサスティナブル(※持続可能性)なのは後者ですよね。ただ、気持ち良さにも2種類ありますから。

―と、いいますと?

温度の波がある環境が気持ちいいというのは人間の種としての気持ちよさであって、個人の好みはまた違いますよね。

たとえばファストフードって、種として好きな味覚なんですよ。アミノ酸や糖分の配合が計算されていて、美味しいと言わざるを得ない味。でも、一方で干し柿やなれ寿司みたいに「好きな人は好き」という味もある。この微妙な感覚が、人間のおもしろいところで、発酵分野の特性でもあります。結局は何をもって快適とするか、だと思います。

お腹の中の菌で、人間の体調は決まる

―そもそも人にとって発酵、つまり菌はどんなふうに重要なんでしょうか。

食物繊維がなぜ体にいいと言われるのか、って話がわかりやすいですかね。植物の葉や茎に含まれるのが食物繊維ですけど、人間には消化できません。なぜなら結合が固すぎて、人間の持つ消化酵素では分解できないから。でも植物の葉や茎って、実は糖分だと知ってましたか?

―え……? とてもそうは思えませんね。

意外ですよね。葉や茎は糖分が複雑に多重結合したものなので、人間には分解できないんです。でも、僕たちの腸内にいる細菌は、その結合をほどける。

ブドウ糖のような単純な構造の糖分は、人間が先に分解して吸収してしまいます。だけど、人間が分解できない複雑な糖分の化合物である食物繊維の場合は、腸内細菌が分解してエネルギーにする。腸内細菌は人間の代謝に関係していて、免疫システムを整えたり、体外に侵入してくる悪い菌をブロックしたりしてくれるんです。

―だから、腸内細菌の餌になる食物繊維をとることが体にいい、とされるんですね。

おにぎりも超やばいんですよ。ごはんを炊くと、お米のデンプンの分子結合がゆるんで、人間が吸収しやすくなります。でも、おにぎりにしてしばらくするとごはんが冷えますよね。

冷えるとまた結合が強くなるから、人間が吸収するのに時間がかかる。すると、時間がかかってるうちに腸内細菌が餌として食べられるので、お腹の中の善玉菌が増えることに繋がる。

ごはんを食べるときだって、自分のことだけ考えてちゃいけないんですよね。お腹の中の菌がどう生きてるかで、体調や性格まで左右されるって説もあるんです。

―体を温めるといいと聞いたことがあるんですが、それも菌の働きに関係が?

それは酵素ですね。人間の生体酵素って、36.5度あたりのときいちばんパフォーマンスが発揮されるんです。僕は「朝に味噌汁を食べてね」って言っているんですが、朝起きて1〜2時間の間に腸の代謝がいちばん高まるとされています。だから酵素のためにも、その時間に合わせて体温を36.5度まで上げてやるのがベストですよね。

味噌汁は温かいので、食べると当然、体温が上がります。さらに、腸内細菌の餌となる糖もたくさん含まれている。ということで、朝の味噌汁はおすすめですね。僕も毎朝飲んでますよ。

―体温を上げることも、菌にとっていい環境をつくることに繋がるんですね。

科学では説明できない身体性のおもしろさ

―そういえば、ヒラクさんの家にはクーラーがないですよね。

僕も妻もクーラーが苦手なので。ここは標高が高いし、ちょうど山風も吹きおろしてくるから、夏でも窓を開けて風を通してやれば快適なんです。

クーラーやエアコンがない時代は、そんな風に家の風通しをよくしたり、庭の植物を日よけや防風に使ったり、ランドスケープ全体で温度と湿度をコントロールしていた。よくできてますよね。発酵もそうですが、昔の人の温度と湿度に関する感性はすごいなと思います。

―温度計や湿度計がないのに、おいしいお酒やしょう油をつくることができていたわけですものね。

以前職人さんに、麹づくりでお米にカビをふるタイミングを聞いたことがあるんです。すると「触ったときにこんな感じがする温度」みたいな答えが返ってきて、すごい属人的な技術だなと(笑)。

―数字じゃなくて、感覚で計る。

お酒をどれくらいの時間かき混ぜるかも、時計がない時代は「仕込み歌」というものがあって、歌で計ってたんですよ。米の元気がないときは5番まで、今日は元気がいいから3番まで、みたいにしてたらしくて。

―なるほど。

これって身体的な合理性なんだと思うんです。僕たちの知ってる、再現性を重視した科学や合理性とはまた別のものですけどね。でも、結果おいしい酒ができてるから、たしかに合理性は存在するんですよね。

―身体的な合理性、ですか。

最新のAIの研究でも、身体性が注目されています。なぜならAIと人間の違いを考えたとき、最終的には身体性の有無に行き着くから。じゃあその身体性とは何かというと、個体によって受け取り方が違う、ってことなんですよね。

―ヒラクさんの転機は発酵食で体調を直したことでしたが、そんなふうに自分の体の受け取り方や感覚を信じることも大切なのかもしれませんね。

そうですね。先ほど「気持ちよさは2種類ある」という話をしましたが、快適さには、何万人のデータに基づく平均的な快適さと、個人にとっての快適さの2種類がある。前者はいわゆる近代科学や合理性で説明できますけど、後者はまた別の視点が必要になります。

発酵でも、近代科学の「再現性至上主義」が揺らぐ場面がいくつもあります。同じ材料で同じ人が酒を仕込んでも、日によってまったく違う味になるように、科学からはみ出しちゃうような、身体性にも通じる絶妙な塩梅がある。だって、いくら化学式が完璧であっても、うまいと思えなければダメなわけです。そういうことがおもしろいから、やめられないいんですよねえ。

文:友光だんご写真:きくちよしみ編集:横田大(Camp)

1

温度睡眠

3

温度入浴

4

温度?

coming soon

5

温度?

coming soon