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大分県杵築(きつき)市・植谷さん
1999年9月築
自然の恵みに感謝して、自然と一体感のもてる暮らしがしたい。
設計ファイル
眺望を大切に、大きな空間で自然をたっぷり取り込んだ家。

この家は、なんといっても眼下に広がる美しいオーシャンビューがひとつのポイントとなります。リビングからはもちろんのこと、キッチンからも、温泉の出る浴室からも、大きな開口部からダイナミックな景色が眺められるよう配置されています。間取りは仕切らず大きな空間となっていて、豊かな自然をたっぶりと吸収しています。
南に面した和室には、敷かれた畳が日焼けしないよう、また家の外と畳の部屋との間にワンクッション置くため板敷きの部分が設けられています。台所の横には、畑へと出入りするための土間と、野菜などを保管するためのOM対象外となる収納庫が設けられています。
吹き抜けに架けられた広めのスノコのキャットウォークは、花粉症で外に布団を干せない植谷さんにとって、絶好の布団干し場となっています。
【左】広めのキャットウォークは日当たりも風通しもよく、布団干しに最適。
【右】板敷きの部分は、畳の日焼け防止と、外と内との中継としての役目をしています。
【左】アプローチの石は、以前住んでいた家のもの。施主自らが運んで、切って敷いたそうです。
【右】段々畑を開墾した時に掘り出した石をきれいに積んで、土留めにしている。
建物概要
- 敷地面積:668.35m2
- 延床面積:161.54m2(1階:95.66m2、2階:65.88m2)

大分県杵築市植谷さんの家・平面図(クリックで拡大:35KB)
家づくりと暮らし
自然の恵みを活かし、感じ、楽しめる住まいを
瀬戸内海に向かって丸い鼻のように突き出した国東半島。大分県杵築市は国東半島の南、鼻の付け根あたりに位置する城下町です。植谷さんご夫妻のお住まいは、別府湾を見下ろす丘陵地に開発分譲された定住型リゾート住宅地の一角。
お訪ねしたのは、梅雨の中休み、気温35度近くにも昇った蒸し暑い日のことでした。にこやかに迎え入れてくださったご夫妻に、「どうぞこちらにお掛け下さい」と勧められ椅子に座ると、そこには視界いっぱいに広がる色鮮やかな木々の緑と美しい別府湾のオーシャンビュー。海からの涼やかな風が家の中を吹き渡り吹き出した汗をさっと拭い去ってくれました。そしてこの自然いっぱいの素晴らしい環境こそが、ご夫妻がこの土地を購入するきっかけとなったものなのです。
【左】眼下に広がる木々の緑と別府湾。よく晴れた日には四国が見えるそうです。
【右】自然が多い周りの風景に、植谷さんの木の家は、よく調和して溶け込んでいます。
植谷さんご夫妻がご結婚以来ここに移るまで住んでいたのは、コンビナートの中核とし、山口県徳山市。その市内でも、半径1キロ以内に駅やデパート、銀行まで大体のものは揃っているという商業地域です。
「昭和41年に実家の敷地内に建てられた家で、狭くて、夏は暑く冬寒い。堪え忍んで住んでいました」というその家。しかし山登りが好きで、自然を愛する旦那さんは、「外から遮断し家の中だけ快適空間をつくるというような自然環境に反するものは好まない」と、頑固にクーラーを使わなかったといいます。
ところが、「若いうちはともかく、歳をとって耐力が衰えてくると、主義主張を通すのも、そろそろ限界かな」と思いはじめたといいます。
日々繰り返される暑さと寒さとの闘い。そんな中でご夫婦が最初にOMソーラーを知ったのは、新聞の広告記事でした。「自然を利用して暑くもなく寒くもない、これこそ求めていたものだ」。ご夫婦は資料や本と取り寄せて研究し、見学会にも出かけました。「2階のトイレも家のどこに行ってもあたたかで、“OMってすごい”って思いましたね」。
家を建てるならOM以外には考えられないと惚れ込んだ植谷さん。次に目にとまったのが杵築市で売り出された温泉付きリゾート分譲地の広告でした。「見に来たらいっぺんで気に入って。大分県は母の出身地で親戚も住んでいて、よく知った土地でもありましたから」と、山口県から大分県へと移住を決めます。
さらに“住んだこともない土地に、住んだこともない家を建てるのだから、あらゆることを吸収したい”と、「ひまわり会」にも入会。全国各地の会員からの情報やデータも参考にして、家づくりに臨みます。
植谷さんご夫妻が実際に家を建てるにあたって提示したのは、「OM、太陽光発電、雨水利用、通風による採涼、眺望の効果的な取り入れ」などの項目と、そして「自然の恵みを活かし、感じ、楽しめる住まい」という精神的な柱からなるものでいた。「私たちは建築については素人ですから、間取りよりも先にまずは私たちが“どのように暮らしたいか”ということを理解してもらいたいと思いましたので」。
そうした植谷さんの要望を家というカタチにしたのが、近くの山で育った津江杉を利用した在来工法のOMの家です。「こんなに木をたくさん使った家になるとは思ってもいませんでした。OMの理論とこの柱や梁をダイナミックに見せる家の雰囲気、そしてこの土地の環境が合わさって、思っていた以上の家ができました」
【左】アプローチにも玄関脇の花にも、住まい手の手の温もりが感じられます。
【右】「小さく仕切らず、広くゆったり住みたい」という植谷さんの希望により、和室、リビング、ダイニングはひとつの大きな空間の中で一体となっています。

【左】吹き抜けは、冬は太陽の熱を、夏は海からの涼やかな風を、家全体に行き届かせてくれます。
【右】「こんなに木をたくさん使った家になるとは…」という植谷さんの家は、近くの山で育った津江杉がふんだんに使われています。
誰かがつくってくれたものでは、意味がない
植谷さんご夫婦は、海に向かってなだらかに下りる傾斜地に、夢だった家庭菜園として段々畑をつくられています。土地を購入した際、機械で整地するのではなく、自らの手で開墾する道を選びました。草を刈るのに2ヶ月ほど。それから土を耕し、ごろごろと出てきた大きな石を切っては運び、少しずつ種を蒔いては畑にしていく。それは家庭菜園というスケールをはるかに越えた大変な作業です。
「この住宅地は9割ぐらいが県外の方ですが、都会の生活をそのまま場所を移しただけという人もいます。ライフスタイルは人それぞれですが、でも私たちにとってはそれでは意味がない。畑も誰かがつくってくれたのではだめなんです。時間がかかっても、自分たちの手で、自然と関わりあいながらつくっていきたかったんです」
人工的なものに囲まれた都会で生活していたご夫婦。暑さ寒さも機械でコントロールしようと思えばできなくもない。けれど、「自分たちの便利さ、都合で環境をこわしたくない。太陽、風、雨、緑、自然の恵みに感謝して、自然と一体感のもてる暮らしがしたい」と望んだご夫婦にとって、家を閉ざし、自然に背を向ける町での暮らしは、確かに便利ではあるけれど、納得のいくものではなかったのでしょう。
「私たち2人は、どちらかといえば社交的な性格ではありませんが、ここに住むようになってから、いろんな人に話しかけたくなるような…ちょっと性格が変わってきたみたいです(笑)」
自然の恵みの中で人間も自然の一部だと気づかされ、さまざまなものに感謝する──大らかな自然の営み、寄り添う大地。そこに根付いた植谷さんご夫婦の表情は、太陽とともに、生き生きと輝いています。