vol.37 宮 晶子 「窓の魔法」

カルロ・スカルパが改修した元修道院の美術館「Galleria Nazionale della Sicilia」。カルロ・スカルパが改修した元修道院の美術館「Galleria Nazionale della Sicilia」。

美術館内部。

美術館内部。

窓の魔法

独立間もない頃、イタリアのシチリアを旅したとき、建築家のカルロ・スカルパが改修したパレルモにある小さな美術館を訪ねました。それは、中庭のまわりに小さな部屋がたくさん並ぶ、元々は修道院として設計されたものでした。建物の中へ歩みを進めていくと、部屋の入口がひとつ、またひとつと見えてくるのですが、その入口がまるで額縁であるかのように奥に作品がそっと置いてあるのでした。その前にくると一瞬、絵画を見ているような感覚になるのです。でももちろん、その中はくぐれて先にはやっぱり次の部屋があり、入ればまた異なる角度でじっくりと作品に向き合うことができるのです。

それは、2次元と3次元の間をいったりきたり、眺めることと、くぐること、が対象化されて自分の身体の中に織り込まれていくというような感覚でした。また、部屋の窓から見える空の景色がとても美しく、こころに残るものだったのですが、展示室をめぐり元来た中庭へ出るとふたたび、その窓の外がわの佇まいに出会います。それを眺めるとまた部屋の中から見た窓の風景が思いだされて、2次元と3次元、もっといえば4次元を行ったり来たりできるのでした。高いところにある窓なので実際には出たり入ったり、くぐったりはできないのですが、そんなふうに魂が浮遊して自由に出入りできる気持ちになるような窓なのです。

もっとも、窓が開いていればいつでもこんな風な感覚になれるわけではありません。改修前の修道院時代の写真には、たくさんの窓がただ雑然と並んでいただけのようでした。スカルパはその窓の位置や数、その窓周りの装飾まで、まるで元々そうだったかのように、さりげなく、しかし、まったく違う窓にかえていたのです。

開口部にかけられたこのスカルパの魔法が思い出されたのは、昨秋完成した小さな部屋が連なる住宅の設計をはじめたころでした。風景の中からただ一部を切り取るのではない、中にいながら外にいるよりも外のこと、外にいながら中にいるよりも中のことを意識してしまう、この「窓の魔法」のかけ方について、今後も考え続けていきたいと思います。

※掲載写真の本:『Carlo Scarpa und das Museum』(Chistine Hoh-Slodczyk/Ernst&Sohn)