vol.36 篠原 聡子 空間研究所

ディンデン団地にある宗教施設(タイ、バンコク)。ディンデン団地にある宗教施設(タイ、バンコク)。

ディンデン団地の住棟。ブリーズソレイユがファサードのアクセントになっている。

ディンデン団地の住棟。
ブリーズソレイユがファサードのアクセントになっている。

建築家の気づき

科研の共同研究に誘ってもらったのをきっかけに、古い団地を見て歩くことになった。そのフィールドワークの道道、居住者の住みこなし、カスマイズに、ハッとしたり、納得したりする楽しみをもつようになった。もう、取り壊されてしまったが、赤羽台団地の接地階の住戸、しかもダイレクトアクセスのその家には、道路に面してバラのからむ軽やかなゲートがつくられていて、そこをくぐると玄関のスティールドアは開け放されていて、代わりに網戸が玄関の結界をつくっていた。バラのゲートも玄関の網戸も、正式にはイリーガルなものだが、実に自然な欲求に基づいているように見えた。その住戸は高齢の女性の一人暮らしだったが、通りを挟んで向かい側が商店街だったこともあって、開け放しでも、物騒な感じはなく、そのバラのゲートが商店街との間にやんわりと境界をつくっていた。彼女は、知人が買い物の帰りにふらりと立ちよることがよくある、と話していた。

アジアの古い団地ではさらに、ユニークなカスタマイズが続々と登場する。しかし、こうした面白いことは、基本となる建築の計画や意匠とやはり無縁ではない。そもそも建築に、面白さを引き出す資質があるところにしか面白いことは起こらない、という気がしている。バンコクのディンデン団地では、一見同じようなアパートメントハウスが何十も並んでいるが、一際楽しげな外部空間の住みこなしを見ることができる一角には、住棟のアクセス方向が向き合って並んでいるという特徴があり、ファサードも軽やかなブリーズソレイユ(日よけ)がついてその中庭のインテリアになっている。そこには、宗教施設や食堂のような人々が集う施設がピィロティを埋め尽くしている。前述の赤羽のバラのゲートと網戸玄関も、ダイレクトアクセスという計画と道路から程よい距離があればこその設えであろう。住み手がそれに関わろうとする野心を起こさせるような、そんな家をつくりたいと、いつも思うのである。