vol.28 田中 敏溥 さん(田中敏溥建築設計事務所)|その場所に似合っている家

山と融合した田麦俣。

山と融合した田麦俣。

山と対峙する越中 桂。

山と対峙する越中 桂。

2枚の写真は、50年前、私が建築を学び始めた年の夏、岐阜と富山の県境にあった越中桂集落と山形の六十里越街道沿いにある田麦俣集落を一つの旅で訪ねたときのものである。

どちらも、豪雪地帯、養蚕農家、重層造り(三層・四層)、扠首構造という共通した条件をもちながら、集落として異なった姿を見せていた。

越中桂は急峻な山あいを歩く象の群のようにも見えた。大らかに山と対峙していた。田麦俣はなだらかな山の斜面を這うキノコのようにも見えた。優しく山と融合していた。

どちらの集落もその場所によく似合っていた。その場所に住み続けてきた人間の感性が造り出したものだと思う。場所には本来そんな力があると思っている。

その後、二つの美しい集落は、急激な高度経済成長のなかでその姿を変えた。越中桂はダムの湖底に沈み、田麦俣は新しい家が建ち並び昔の面影はない。

現在、日本の家づくりは多岐にわたる。各地の分譲地を見ると、地域工務店、ハウスメーカー、ビッグビルダーによってつくられた、いろんな工法、材料、形、色の家が建ち並び、いたるところ同じ姿の街が出来上がっている。多様化と均一化が混じり合って進行している。

個々の家は、断熱・気密・耐震・防火・防犯・各設備機器等の面では性能が高くなっているが、一方ではひとりよがりでその場所に似合っていない家が多くなっている。その結果、落ち着きがない街の景観がつくり出されつづけている。

これからの家づくりにとって大切なことは、その地域の文化や風土を知り、その場所の特性を読み解きながら、隣に気遣い、道と仲良くする案を考えつくりだすことだと思う。それには二つの敷地境界。隣地境界と道路境界の設いをどのようにするかに時間と予算を用意することだと思う。その実現には、街を美しく豊かにするという熱い思いとそれを実行する勇気が大きな力になる。

その街、その場所に似合っている家をつくりたい。