vol.23 澤岡 清秀 さん(工学院大学建築学部建築デザイン学科教授)

vol.23 澤岡 清秀 さん(工学院大学建築学部建築デザイン学科教授)

ブルーダークラウス野の礼拝堂 遠景。(撮影:澤岡清秀)

ケルンの南約50km。ヴァヘンドルフの農地に立つ小さな塔状の礼拝堂。地主のシャイトヴァイラーは神と大地に感謝して、15世紀のスイスの隠者、フリューエの聖ニコラウス(ブルーダー・クラウス)にこれを捧げ、設計をペーター・ツムトーに依頼した。112本のトウヒ材をテント状に建てかけて内部の曲面型枠とし、外形の五角柱を形成する型枠の間に1層50cmずつ分厚くコンクリートを流し込み、1年かけて24層12m高の中空の塔を打設した。その後、木製テント内部で3週間木炭を燃やし、トウヒ材を乾燥収縮させてコンクリートから脱型したという。

延々と続く畑地の先に、その薄茶色の塔は、空と疎林を背景にひっそり佇んでいた。 近づいていくと、その無表情な塔の壁面には、細かく波打つ水平線が等間隔にストライプを描き、直径1cmほどの小さな孔がポツポツと開いていた。窓はない。建物の周りを半周すると入口らしき二等辺三角形の金属扉があった。その上の小さな十字架が、この塔の血統を語っていた。

一歩中に入ると、とたんに暗い闇の世界に引き込まれた。洞窟のような暗がりに鈍い鉛色の床面がかすかに光を受けて奥へ誘う。ごつごつした手触りのコンクリート壁面は上の方で斜めに倒れ込んで、身体を両側から挟み込む。曲がりくねった通路の先のわずかな明りをたよりに進んでいくと、まるで食道からストンと胃袋に達したように、急に壁に包み込まれた広がりに出た。一組の中年夫婦が静かに上を見上げて立ち尽くしていた。

壁面をびっしり覆う煤けた突起状の縦線は視線を上へ上へと導く。その先にぽっかりと開いた奇妙な形の穴から見上げると、青空に雲が静かに流れていた。自然光が縦筋に沿ってふりそそぎ、神の恩寵のように洞窟の底に光を届ける。耳を澄ますと遠くに風の音がかすかに聞こえた。

数人入れば一杯になりそうな主室には、両の手に納まるほどの聖ニコラウスのブロンズ像が細い支柱の上に掲げられていた。壁には彼が隠遁場所に飾っていた瞑想のシンボル、真鍮の車輪。暗い壁面一面に点々と光っているのは、外壁から貫通する孔の先に嵌められたガラス玉の栓だった。鉛の床に置かれたランプとコンクリートの燭台上の蝋燭の灯りが唯一その空間に暖かい色あいを加えていた。簡素なベンチに腰掛けて瞑想にふける中年夫婦。その傍らにじっと座っていると、やがて私の中に熱いものがこみあげてきて身体の中を静かに満たしていった。

どれくらいそこに座っていただろうか?閉ざされた洞窟からゆっくりもと来た通路を辿り重い扉を開けて外に出た。晴れ渡った青空と野原は、前にも増して穏やかに眼前に広がっていた。