vol.22 トム・ヘネガン さん(東京芸術大学美術学部建築科教授)

vol.22	トム・ヘネガン さん(東京芸術大学美術学部建築科教授)

カンピドリオ広場
広場より市庁舎をみる。(撮影:野口昌夫)

古い友達のように何度でも訪ねて行きたい建物があります。才知あふれるそれらの建物は私を明るくし、いつも新しい何かを教えてくれます。例えば、ル・コルビジェ設計のパリ救世軍本部や、ポンピドゥ・センター。安藤忠雄の光の教会。ザウアーブルッフ・ハットンのGWSビル。グレン・マーカットのほとんどすべての建物。そして、ローマにあるミケランジェロのカンピドリオ広場です。

1981年に、私は奨学金を受けてローマの英国学士院に4ヶ月滞在しました。その間何度も、建物が両腕を広げる中へ勾配の緩い階段を上がり、この美しい「屋外の部屋」から市内の屋根が連なる景色を眺めたものです。ミケランジェロがローマの中心広場の設計を依頼された時、この土地は、遺跡彫刻が無造作に転がっているような未整地の丘で、建築様式も高さも違う二つの古い市庁舎が建っていました。そこで彼は、限られた建設費を活用するため工期を分割し、市庁舎の改築としては一つには列柱外廊、もう一つには外部階段を付け加えて立面だけを変更したのです。この最小限の工事により残った金で施主の要望にはなかった新たな細長い建物を敷地の北側に建て、三つの建物の中に新広場が形作られたのでした。

私は、ミケランジェロが芸術性だけでなく物事を実際的に解決することに優れ、さらにすべてを象徴的にぴったりと解決したことに驚かされたのです。広場の空間は、二層分の高さの柱で統一されていますが、これは初期のフレーム構造でもあり、回廊を作って組積造の壁へ間口の広い窓を開けるためのものでした 。また、奥の建物の前面に両側からの二つの階段を付け加えて二階玄関へのアクセスとし、階段の三角形の側面ではここに建っていたユーピテル神殿の破風を参照しています。楕円形の大広場は、中心へ向かって地面が 緩やかに盛り上がっていますが、ローマがその中心である地球の表面の曲面を象徴し、さらには、ローマ市の紋章の盾形に共鳴するものと考えられています。12 の頂点をもつ敷石のパターンは12 星座を表し、マルクス・アウレリウス帝の騎馬像を広場中央に設置することにより、ローマ皇帝が宇宙の中心であることを象徴させたのです。

世界の歴史は進歩の歴史であり、そして私たちは現代がその洗練の頂点にあると感じるものです。しかし、ミケランジェロの広場に立ち、彼の仕事が都市計画、構造設計、建設費の調整、プロジェクト・マネジメント、そして美的なものと象徴性をデザインに融合させたことを考えるとき、現代の我々の建築を知的に軽く感じ、我々の時代の自信は正当化されるのだろうかと思うのです。