vol.21 安藤 和浩 さん(アンドウ・アトリエ)

vol.21	安藤 和浩 さん(アンドウ・アトリエ)

住み手に訴える力:サラバイ邸。

95年に友人とインドを訪れた。溢れる人と動物、熱、光、におい、それらが生みだす喧騒に圧倒されながらデリーを離れ、チャンディーガルとアーメダバードを見て歩いた。そこで出会った住宅がその後18年の間、ことあるごとにリアルな映像として甦る。コルビジェが設計した2つの住宅が今なお主人を持ち、住まいとして活き活きとあり続けている様子が何より私の心に響いた。

ショーダン邸の内部に入ることはできなかったが、開放されたテラス側に回って生活の様子を垣間見ることができた。粗いコンクリートの屋根が1層分浮き上がり居住空間に差掛けられている。それまでブリーズソレイユもパラソルも環境から生活を守るパッシブな建築要素と思っていたが、そこに行ってみると全く異なる価値を体験した。コンクリートの格子や傘は環境の些細な変化に反応して住まいの表情を刻々と変え、自然と建築を結ぶ美しい情景を創り出していた。いつの間にか、庭を掃除していた少年とプールの縁に腰掛けていた私は、どの位時間が経ったのか分らなくなっていた。

サラバイ邸では内外を夫人に案内していただいた。住まいは水平に木々の中に広がっている。風の良く通る屋内は冷んやりと涼しく、ほどよい湿度が保たれている。木立と水面の反射で明るい庭はリビングの暗がりへ潤いを伴って優雅に映し出される。道程で見てきた乾いたインドとは別世界だった。プールの周りを歩くうちにレンガのヴォールトがコンクリート屋根の型枠になっていることに気づき、この家のデザインプロセスが解け出した。プールで冷えた空気と木々に包まれた庭の潤いをヴォールト架構で方向性を与えて家の奥へ導く。同時に14mにもなる奥行きで庭への眺めに眩しさを感じさせない暗がりをつくること。コンクリート壁で支持された滑り台は、親子の居住スペースを分節し、庭側からの通風の方向付を担っている。

灼熱の地で目にしたこれらの住宅は当時の限られた素材と技術で造られていながら、造形の美しさだけでなく、「ひとつの形」が住み手に対してパッシブにもアクティブにも働くように造られている。重ねられた幾つもの価値が長い間に徐々に溶け出し、家人にとっての愛着となり、永く生き続ける理由になっているのだと実感した。