vol.15 横内 敏人 さん(横内敏人建築設計事務所)

vol.15 横内 敏人 さん

アメリカ・エクセター図書館
約9m四方の平面をもつ中央の吹き抜け。宇宙を想わせるような象徴的な空間だが実際にはとても小さく、素材感も親密なものに感じられた。(写真提供:横内敏人)

それは不思議な感動だった。ガツンと頭をなぐられるような感動でもなく、背筋に電気が走るような感動でもなく、とても静かで、しかも確実に心が満たされていくのがわかるような気持ちだった。言葉で表すのは難しいが、この時に得たものは「近代建築でもこんな感動を生み出せるんだ…」という驚きでもあり、それ以上に「今日まで建築の勉強をして来て本当に良かったなぁ」という不思議な自信と誇りのようなものだった気がする。

ルイス・カーンのエクセター図書館と出会ったのは今から34年前の1978年、23才でアメリカに留学して初めての年だった。当時はポストモダニズムの最盛期だったが、自分はどうしてもその傾向になじめず、将来自分がどのような建築をつくっていくべきか迷いをかかえている時期だった。実物を見て確かめたいという思いから渡米し、むさぼるように近代建築を見て回ったが、見て落胆するものは多々あっても、心から感動するというものは見出せないでいた。この建築に出会ったのはそのような時期だった。

写真で知っていたカーンの建築には何か大げさで仰々しい印象を持っていた。しかしこの図書館は芝生のキャンパスの上で静かに、しかし毅然としてたたずんでいて、大げさにふるまうことなく、むしろ周辺のレンガ造りの建築群に溶け込むようにその外観はひかえ目でさえあった。そしてどこが入口かわからないほど抑制された玄関をぬけ、中央の吹抜けに至るが、その空間も予想に反してとても小さかった。にもかかわらず、ローマのパンテオンやイスタンブールのハギア・ソフィアのように宇宙の摂理を感じさせるような壮大な古典建築の質をそなえており、人間が真理を謙虚に学ぶための神聖な場所であることを静かに語りかけていた。しかもコンクリートと木とトラバーチンという何一つ特別な素材を用いることなく。近代建築が古典とあえて断絶することで自己を主張し続けることに疑問を感じていた自分にとって、このような建築が存在することを知り、何か胸のつかえが下りる気がした。自分は今は住宅の設計にたずさわることが多いが、小さく、ひかえ目であってもその内面に壮大な思想を孕んで、人に深く静かな感動を与えるような建築をつくりたいと考えてきた。そんな思いは近年ますます強くなるばかりなのだが、その原点は若い頃に出会ったこの建築なのかもしれないと思うのである。