vol.13 堀部 安嗣 さん

vol.13 堀部 安嗣 さん

墓地入り口へ向かう長く緩やかな上り坂。遠くに見える石の十字架が美しいランドスケープの中にあってシンボリックだ。(写真提供:堀部安嗣)

静かであたたかな出会い
今までの価値観をガラッと覆すような、そんな衝撃的な出会いが創作活動に大きな影響を与えたという話をよく耳にするけれども、どうも私にはそのような経験が乏しいのかもしれない。しかし今振り返ってみると“ああ、あの時の出会い、経験が今の自分を根底から支えてくれているのだな。”と思えるような出会いはいくつか思い浮かべることができる。そんな出会いの一つが、スウェーデンの建築家、アスプルンドが設計した“森の墓地”である。

私が大学生のころはバブル経済の最盛期であった。建たなくてもいいと思えるような浮ついた建築や都市計画が目先のことだけを考えて作られてゆく状況を疑問に感じ、新しく建築をつくるという行為に罪悪感さえも感じるようになっていた。そんなとき、たまたま大学の図書館で森の墓地の写真を目にした。その瞬間、なぜか今までの現代建築に失望してきた自分の建築に対する眼差しの先にスッと明るい光が見えてきたような気がした。“これは実際に見なければ”と思い、その2週間後にスウェーデンに旅立った。ストックホルムの地下鉄に乗り、たどり着いたその墓地は、はじめて訪れたのにどこか自分の遠い記憶に残っていたような不思議と懐かしい風景がひろがっていた。“ありのままの自分でいいんだよ。”と、その風景が今の自分の存在をそっと肯定してくれ、あたかも肩をポンッと叩いて優しく静かに微笑んでくれているような、気高くありながらも寛容で親密な世界だった。筆舌し難いけれども、価値観や人生観がガラッと覆される感動とは反対の、それまでの自然な人の気持ちや営みを受け入れそっと支えてくれる、静かであたたかな感動であったとでもいえばいいだろうか。この出会い、感動は実際の空間を体験しているときよりも日本に戻ってから今までの20数年間のなかで次第に大きくなり、時間とともに自分のことを力強く静かに支えてくれているような気がする。