vol.10 彦根 明 さん

vol.10 彦根 明 さん

パルテノン神殿・アッタロス王のストア・SILVER WING・BOZ

幼稚園に入る頃、練馬区の大泉学園というところに引越した。近くにはまだ空き地も多く、わが家の前にも小さな野原が広がっていた。背丈の倍ほどもある草をかき分けて中に入って行くと、奥のほうにぽっかりと空の見える空間があった。自分の宝物やおやつを持ち込んで、仲良しだけにその場所を教える。秘密基地体験である。

しばらくすると、その空地にも家が建ちはじめた。丁度3時頃、槌音が止んだので中を覗いてみると、造りかけの骨組みで構成された空間の中、大工さんがお茶を飲み、お菓子を食べていた。それは秘密基地をはるかに超える体験だった。

同じ頃、チェロの曲が気に入って習いたいと言い出した私は、小学校に上がってからバイオリンを習い始め、あまり上達はしなかったが7年間続けた。その後もバンドでドラムをやることになり、勤めはじめて十数年あいだは抜けたが今まで35年以上続けている。

『建築は凍れる音楽』という言葉があるけれど、自分が建築に惹かれるのは、まさにそういうところにあるのではないかと思っている。音楽が時間を横軸にして音色と音程を織り込んでいくように、建築は空間の座標に様々な方向、高さ、奥行きと素材を織り込む。

なぜか私は細長い建物や強調された水平線、ある一定のリズムで繰り返される柱などの構造材に強く惹かれる。リニアな形状、水平線や連続する列柱は、音楽で言えば骨格とも言えるリズムセクションであり、そこには様々な使い方や生活(=旋律)が生まれる可能性がある。

今の自分がここに居るのは、秘密基地の体験と音楽によるところが大きい。