vol.5 安田 幸一 さん

vol.5	安田 幸一 さん

チチェン・イッツァ遺跡(撮影:安田幸一)

1987年は、アメリカ・コネテイカット州ニューヘブン市という小さな街に住んでいた。9月にイエール大学へ入学し、ニューヘブン・グリーンの横にあるタフト・アパートメントの9階に部屋を借りた。アパートからルドルフ設計の建築学部棟まで徒歩数分のところである。途中、左手にカーン設計のブリテイッシュ・アート・センター、右手に同じくカーンのイエール・アート・ギャラリーを毎朝眺めながら、根雪で凍結した歩道を滑らないように通学したことを憶えている。

最初のデザイン・スタジオが、幸運にも安藤忠雄先生のスタジオであった。「光の教会」を設計していた頃で、製図指導の合間によくスケッチを目の前で描いてくれた。インド旅行で出会った遺跡や井戸のスケッチも印象に残っている。他のアメリカ人の学生から、「お前は日本語が喋れてうらやましい…」などとアメリカの大学では不思議な(?)会話が生まれる楽しいスタジオであった。そのスタジオも終了し、年末が近くなってくると街中がクリスマス一色に包まれる。正月準備ならぬクリスマス準備が佳境になってきた頃、思い立って年末年始のメキシコのマヤ遺跡を巡る旅を企てた。今思うと安藤氏のインドの遺跡の話に触発されたのだろう。街の唯一の旅行代理店に航空券を購入しに行ったところ、「来年なら取れるが、まさか今年の年末のことを言っているのか?」と呆れられた。必死にキーボードを叩いて、これしか取れないという日程でメキシコを横断するチケットをゲットしてくれた。

メキシコ・シテイでクリスマスを迎え、パレンケ、メリダ、カンクーンへと回る3週間弱の遺跡巡りの旅であった。ユカタン州の州都メリダから東へ120Kmほどジャングルに分け入るとチチェン・イッツア遺跡がある。「カスティーヨ」と呼ばれるピラミッドは端正な形で青い空を背景にそびえ立っていた。大きな9段の階層からなり、4面に各91段の急階段が配され、最上段には真四角な神殿がある。ピラミッドの階段は、4面の91段を足すと364段で、さらに最上段の神殿の1段を足すと、365段となり一年の日数となる。「暦のピラミッド」とも呼ばれる所以である。まるで魔法のようだ。「天文台」「千本柱の神殿」などスペイン侵攻の前に存在したマヤ文化がいかに進んでいたか…。ジャングルの中の遺跡は、モダン建築が捨て去ってしまった宇宙や自然との対話の大切さを静かに語ってくれた。