vol.2 竹原 義二 さん

vol.2 竹原 義二 さん

写真:閑谷学校(岡山県備前市) 写真提供:竹原 義二

私にとっての建築は閑谷学校との出会いから始まる。

1668年(寛文8年)、備前藩主池田光政が津田永忠に命じて作らせた儒学に基づく士庶共学の学校である。永忠は閑谷の大自然の中にオリジナリティを持った建築を作り上げようとした。

建物は講堂・小斎・習芸斎・飲室・文庫と配され、亀甲型に切り出された石塀が校地を一巡し、後ろに火除山が控える。講堂の東北に儀式所としての聖廟、その東に一段下がって閑谷神社、石塀を隔てて椿山がある。平行に配置された聖廟と閑谷神社は地面に高低差が付けられ、意図的な「ズレ」が仕掛けられている。さらに建物を取り囲む漆喰塀の高さが微妙に変えられ、2つの塀の間に取られた「スキマ」には微妙な間合いがはかられる。閑谷神社から塀を通し、聖廟を見たときに初めてその「ズレ」をとらえ、「スキマ」から視線が連続していくことを知る。

このように細部にまで素材が生かされ、自然と一体となった建物からは場の持つ力が感じられ、建築への情熱が、訪れたものにひしひしと伝わる。

備前瓦で葺かれた色むらのある不揃いな瓦は、山の緑に陰影を落とし、周囲の環境の中に溶け込んでいる。

また雨の閑谷はとても魅力的である。

瓦は濡れ色になり、日が射すと光と影に彩られ、自然と素材が見事に調和する。不揃いな素材が独特の形を伴い、床・壁・天井・屋根を躍動的に構成する。

素材美と構成美に細かく目を配ることにより、空間から細部まで張りつめた透明感ができ、そこに閑谷の精神を感じる。

そして、骨太で力強い建築が雨の日には繊細になり、屋根瓦と石積みが微妙な情感で、見るものに応答してくる。すべてが濡れ色で、自然の中に、凛とした建築が建ち現われる。

建築の思考が立ち止まってしまったとき、私は再び閑谷を訪れる。

刻々と移ろう時間の中で、時が過ぎるのも忘れ、また新たな感銘を受け、閑谷をあとにする。

この建築がいまでも私の心を捉えて離さないのは、そこに学ぶべき本質が隠されているからだろう。