第7回:谷口信雄さん

太陽エネルギーの利用拡大を図る「太陽エネルギー利用拡大連携プロジェクト」の一環として、2016年までに100万キロワット相当の太陽エネルギーを都内に導入することを目標に掲げ、平成21年度及び平成22年度において、毎年2万世帯への太陽エネルギー利用機器の設置を目指す東京都。OMソーラー協会(現在はOMソーラー(株))も同プロジェクトの検討メンバーとして参加しており、2009年度からの施行を控え、話し合いを重ねている状況です。
今回は、8月に開催された「太陽エネルギー利用拡大連携プロジェクト・キックオフ大会」終了後、環境政策課環境政策主査として同プロジェクトに力を注ぐ谷口さんから、取り組みの現状と今後について、また、改めて「太陽熱」に着目した理由、価値などについて語っていただきました。 (文/2008年9月現在)

太陽熱利用と住宅性能向上は、低炭素社会実現に欠かせない要件。

「東京都は本気だ」ということを示したかった

谷口信雄さん

―本日行われた「太陽エネルギー利用拡大連携プロジェクト・キックオフ大会(2008.8.29開催)」では、今年度の補正予算として当プロジェクトの予算90億円(2年分)を計上したという発表がありました。この時期に補正予算として発表したのはなぜでしょうか。

本プロジェクトは来年の4月1日から動き出します。ただ、3月末の都議会で議決されるまではあくまで「やる予定」に過ぎないのです。それではこのプロジェクトに連携していただいている企業や団体の皆さんは動けない。予算がつかなかった場合のリスクを被ってまで動こうとしないのが企業の判断だと思います。

―通常は3月末にならないと予算が確定しませんが、この時期に確定させたということは、「来年度に対する約束」という意味ですね。

その通りです。東京都は本気だということを示したということです。本プロジェクトでは、年間2万世帯に太陽エネルギー利用機器の導入を目標としています。その場合、1日55世帯、10日で550 世帯に導入していかなければなりません。そのための準備を4月1日から始めていては遅いのです。企業や団体の皆さんに、4月1日を待たず、あらかじめ準備をしていただく。そのためには今のうちから東京都が明確にアピールしなくてはいけないのです。そして、4月1日にはお客さんが列をつくって待っている状況をつくる。まさにロケットスタートのための今回の発表です。

―経産省が太陽光発電の補助金に230億という予算案を発表したり、3年後に半額にするという報道がありましたが、これも太陽エネルギー利用拡大の追い風になりますか。

確かに補助金は効果があることは事実です。ただ、3年後に本当にそこまで安くなるのか?と普通は考えるでしょうね。しかも、それが3年後だと言われたら当然、待てる人は待ちますよ。そういった意味では、制度・政策の内容はもちろんですが、発表の方法や発表の時期も十分に考慮しなければ逆効果です。我々としても「予定じゃダメですよ」「企業に本気で取り組んでもらうためには、都が必ずやるという担保が必要です」なんて財務当局を説得しました。だからこその、この時期の補正予算です。9月の都議会で提案しますが、こういうことは異例のことです。

―普通はやらないのですか。

普通はやる必要がないですよね。ところが、今回のプロジェクトはこれまで設置されている数の5倍の量を目標としています。どんなメーカーも次年度に5倍の量をつくるというのは大変なことです。急にやれと言われても無理で、やったとしても何ヶ月もロスを生じてしまう。そうしたくなかったのです。

―それで、ロケットスタートですね。

そうです。半年で予算を消化してしまって、さらに追加補正を要望するくらいにしたい。我々の最終的な目標は、「10年で100 万kW 相当の太陽エネルギー利用」ということにあります。100 万kW を世帯数に換算すると大体30万世帯ということになります。それを10年ですから、年3万世帯という計算になります。当初目標の2万世帯では、実は大きな目標に対して不足している状況なんです。ですから、何としてもスタートでの失敗は許されないのです。

気候変動のスピードに間に合わせなければならない

―東京都としてもここ1、2年で急速にプロジェクトを推進されてきましたが、これだけのスピードで進めてこられた理由はなんですか。

「気候変動」に対して誰もが取るべきスピードだと考えています。昨年6月に「気候変動対策方針」を発表して、1年かけて「排出量取引」「総量規制」に取り組みました。外から見れば速いスピードだと感じられるかも知れませんが、その中で想定していることとして、ここ3、4年でCO2排出量をマイナスにもっていかないと、2050年に地球全体で半分、先進国としては80%の削減という目標に間に合わないということです。
一連の対策は全体の目標に沿ったスピード感で進行していて、気候変動のスピードからすると、むしろ遅過ぎるくらいです。そして、家庭部門の対策として我々としては「太陽エネルギー」に着目したということです。一番大切なのは住宅の低エネルギー化だと考えていますが、まずは「分かりやすい」「広く普及につながる」という点で太陽エネルギー利用からスタートしました。身近な太陽エネルギーを再認識していただき、再生可能エネルギーの価値を見直していただく、そしてそれが、住宅の低エネルギー化に繋がればいいと考えています。それが「10年で100万kW」ということです。はっきり言って、民生・家庭部門の100万kWというのは社会全体のCO2削減量からしたら微かなものです。ただ、皆さんが取り組みやすい、わかりやすいところから仕掛けていくことでインパクトにしたい。そして、そこから大きな取り組みに繋げていきたいと考えています。

―そこで改めてお聞きしたいのですが、「太陽熱」に着目しているのは国も含めて東京都くらいですよね。「太陽熱」というと、過去の太陽熱温水器のマイナスイメージや、太陽熱の価値を目に見える形で評価しにくいという声も良く聞きますが、なぜ、東京都は「熱」に着目したんですか。

たとえば、2006年策定の「新・国家エネルギー戦略」(経済産業省・資源エネルギー庁発表)の中に「太陽熱」は全く表記されていませんが、これはとてもおかしなことです。我々が取り組んでいるのは気候変動対策です。したがって、民生・家庭部門において何が最も効果的かを考えた結果、太陽熱の利用拡大は非常に重要であるという結論を持った。ただそれだけです。

―確かに「太陽熱利用」はエネルギーの変換効率としても、設置費用の安さという点でも優秀です。

素直に考えて、民生・家庭部門でどんな手法があるか挙げてみるといくつもないわけです。PVやヒートポンプなどありますが、その中でも「太陽熱」がコストパフォーマンスとして頭抜けているし、技術的にも最も安定しています。新たな開発を待つ必要もありません。そういう技術を選択しない国の政策のほうが不思議です。

生活に密着した需要に対して太陽熱はとても有効

―我々のような太陽熱を扱う当事者としては、「他が選択しないものを東京都は選択した」という想いがあります。

国の方針としては、資源エネルギー庁がエネルギー戦略を考えているわけですが、国が考えている「新エネルギー」というのは、元々気候変動とは別の出発点でした。その政策の中にも太陽熱、それから我々が有効だと考えている「海洋エネルギー」の両方がほとんど盛り込まれていません。彼らの考えの中には産業育成という要素が強く含まれており、成熟した産業の分野や日本の産業として育っていない分野には関心が低いようです。我々の関心はあくまで「気候変動」であり、それは人類の共通目的です。この気候変動に対する対策が産業育成に繋がり、いずれ国益に繋がると考えています。日本には再生可能エネルギーを支える技術がすでにあり、海外に輸出されています。PVだけじゃなく、太陽熱だって輸出できると思いますよ。にもかかわらず、日本でその技術が活かされていません。というか、活かせるしくみがないのです。また、これらの中でも、海洋エネルギーや地熱エネルギーなど、大きなポテンシャルを持ったエネルギーは大きな需要に対して用いるのが適しており、生活に密着した需要に対しては太陽熱がとても有効だと考えます。自然界にある熱を熱として利用するのが最大効率であって、わざわざ電気から熱を取り出す必要はないのです。そうすれば原発を増やす量を減らせるのです。

―これまでもOMソーラー協会はそういったことを言い続けてきましたが、東京都という大きな自治体が本気で取り組まれるということはとても心強いことです。

OMさんがやってこられたことは、我々から見てもとても真っ当なことをやられていると思っています。ビジネスが社会貢献になっている。そういうところには事業としてきちんと継続していただきたいし、それが社会にとっても消費者にとってもメリットになるのです。そうなるしくみをつくるのが我々の役割であり、今回のプロジェクトもその一環の取り組みといえるのです。

―「太陽エネルギー利用拡大連携プロジェクト・キックオフ大会」のテーブルにも、ハウスメーカーや大手設備メーカー、大手の銀行など、名立たる企業がついていましたが、その中にOMソーラーも同席させていただいたことは、それだけ期待が大きいと受け止めています。

今日の顔ぶれも、会社の大小は関係ありません。その会社がどれだけ社会に貢献するための展開を行っているかです。OMソーラー協会に入っていただいているのは、OMソーラーのシステムの普及、社会化が我々にとって価値が高いことだと考えているからです。東京都としても根拠のない展開はできませんから、様々な太陽エネルギー利用機器について、どれが一番優れているかといった調査・検証をしています。調査してみると、弱点が見えてくる機器やシステムもありますので、そういうところにはちゃんとアドバイスしたりしています。そして、この調査結果の中でもOMソーラーのシステムは非常にレベルの高いものでした。

8月29日に都庁で開催された「太陽エネルギー利用拡大連携プロジェクト・キックオフ大会」の様子。会場には400名を越す人たちが集まった。 8月29日に都庁で開催された「太陽エネルギー利用拡大連携プロジェクト・キックオフ大会」の様子。会場には400名を越す人たちが集まった。

キックオフ大会では、OMソーラー協会からもその取り組みについて報告を行った。 キックオフ大会では、OMソーラー協会からもその取り組みについて報告を行った。

OMソーラーは都のプロジェクトの「主要メンバー」

―ただ、まだまだ太陽熱利用に対する認知度は低いと感じています。

その部分は、今後、都としても大いにPR していくところです。OMさんは、東京都が爆発的に太陽エネルギーの利用を拡大していくときの「主要メンバー」の一人ですから、それ自体が信頼性や知名度アップに繋がるはずです。

―ありがとうございます。では最後に、このプロジェクトに一緒に取り組むことになるOMの工務店さんに呼び掛けたいことなどがありましたら仰っていただければと思います。

我々としては、すでに実践者であるOM工務店さんよりも、その他の工務店全般に呼び掛けたいのです。というのは、東京都において、新築戸建て住宅の6~7割は工務店さんが建てています。ハウスメーカーさんは、名前は売れているけれど、実際に建てているのは2~3割程度です。ですから、我々としては、その工務店さんが建てられている住宅が問題になります。現状では、環境配慮型の住宅を建てているというよりも、それとは別の住宅でビジネスをされていると思います。ですが、今後エネルギーコストが上がってもそのリスクが回避できるような省エネ住宅であったり、自然エネルギー利用の住宅などを提案していただいたり、あるいは、地球に負担を掛けずに、自然や環境と共生するライフスタイルの提案、そして、そのような住宅や暮らしを行うことで長い目で見たときには経済的な負担も少なくなるといったことを伝えながら、家づくりの提案を行って欲しいと思います。都では「爆発的な普及」を謳っていますが、工務店さんはその際の大きなボリュームを持った連携先であり、プレーヤーとしてビジネスに繋げていただけたらと思っています。OMの工務店さんには、そういったその他の工務店のお手本になって欲しいですね。

―東京のOM工務店の集まりでは、東京発→全国に向けたOMソーラー普及の起爆剤にして行こうと盛り上がっています。

OM工務店の東京グループがプロジェクトをつくって金融機関などと連携していくような動きや、プロモーションの活動などを協同で行っていくのもいいと思います。また、そういった連携の広がりから、日本中にOMの仲間ももっと増えていけばいいですね。工務店全体の半分、最低でも3割くらいの工務店さんがこのようなことに関心を持って取り組んでくれたら、その影響は大きいですよ。

―本日はOMネットワーク全体にとって未来に希望の持てる大変心強いお話を伺いました。お忙しいところありがとうございました。

東京都の再生可能エネルギー

http://www.kankyo.metro.tokyo.jp/climate/renewable_energy/index.html

東京都支援策の具体的内容

太陽エネルギーの飛躍的な導入拡大に向けて、都は、平成21年度から下記の支援策を実施予定。

  1. 支援策の特徴 … 自家消費分の環境価値の譲渡を条件に補助金を交付する
  2. 事業期間…平成21年4月から2年間
  3. 補助対象用途…住宅用(戸建て・マンション等)
  4. 補助対象機器および補助額(設備の規模に応じた補助額とする)
    • (1)太陽光発電システム:30万円程度(3kW)
    • (2)太陽熱ソーラーシステム:20万円程度(6m²)
    • (3)太陽熱温水器:3万円程度(4m²)
谷口信雄(たにぐち・のぶお)

東京都 環境局 環境政策部
環境政策課 環境政策主査(課長補佐)

谷口信雄(たにぐち・のぶお)