第6回:内田弘さん

内田さんは、洞爺湖サミットで記念上映を行った映画『KIZUKI』の仕掛人であり、雑穀米を中心とした食品販売、レストラン事業などを手がけるベストアメニティ(株)の経営者でもあります。 今回は、OMソーラーの家づくりに取り組む工務店が一同に会する全国経営者会議にゲストとしてお越しいただき、映画製作のきっかけや思い、ご自身の事業への取り組みについてのお話をしていただきました。(文/2008年7月現在)

一人一人の「気づき」が世の中を大きく変える。

今の社会のほころびに気づき、未来を築いていく行動のきっかけになってほしい

内田弘さん

―今回内田さんが企画・製作された映画『KIZUKI』は、ただの映画ではなく、地球環境に対するメッセージが込められており、映画を広めていくための活動そのものにも意味を持っている映画だな、と感じました。まずは映画の簡単なご紹介と、映画をつくることになったきっかけについてお聞かせください。

環境をテーマにした映画といえば、世界中で話題になった『不都合な真実』があります。多くの人へ環境に対する危機感を与えることができたとても価値がある映画でしたね。では、環境に対する危機感を持った人が具体的にどんな行動をすればよいのか。それを考えて生まれたのが今回の映画『KIZUKI』です。

この映画は、「環境」をテーマとしたドキュメンタリードラマになっています。物語は、主人公の少年が学校の授業で環境破壊をテーマにした映像を観るシーンから始まります。テレビに映し出されるのは森林伐採、地球温暖化の危機などの衝撃的な映像…見入っている少年は、亡くなった祖父との約束をふと思い出します。そして、祖父との約束を守るために行動を起こしていく。その過程で、大人たちがいろいろなことに気づいていき、離れた家族の心がまた一つになるという映画です。

日常の忙しさに追われて子どもとの会話がなくっていく母親、一人アパートで出来合いのお弁当を食べる少年、企業の営利だけを追及する商品企画のあり方に疑問を感じる若い社員。豊かな自然の中に不法投棄をする住民、こういった誰もが身近に感じる日常生活の描写を通じて、これまで人間中心の世界を「築き」あげてきた結果が、悲惨な結果を起こしていることに「気づき」、これからの未来を変えていこうというメッセージを込めた内容になっています。

僕はもともと、雑穀米の企画販売を本業としていまして農業と関わりが深いのですが、年々、農薬による土壌汚染や異常気象による高温障害など、地球の異変を肌で感じることが多くなってきました。そこで「まずは自分たち食品メーカーが環境問題に対してできること」として「マイ箸運動」、「マイバック運動」などを提唱してきました。さまざまな方が協力してくださってはいますが、多くの方が「地球の危機を知らない」「知っていても何をしてよいか分からない」というのが現状です。

今、この現状に気づかなければ地球環境は崩壊し、手遅れになる。今取り組めることをしなければ、私たちのあとに生きるこどもたち、孫たちはどんな世界を生きるのか。その思いが膨らみ、考えたのが映画『KIZUKI』です。

KIZUKI
映画『KIZUKI』
http://www.eigakizuki.com/

7月に北海道で行われた「OM全国経営者会議」にて。ゲストとして講演された内田さんの呼びかけに多くの工務店関係者が賛同した。

まず、この映画は前提として「できるだけ多くの人に知っていただく」ことを目的としています。ですから、より多くの人たちに観ていただくためにも、いわゆる映画館だけではなく、公民館や小中学校やコミュニティセンターなど、地域の至るところで上映をしてもらいたいと考えています。

また、同時にこの映画では、“地球を救う10万人”といって、僕たちの考えに賛同してくださる方を募集しています。具体的には、1口2,000円で賛同していただいた方にDVDと名簿を送り、賛同者一人一人からこの映画にかける思いや気づきを後世にも伝えていけたらと考えています。名簿は、大きな企業も、個人も同じように掲載します。今回、OMソーラーの工務店の皆さんにもたくさん賛同していただいています。

映画を観た10万人が10人に伝えて、その10人がまた別の10人に伝えていったら、1000万人になる。そうしたら、おそらく社会は変わるだろうと思ったんです。とにかく、参画意識を持ってもらうことが広がる方法かな、と考え、このような方法をとっています。

内田弘さん

―映画の中には、スポンサーの広告なども一切入っていないと聞きました。

スポンサーをつけずに映画をつくれば、まっすぐにありのままの思いを伝えられる。メッセージを伝えるのに良い方法と考え、映画の中には広告はもちろん、自社の名前も入れていません。ですから利益は一切ありません。

実は、中嶋朋子さんをはじめとする出演者の皆さんも、映画をつくるにあたり、決して十分といえる額ではない出演料を提示させていただいたのですが、映画の主旨に心から賛同して、快く出演してくださった方たちばかりなんです。こうして映画を紹介する中で、「一企業が始めたことは最終的には売名行為になるのでは?」と誤解を招くこともありますが、この映画に賛同し、快く出演くださった方たちのためにも、迷惑をかけるようなことはできないな、と思っています。

実際、利益があるとしたら僕の時代ではなく子どもか孫の時代ではないでしょうか。「あの北海道でサミットをやった年に、『KIZUKI』という映画がつくられて、10万人の賛同者とともに社会が変わっていったよな。とりあえずあれ以上の悪化は止めたよな」と言ってもらう、そのことでしょうね。

「絶対売れない!」と言われても、自信があったから毎日ワクワクしながら仕事をしていた

―内田さんは映画の企画・製作としての立場と、企業の経営者としての立場をお持ちですが、以前から、「マイ箸」「マイバッグ」などの啓発活動にも精力的に取り組まれていらっしゃいますよね。そんな内田さんご自身のことについても少し教えてください。

私はベストアメニティ(株)という会社を経営しており、雑穀米の販売をしていますが、もともとは生命保険会社で働いていました。毎日順調に働いていたのですが、ある日持病の腰痛で病院に行ったところ、通風の予兆があり肝臓が悪いことが発覚しました。自覚症状はまったくなかったのですが、とにもかくにもその日から入院することになりました。このとき、懇意にしていた院長からこう言われました。

「薬は飲まなくていい。食生活で治しなさい。自分の食生活で悪くなったものは薬では治らない」と。このことが、最初の「気づき」でした。私は当時も今も、生命保険の仕事をとても素晴らしいものだと思っていますが、保険の獲得のために必死になっていて、生活習慣病など、昔はなかった病気や死亡があまりにも多くなっている現実とその怖さに気づいていなかったのです。「世の中には食生活が原因でかからなくてもいい病気になっている人が多い。保険にお世話になる前に、病気をしないための食の仕事がしたい」、入院中にそう思い、まもなく独立をしました。

―そこからは、どのような経緯をたどったのでしょうか?

会社を設立した当初は、違う商品を売っていたのですが、とにかく苦労しました。バブル崩壊後だったということもあり、なかなか商売が軌道に乗らず、準備していたお金は3ヶ月で底を尽き、7名いた社員は毎日その日暮らし。「会社をつぶしてはいけない」と、消火器を売ったり靴の中敷きや干物を売ったりシイタケを売ったり…。売れるものは全部売る、という時期がありました(笑)。朝2時に起きて、3時から営業活動をする、という生活が3年半くらいは続きました。

―転機となったのはどんな出来事だったのですか?

鹿児島県にある霧島の農家に立ち寄ったときに、家族の健康のためにきびとあわを作って食べている、というおばあさんに出会ったことです。当事、僕も見よう見まねで健康教室を開催したり、自然食品を取り扱ったりしていたものですから、すぐに「これだ!」とヒントを得ました。自宅に帰る途中、「一日一膳雑穀米」という言葉を思いつき、その後「一日一膳」「雑穀米」の商標も登録しました。

―では、そこから順調に?

いえいえ、まったく(笑)。スーパーマーケット、コンサルタント、デパートはもちろん、社員にまでも、「絶対売れません」という太鼓判を押されました。「名前が悪い」「見栄えが悪い」「パッケージが悪い」、果てには「鳥の餌として売った方がいいんじゃないですか」とまで言われました。

もちろん、さまざまな雑穀の配合テストを重ねて栄養価を高めたり、おいしく食べられるブレンド比率を研究したり、昔の人が持つ「まずそう」「貧乏ったらしい」というイメージを払拭するための営業戦略を練る努力もしました。しかし、なによりも日本人の体に必要であること、そして本当においしいということに自信を持っていましたから、日本中に雑穀米が広まって、雑穀米を食べない人がいない状況を夢見て、毎日ワクワクして仕事をしていました。こういった気持ちはOMソーラーの普及に取り組む皆さんもお分かりになるんじゃないでしょうか?

「太陽を使うのが当たり前」の時代がやってくる

内田弘さん

―OM ソーラーの知名度は雑穀米ほど高いものではありませんが、その考え方も、広まり方もとても似ているお話だと思います。

そうだと思います。私がOM ソーラーのことを知ったのはつい数ヶ月前なのですが、最初はソーラーだからよくある発電かな?と思ったんです。それなら我が家にも入れているよ、と。

ところが、お話を聞いていくと太陽熱という“ただの熱”を使って暖房するという非常にシンプルなシステムであることが分かりました。僕は、建築の専門家ではありませんが、自社の建物をつくるときに必ず断熱・気密を考慮したり自然素材を使うということを心がけていて、そういった経験からも、機械や設備に頼る前に、建物そのものの工夫でできることはあるはずだということは感じていました。

実はつい最近も、「古いものを大切にしたい」というメッセージを込めて、福岡県久留米市で180 年に渡って受け継がれた旧家を改築した「ふかほり邸」という天然田園温泉をつくったところなんですが、OMソーラーのことを聞いて「もう少し早く知っていれば!」と残念に思いました。

―「ふかほり邸」にOMソーラーを入れれば良かったと?

そうです。聞くところによるともう20年以上前から取り組まれているそうですが、僕の直感では、このシステムは、これから本当に広がっていく技術だと思います。

大体、鳥の餌と言われ、宗教的なものだとか貧乏臭いと思われていた雑穀米が、今やコマーシャルでもテレビでもデパートでもスーパーマーケットでもどこにでも見かけられるようになったのです。僕もOMソーラーの存在自体を知らなかったというだけで、知ればやる人はいますし、それを受け入れる世の中の意識も確実に変わってきています。

たとえば、今までシステム導入を検討する人は、こういう計算をしていたとします。「OMソーラーを導入するのにいくらかかる。月々の暖房費と給湯費がいくら。じゃあ何年で元がとれるのか」。ところが今は違います。「お金はいくら投入することになるけど、CO2削減にこれだけ貢献できるんだ」という感覚です。

もちろん、全部借金してやるのは大変ですが、それでもやる人はいると思います。そうして意識の高い人が増えてくると、今度は「何年で元がとれるか」ではなく、「太陽を使うのが当たり前」になってきます。それでなくても、暖房は、ものすごくお金がかかります。それが、自然の力である太陽熱でできるなら言うことはないのではないでしょうか。

―『KIZUKI』にしても、雑穀米にしても、OMソーラーにしても、こういったメッセージを込めた取り組みをどうやって世の中に伝えていくかというのが大きな課題だと思っています。

これはぼくの経験から言えることですが、たとえ正しいことであっても「これやってはダメ、あれやってはダメ」では誰も受け入れてくれません。頭では理解できても実際の行動には移さないものです。なぜなら正しいことでも押し付けられると面白くないからです。楽しみながら伝えること、そして、人に押し付けられるのではなく、自らが「気づく」ことで人ははじめて行動に移すのではないでしょうか。

僕を含めて、環境に負荷をかけずに暮らしている人はいませんし、関わりがない人はいません。ですから、今までつくりあげてきたこの社会に対して一人ひとりが自分で「気づき」、やってはいけないこと、やらなければいけないことにも少しずつ「気づき」、将来の僕らの子どもや孫たちのために正しい環境社会を「築いて」いこうという行動に移すことが大切です。たとえば、OMソーラーを導入して太陽熱で暖房するとか、マメに電気を消すとか、マイバッグを持つとか、おしゃれなマイ箸を使うとか。最近では、それが周りからも素敵と言われる時代になってきました。

いろいろな気づきがあり、その人によって気づくポイントは違うものですね。今回の映画『KIZUKI』も夫婦の立場だったり、子どもの目線だったり、コンビニの企画社員だったり。どれもとても身近に感じる役どころで、そうした目線を大切にした映画だからこそ、多くの人に気づきを与えてくれるのだと思います。

そうなんです。テレビのニュースで気づく人もいるだろうし、ガソリン代の高騰で気づく人もいるでしょう。そして、この映画を通じて気づいてくれる人もいてほしいと願っています。OMソーラーの家づくりに取り組む皆さんや、実際に住んでいる人はかなり気づいている人が多いと思いますが、そういう人にもぜひ映画を観てほしいと思います。出来ればそういった方たちには一賛同者ではなく、地域でとりまとめをやるような賛同者の窓口リーダー(※)になっていただきたい。1人の人間の力では成しえることが難しいことでも、10万人が賛同者になることで、世の中は大きく変わると信じています。

※窓口リーダー
団体で申し込みをする際のとりまとめ役になっていただく方を窓口リーダーと呼びます。団体で申し込むとき、賛同金の振り込み、DVDの一括受け取りなどの仕事があります。賛同者名簿には個人名の他、団体名も登録することが可能です(名簿記載は2008年9 月末日までの賛同者のみ)。

内田弘(うちだ・ひろし)

ベストアメニティ株式会社 代表取締役。日本雑穀協会会長。NPO法人 元気な120才を創る会理事。国産ペット自然食協会会長。ロハス評議員。くらぶMy箸JAPAN代表。映画『KIZUKI』企画・製作。大分県出身。

大手生命保険会社を退社後、平成2年4月ベストアメニティ株式会社を設立。「雑穀米」を商品化、全国1500軒以上の契約農家と一緒に「体にやさしい、おいしい健康」を提供する。ベストアメニティグループを運営。関係8社、従業員600名。著作に「雑穀を食べよう」(監修:内田弘 編:日本の雑穀を考える会)がある。

内田弘(うちだ・ひろし)