第57回:日野 明子 さん

モノと30年

バブル末期だった30年前、
モノの価値はまさにバブルでした。

消費社会から持続可能な社会への
移行が求められる中、
モノの価値はどう変化したのか。

今回は、自らを「一人問屋」と称し、
器や台所道具など身近な生活道具を、
お店や雑誌等を通して紹介されている
日野明子さんにお話を伺いました。

長年、「モノ」と「ヒト」を
見続けてきた日野さんの目に、
モノの価値とは
どのように映るのでしょうか。
(文/2017年7月現在)

日野明子さん。日野さんにとって、モノの魅力はそのモノに関わる人の魅力そのものだという。「人がいて、モノがある」当たり前のことに気付かされる

日野明子さん。日野さんにとって、モノの魅力はそのモノに関わる人の魅力そのものだという。
「人がいて、モノがある」当たり前のことに気付かされる。

ここ数年の展覧会で作ったDM。主に生活道具の企画展だが、たまに器だけ、オブジェ中心など、場所によってテーマを変えている。同じモノでも見え方が違って見えるところが面白い。

ここ数年の展覧会で作ったDM。
主に生活道具の企画展だが、たまに器だけ、オブジェ中心など、場所によってテーマを変えている。同じモノでも見え方が違って見えるところが面白い。

暮らしのためのデザイン

神奈川県藤沢市で生まれ育った日野さんは、小さい頃から隣町である鎌倉までしょっちゅう自転車を漕いで「お店」探索をしていたといいます。鎌倉にはオーナー自らが選んだモノを置いているお店が多く、モノそのものの魅力とともに、そのモノを選んだお店や人にも魅力を感じていたそうです。そして、大学在学中に恩師である秋岡芳夫氏と出会い、秋岡氏の考え方や価値観から大きな影響を受けることになりました。秋岡氏は、自らも工業デザイナーでありながら、大量生産・大量消費社会に疑問を投げかけた人で、「暮らしのためのデザイン」という考え方を展開し、手仕事や手道具の楽しさを著述や展覧会等を通して広め、日本各地の工芸産業の育成にも尽力してきた方でした。

大学卒業後は百貨店「松屋」の子会社である「松屋商事」に就職し、北欧のテーブルウェアや日本の生活道具、工芸作品等を取り扱ってきました。その後、松屋商事は解散してしまいますが、日野さんは引き続き営業を続け「スタジオ木瓜」を設立、"一人問屋"として、作家や産地とお店を繋ぐ活動をコツコツと続けてこられました。最近では展覧会を企画したり、著述、雑誌の取材協力等、エンドユーザーに直接モノの魅力を伝える活動も増え、"モノとヒトの繋ぎ手"として一目置かれる存在になりました。今では自分が扱いたいと思うモノは「パっと見て分かる」といいます。「秋岡先生や松屋時代の先輩から受けた影響は大きかったと思います。日本中のモノづくりの現場を巡らせてもらい、場数を踏んだことが結果的に繋ぎ役としての訓練になっていたのかもしれません」

それまで、「選ぶ」または「アドバイス」するだけだった日野さんが初めて関わった商品開発。ステンレスシリーズ「conte」(http://conte-tsubame.jp)。新潟の燕のステンレス工場は分業の世界。様々な技術のプロに出会えたからこそ出来あがった。デザイナーの小野さんのデザインに対する姿勢も勉強になったとのこと。(企画製造/一菱金属株式会社、デザイン/小野里奈、http://www.rinao.jp、日野氏はアドバイザーと後方支援を担当)

それまで、「選ぶ」または「アドバイス」するだけだった日野さんが初めて関わった商品開発。
ステンレスシリーズ「conte」(http://conte-tsubame.jp)。新潟の燕のステンレス工場は分業の世界。
様々な技術のプロに出会えたからこそ出来あがった。デザイナーの小野さんのデザインに対する姿勢も勉強になったとのこと。
(企画製造/一菱金属株式会社、デザイン/小野里奈、http://www.rinao.jp、日野氏はアドバイザーと後方支援を担当)

良きモノに、魅力的な人あり

日野さんにとって、良いモノ、そうでないモノとは何が違うのでしょうか。日野さんは自分が取り扱うほとんどのモノは、産地やモノづくりの現場を訪れたうえで、実際に自分で使っているモノだといいます。地域の素材であること、理にかなった形であること、デザインが優れていることなど、使ってみたいという思いだけでなく、肌触りが良いこと、使い勝手が良いこと、長期の使用に耐えることなど、毎日使うこと、使い続けたいという思いを重視しています。しかし、こうした身近な道具としての本質的な価値を備えていることと同じくらい、人の「思い」に惹かれるといいます。

「必ずしも手仕事でなければならないとか、作家性が強くなければならないということではなく、たとえ工場でマシンにより大量に作られたものでも、つくり手の情熱や思いが感じられることが大事だと思っています」「お店に行っても、すごい勢いで説明してくれる人がいたりしますよね。そんな人やお店に魅力を感じたりするし、魅力的なつくり手や売り手の間に立って仕事をさせてもらっていることを本当に幸せだと感じます」30年前に比べ、情報量が増え、お金を出さなくても様々な情報が入手できるようになった現在は、逆に何が良くて何が悪いかも判断しにくくなっているかもしれません。そんな中、良いモノが伝わっていくプロセスの中に人の思いを大事にする人、魅力的な人の存在がある―。情報過多の時代だからこそ、そういう人の存在が求められており、日野さんはその一人といえるのかもしれません。

自宅の食器棚には漆がたくさん納まっている。自分が扱っているものだけではなく、漆という素材が好きで、気になると求め、使い勝手を楽しんでいる。安いものではないが、満足感はお金には変えられないそう。

自宅の食器棚には漆がたくさん納まっている。自分が扱っているものだけではなく、漆という素材が好きで、気になると求め、使い勝手を楽しんでいる。安いものではないが、満足感はお金には変えられないそう。