第45回:北川大祐さん

「この人に聞きたい」第45回目は、シェアハウスを専門に扱う不動産サイト「ひつじ不動産」を運営する北川大祐氏です。日本でも「トキワ荘(下積み時代の漫画家の集まり)」や「めぞん一刻(ガス台、流しは各部屋)」にみるような木賃アパートによる共同生活の場は、戦後復興、高度経済成長を支える社会基盤として大きな役割を果していました。国の持ち家政策等により、十二分に住宅が行き渡るようになった現代では、他人同士の共同生活の場はほとんど見られなくなりましたが、一方で、極限まで削り取られた〝人との関わり〞を今度は渇望するかのように、コミュニティの重要性が叫ばれています。そして、コミュニティを謳う住まいが増え、〝共同(シェア)〞が見直されつつあるように思いますが、とはいえその中身は、トキワ荘でもなければ、欧米型のシェアハウスとも様子が異なるようです。今回は北川氏から、日本におけるシェアハウスの現状と今後の展望、そして、シェアハウスに取り組む意義について伺ってみました。(文/2014年9月現在)

人と人との接点から、多種多様な価値が創出される。

オシャレオモシロフドウサンメディア

写真:北川大祐さん

―「ひつじ不動産」は町の不動産屋さんとは違い、〝メディア〞という位置付けですが、不動産のポータルサイトの一つと認識すればいいのでしょうか。

 厳密にいうと少し違いますね。正式名称は「オシャレオモシロフドウサンメディアひつじ不動産」といいまして、不動産の情報が載っているメディアであることに違いはないのですが、「s u u m o 」や「HOME’S」と違うのは、載っている物件がいわゆるシェアハウス、つまり、〝住宅の中に人間的な接点を持ちうるために十分な空間や設備を備えている物件〞に絞って掲載しているという点です。それから、もう一点違うのは、広告主が必ずしも不動産屋さんだけではないという点です。シェアハウスの世界は昔からほとんど仲介業者、つまり不動産屋さんが介在しないで回ってきた世界だったんです。もちろん、近年では不動産屋さんが事業主だったり、管理会社だったりすることもありますから、一概には言えなくなりましたが、いわゆる仲介だけを行う業者さんは、私たちのお客さんの中にはほとんどいないということです。

―ひつじ不動産を開設されて来年で丸10年ということですが、開設した当時は、一般の人がシェアハウスの情報と接触するという点ではどういう状況だったのでしょう。十分インターネットの環境は浸透していたかと思いますが。

この分野の情報は、元々は外国人向けの住宅を紹介するところからはじまっていて、私たちがやりはじめた頃は、そこに海外で生活したことのあるような一部の日本人が入ってくるようになった時期なんです。私自身もそういう日本人の一人でした。

―当時に比べて現在では十分に拡大したと言っていいと思いますが、実感としても感じていらっしゃいますか。

さすがに最近は「何それ?」と言われることはなくなりましたが、まだまだ誤解して伝わっている面はあって、私たちが目指している「シェア住居」が正しく認識されているかというと、まだまだやるべきことはたくさんあると感じています。

―誤解して伝わっているというのは、シェアハウスの一般的なイメージ、つまり、若者が集まってワイワイ楽しそうに住んでいる、という感覚だとか、地方から上京してきた若者が家賃や生活費を低く抑えたくて共同生活を行うといったイメージですよね。

〝普通の人〞が違和感なく住める

■年齢構成 3年間で20代前半の割合は徐々に縮小。最も拡大しているのは30代で、40代も増加傾向。(ひつじ不動産調べ)

■年齢構成
3年間で20代前半の割合は徐々に縮小。最も拡大しているのは30代で、40代も増加傾向。(ひつじ不動産調べ)

■雇用形態の割合 2012年の入居問合せ数全体に占める正社員の割合は、5年前と比較しおよそ16%拡大した。また、非正規雇用と正社員の割合は2010年に逆転した。(ひつじ不動産調べ)

■雇用形態の割合
2012年の入居問合せ数全体に占める正社員の割合は、5年前と比較しおよそ16%拡大した。また、非正規雇用と正社員の割合は2010年に逆転した。(ひつじ不動産調べ)

私たちはひつじ不動産をスタートしたときから、「普通の人がシェア住居に住む」という姿を一つの目標にしてきました。普通の人とは、逆にいうと「特殊じゃない人」と言い換えることもできますが、アーティストやクリエイターなどがお互いを刺激し合いながら創造的な共同生活をするとか、暮らしに対して意識の高い人たちが社会的な意義や自己実現のために共同生活を行うという場合もあるでしょう。あるいは、そうじゃない人でも、たまに〝シェア生活のためなら死んでもいい〞といった熱心な人がいたりします。いずれにしても、こうした人たちは私たちが考える普通の人とはいえませんし、若者たちが経済的な理由で共同生活するということも、もはや一般的ではないと思います。私たちが考える普通の人とは、まあ、家のことは仕事や遊びなどに比べてそんなにプライオリティは高くなくて、とはいえ、便利で快適な家じゃないと嫌だし、トラブルや面倒なことがあるくらいならマンションのほうがいいです、といったような人たちです。こういう人たちに、どうにかしてシェア住居を届ける、というのが私たちのミッションだと考えています。

―実際にシェアハウスが新たなマーケットになってきたことで、近年では様々な参入者が現れ、いろんなWebサイトや広告を目にします。資料やデータを調べていても、いろんなものが出回っているようですね。

そうですね。ただ、データなども精度が低くて実態を反映していなかったりするものも少なくなくて、私たちは以前から独自の調査をしています。ここにあるのは昨年公開した統計データですが、シェアハウスの入居者の年齢構成をみると、ここ2、3年で30代が拡大していて、20代以下の層が割合としては減少してきています。もちろん、入居者の絶対数は増えていますから、20代以上に30代の入居者が増えているということです。また、雇用形態の構成を見てみると、正社員が増えてきていて、非正規の社員や大学生などが割合としては減少してきています。こちらも、絶対数は増えていますから、正社員の入居者がそれ以上に増えていることを示しています。あと、ここにはありませんが、引っ越し前の居住地は東京なら東京の中での移動が多くて、首都圏として括ると首都圏内での移動がほとんどなんです。地方から上京してシェアハウスに入居するという傾向はほとんどみられません。それから、ひつじ不動産で扱っているシェア住居の平均家賃は6万5千円程度で、共益費が大体1万円前後ですから、それを合わせると7万5千円程度になります。東京のワンルームマンションの平均家賃が7万7千円といわれていますから、共益費を入れるとほとんど差がないんです。共益費には光熱費が含まれていますから本当は割り引いて考えなくてはいけませんが、だとしても極端にシェアハウスが安いということではないんです。せいぜい5000円くらい安いのかなという感じですね。

既存のイメージが玉石混淆を生んだ

―あたかもシェアハウスは、地方からの上京組みの受け皿になっているというニュアンスの資料を見た気がしますが、かつてはそうだったということでもないんですか。

 その傾向はほとんど見られませんし、割合は決して大きくはありません。ただ、そういった層をターゲットにして積極的に取りにいっている事業者というのは少なからずありますよね。そして、全部が全部ではないですが、いわゆる悪質な脱法業者も少なからず含まれてくるセグメントでもあります。かなり管理コストが上がりますし、一般論として良質な物件であれば現時点であえて取りに行く理由は乏しいのが現実です。だから真っ当に取り組んでいる業者は取りにいかないですよね。一方、地方から出てくる若者は現地のリアルな情報を入手することはなかなかできませんし、テレビや新聞の報道も結構いい加減だったりしますから、広告見てシェアハウスの良いイメージだけを鵜呑みにして、後から〝こんなはずじゃなかった〞ということになっているケースも少なくないんです。このあたりはシェアハウスの普及による功罪の〝罪〞の部分といえますね。こういうことが重なると、逆にシェアハウスの悪い面だけがクローズアップされたりして、現時点では、ある意味混乱してしまっている面があるんです。

―玉石混淆なんですね。ひつじ不動産では自社が扱う物件を「シェア住居」と呼んで、いわゆるシェアハウスとの違いをきちんと定義されていますよね。玉石混淆の中にあって、単なるシェアハウスと思われたくない、他と一緒にして欲しくないという意図を強く感じました。

それはとても大事なことなんです。若者たちが集まって何となく共同で生活していきましょう、というのは、以前から根強く浸透しているシェアハウスのイメージです。そして、実際にシェアハウスが広がってきているわけですが、多くの人の認識は以前から根強く浸透しているシェアハウスが単に広がっているということなんです。少し想像力を働かせれば、これだけ個人主義が浸透した世の中で、共同生活がそう上手くいくわけはない、ということは誰だって直感的に分かるわけです。共同生活ができる若者が増えていることを「最近の若者は随分変わったんだなあ」と喜ばしく思う人も、もしかしたらいるかもしれませんが、それは勘違いなんです。シェア住居での暮らしは、特殊な層を除いて、〝安い〞という以外、日本ではずっと花開かなかった価値でした。インターネットが普及しても、やはり、こうしたリアルなコミュニケーションの価値はすぐに花開きませんでした。

そこで、シェアハウスに普及の道標を付けたのが〝事業者の存在〞だったんです。単にシェアハウスと一言でいいいますが、実は様々なしくみがあって普及してきたわけです。ですが、マスコミはそういう地味な部分は報道せず、賑やかで楽しげな雰囲気だけを伝えてきました。それが玉石混淆を生んだ原因の一つになっています。「シェアハウスはじめました!」というだけでは、上手くいく理由はないのに、それなりに人は集まってしまったわけです。もちろん、私たち自身の情報発信が足りなかったことも反省しなくてはいけませんが。

〝パッケージ〞と〝型〞がある

「ひつじ不動産」WebサイトTOP画面。物件情報は四字熟語で目を惹き付ける。入居者インタビューやイベントレポートなども豊富で、たくさんの写真とテキストからなる構成は、掘り出し物を探すワクワク感を演出している。物件情報は全てスタッフが実際に現地に行って写真を撮り原稿を書いている。豊富な写真と記事による紹介は一軒当たり数ページに及び、物件の魅力や正確な情報が余すことなく伝わる。

「ひつじ不動産」WebサイトTOP画面。物件情報は四字熟語で目を惹き付ける。入居者インタビューやイベントレポートなども豊富で、たくさんの写真とテキストからなる構成は、掘り出し物を探すワクワク感を演出している。物件情報は全てスタッフが実際に現地に行って写真を撮り原稿を書いている。豊富な写真と記事による紹介は一軒当たり数ページに及び、物件の魅力や正確な情報が余すことなく伝わる。

 本当に大事なことは何かというと、シェア住居だって共有部分はあるものの、住宅であることが大前提です。清潔なほうがいいし、快適なほうがいいし、トラブルとか面倒なことはないに越したことはありません。口約束ではなく、キチンとした契約関係もあるほうが安心なんです。シェアハウスがこれだけ普及してきた理由は、意識の高い人が増えてきたとか、クリエイターが増えてきたということでは全然なくて、前述したように、〝普通の人〞としか言いようがない人たちの選択肢になってきたということです。そしてそれは、普通の人に選択されるための様々なハードやソフトのしくみを作ってきたからであり、それによって普通の人が何ら違和感無くシェアハウスに住めるようになったというわけです。いわば、普通の人がシェアハウスに暮らすための様々なパッケージを生み出した。現在の状況はその結果に過ぎないんです。

―そのパッケージの具体的な内容というのは、建物の設計や運営管理のノウハウといったことですよね。そういったノウハウを各事業者が個別で身に付けていったということですか。

基本的にはそうですね。ただ、この分野も様々な取り組みの積み上げによって成立してきたわけで、やるべき失敗も全てやり尽くしてきたというのが本当のところです。

―押さえ所は大体分かってきているわけですね。

そうですね。きちんと学びたいという方にはその道は開かれていて、やる気があればやれるんです。ひつじ不動産でもいろんなセミナーを開催しています。

―とはいえ、シェアハウスといってもその形態は様々ですよね。共有・共用の範囲やそれぞれに合わせた運営ノウハウが必要になりそうです。様々なケースに対応したノウハウがすでにパッケージングされているということですか。

その通りなんですが、割と〝型〞というのがあって、それぞれの事業者が得意な〝型〞を持っているというのが実体です。何でもかんでもやるというよりも、いくつかのパターンに収れんしていくという感じでしょうか。例えば、既存のワンルームマンションの中に大きなリビングダイニングキッチンをつくるというのは最近良くあるパターンです。

―肝心の「コミュニティ」の面での工夫とか、仕掛けのようなものはあるんですか。例えば〝コモンミール〞のような。

はい、コモンミールほど強い仕組みは一般的ではありませんが、もっと緩やかで小さな仕掛けや工夫はたくさんありますね。間取り一つとっても、コミュニケーションを促進する仕掛けや、逆にコミュニケーションがストレスにならない工夫を用意するとか、ソフトの面でも、どんな人たちが集まって、どんな暮らしがおこなわれるかについては企画段階から考えていかなくてはいけません。契約内容や運営管理方法などもそれに合わせて決定していくわけです。

〝人間〞は強力な差別化要因

―かなりマーケティング的な発想が必要で、入居者像はある程度想定するわけですね。

その通りです。きちんと想定しないとダメですね。前述したように、その辺にいる人たちに適当に集まってもらっても上手くいくわけなんです。もともとの友だち同士でもない人たちにストレスなくシェア住居に住んでもらうためには、きちんとした手順やノウハウを知ってもらい、取り組むことが必要不可欠です。上手くやっている人もいれば、まじめにやらないで撤退する人もざらです。なんとなくでも、もしかしたら半年や1年くらいは上手くいく場合もありますが、それがずっと続くとは思えません。逆にいえば、2年3年と継続してきちんとシェアハウスが運営されている場合は、それなりの技術的な裏付けが必ずあるということです。それは現場を見ればすぐに分かりますし、どれくらい続くかも大体分かりますね。

―入居者像を想定するということは、性別だったり、年齢層だったりするんでしょうが、例えばターゲットが30代なら、30代向けのシェアハウスがあるということですね。

シェアハウスを事業としてみた場合、差別化の武器という面があります。今住宅は余っていて、例えば、ワンルームマンションなんてゴロゴロあるわけです。余っているということは差別化しなくてはならないわけですが、実際にやられていることは外壁を塗り直したり、エントランスだけ豪華にしてみたり、といったことです。表向きの化粧直しをして、それで入居する人もいるかもしれませんが、ワンルームでも住まいですから、大事なのは住空間であり、そこでのライフスタイルです。そこに価値があって、外壁やエントランスの改修は本質的な価値にあまり関係ないわけです。ところが、シェアハウスの共用部は入居者にとって住まいの一部であって、共用部にお金を掛けることは、入居者全体の住空間の価値を上げることになるわけです。

そして、ハード面の工夫と共に大事なのが、ご指摘のソフト面での工夫になるわけですが、あまり一面的なターゲット設定というよりも、多面的な見方が大事なんだと思っています。私は人間ほど強力な差別化要因はないと思っていて、価値を創出してくれるのはいつも人間なんです。例えば、どんなに豪華な住空間を作ったとしても、それが入居者にとって価値だと思われなければ意味がありません。豪華さは人によってはむしろ不快かもしれません。でも、この人と一緒にいると楽しいとか、話すと癒されるといった思いは、住空間の豪華さをはるかに凌駕する、強力な価値になるのだと思うんです。それを、住まいや暮らしの価値として、もっと積極的に取り入れていくことができるんじゃないか、その価値をもっと使いこなしていけるんじゃないかということが、私たちがシェア住居で取り組んでいることなんです。そこに住む人と一緒に住む人の暮らしの価値に如何に変えていけるか、その潜在力をどうやって掘り起こせるかです。それが、シェア住居がいろんな技術を駆使してやろうとしていることです。

多種多様な価値の〝供給源〞

―それは、一緒に住む人が、必ずしも人間的な魅力を持っているとか、豊かな感性の持ち主である必要はなくて、まさに普通の人でいいわけですね。

〝普通の人〞といっても能力や個性は様々です。もちろん、クリエイターと呼ばれる人も混ざっていていいし、必ずしもクリエイターと呼ばれる人たちが、クリエイター同士を求めているわけでもないはずです。むしろ、様々な個性との接点が思ってもみない価値を創出することになるかもしれません。あえて自分とは違う世界の人と接することのほうが刺激的であったり、それが価値になることもあるわけです。それもマッチングの一つなんだと思います。シェア住居の運営において、人と人とのマッチングはかなり意識的に考えていて、あまり閉塞的な方向に向かわないようにしています。人と人との出会いや繋がりって、そこから何が生まれるか分かりませんよね。なので、こうあるべきとか、こうしなさいなど、自由な化学反応を抑制したり、自主的な発展を阻害したりしないように考えています。自分との相性だとか、自分のことをどのくらい分かっているかというと、実はあまり分かっていないことも多いのだと思います。人とのあらゆる接点に自分のことを知る可能性が潜んでいるし、自分を成長させてくれる何かが隠れているかもしれません。価値のない人なんていないし、みんな何かを持っているわけです。漠然とした普通の人なんていないわけですから。シェア住居から多種多様な価値が供給されていく、その中から自分との相性やマッチングを見つけてもらう、シェア住居を通して様々な価値の選択肢を用意していくことが私たちの仕事なんだと思っています。

―〝人との接点〞は多くの気付きを生み、人を成長させてくれるきっかけとなる機会であり、その機会そのものが価値になっているわけですね。ある意味、日本的なシェアハウスのあり方が構築されてきているのだと感じます。シェア住居の拡大が、さならる価値を生み、よりよい社会の構築に繋がればと願います。本日はどうもありがとうございました。

北川大祐(きたがわ・だいすけ)

株式会社ひつじインキュベーション・スクエア代表。国内最大のシェア住居専門メディア「オシャレオモシロフドウサンメディアひつじ不動産」を運営。健全な市場拡大に向け様々な取組みを行う。「シェア住居白書2008」公開(2008)、「東京シェア生活」出版(2010)、「シェア住宅管理士講座」開始(2010)、全国向けサービス開始(2011)、オープン・オフィス「PoRTAL」開設(2012)、反響数数累計12万件突破(2014)、「ひつじ不動産 for Family」ローンチ(2014)など。

北川大祐(きたがわ・だいすけ)