第44回:清水一男さん

「この人に聞きたい」第44回目は、、静岡大学イノベーション社会連携推進機構准教授の清水一男氏です。
大気圧マイクロプラズマの応用研究が専門で、この夏よりOMソーラーから発売される空気清浄機『OMエアフォール』の開発に関わってきました。
ディスプレイパネルの技術として知られる「プラズマ」ですが、電離によって生じた荷電粒子(イオン)を含む気体のことを指し、固体、液体、気体に続く物質の「第四の状態」とも呼ばれています。
自然界では太陽や太陽風、オーロラや稲妻等にも含まれ、宇宙を構成する物質の99%以上が実はプラズマであるといわれています。
また、人間の手で生み出されたプラズマは、放電現象を利用した蛍光灯などの照明器具、溶接やエッチング(表面加工技術)、薄膜形成などの加工技術等に広く利用されています。
今回は、空気清浄機の現状や、空気清浄とプラズマの関係などについてお話を伺いました。

「空気清浄」は、メンテナンスがセットされてこそ意味がある。

「表面改質」という性質

第44回:清水一男さん

―まずは「プラズマ」がどのような効果を生むのか、あるいは「プラズマ」を応用した技術がどのような場面で利用されているのか教えてください。

プラズマの応用技術の一つに表面改質というのがあります。例えば、樹脂フィルムのような素材にマジックで字を書こうとするとインクを弾いてしまって上手く書けませんよね。ところがプラズマを当ててあげると書けるようになります。フィルムに水分が浸透するようになって、インクがフィルムの表面に載るようになるんです。
このように物質の表面を改質する性質を利用して、材料メーカーや液晶パネル設備メーカーなど、主に工業分野でプラズマ技術の活用が進んできました。

―「空気清浄」もそのような性質を活かした応用利用の一つということですね。

そうですね。ただし、各種材料の改質研究を基に、その応用として様々な分野への利用が模索されていると言ったほうが順序が正確ですね。
最近では、工業分野だけでなく、人の皮膚に当てたりなど、プラズマの表面改質の性質を応用して、医療や美容の分野で利用されはじめています。実際にプラズマ処理することで癌細胞が小さくなったとか、シミが取れたなどの効果が確認されているんです。
身近なところでは、例えば、軟膏は薬を油と混ぜることによって肌への浸透を促しているわけですが、ビタミンなど水溶性のものも直接肌に取り込みたいというニーズがありました。
皮膚にプラズマを当ててあげると水溶性の物質も肌によく浸透するので、傷が早く治るとか、肌のキメが整うなど、その応用範囲は様々に広がってきています。

―家電メーカーなどからも「プラズマ」や「イオン」の効果を謳った様々な製品が販売されていますが、例えば、空気清浄機は具体的にはどのようにして空気を清浄しているのでしょうか。

簡単にいえば、針の電極があって、その電極に7000〜8000ボルトの電圧をかけるとイオンができて、そのイオンが悪い菌などに作用するということです。ただ、厳密にいうとそこで生まれたイオンは比較的安定な状態にあって、それほど大きなエネルギーを持っているわけではないようです。実際に殺菌、滅菌し、空気を浄化するほどの力があるかというと微妙なところなんです。少し前に消費者庁が効果を疑問視してメーカーに対して表現について指導したというニュースは記憶に新しいところです。このようにイオン等を放出するタイプのものが多いのですが、それに対して私がやっているのは、小さな孔がたくさん空いた電極2枚を重ねて、その間の狭いところでプラズマを発生させ、電極を通過する悪い物質を直接やっつけるというしくみです。

〝マイクロ〞な「プラズマ」

マイクロプラズマの発光の様子。一粒一粒の光がマイクロプラズマ(10~100μmという小ささである)。

マイクロプラズマの発光の様子。一粒一粒の光がマイクロプラズマ(10~100μmという小ささである)。

―それが「マイクロプラズマ」ということですね。

そうです。電極を重ねるわけですが、実際には隙間無くぴったりと重なることはありませんから、一部接触している部分もあるでしょうが、電極の間には数十ミクロンの隙間ができるわけです。その隙間で窒素やアルゴンなどの物質が励起(イオン化)し、悪い菌に作用するというしくみです。イオンを放出するコロナ放出型よりも、直接的にイオンの効果を取り出すことができ、さらに一桁低い電圧でプラズマを発生させることができますから、小型化、省コスト、省エネ化が可能で、何より低電圧のため人体にも優しいという点が医療や美容の分野で可能性を広げている理由です。いずれにしても、ポイントなのは活性種(イオンなど)をつくり出して、それが、ターゲットとなる臭い成分や菌類に直接的に作用するということ、そして、メーカーなどが作っている何千ボルトという電圧ではなく、数百ボルトの電圧で駆動できるほど小さなユニットで利用できるというのがマイクロプラズマの最大の特長ですね。

―部屋全体というより、必要なところに効果的にというイメージですね。

マイクロプラズマの存在を示すのに、微弱な光(放電)では見えないことから、線香の煙を使ってお見せすることも多いのですが、プラズマには流体を制御するという性質もあるんです。モヤモヤした煙がプラズマをオンすることで煙の流れにパターンをつくることができます。このような性質を応用した技術の研究も進んでいます。

―具体的にはどういうことですか。

プラズマの発生によりイオンがたくさん生まれると、イオンはプラスとマイナスに帯電していますから、静電気の力で引っ張られる力が生まれ、気流に影響を与えることになります。アクチュエーター(エネルギーを物理的運動に変換するもの)と呼ばれていますが、その効果を流体制御に利用するということです。例えば、飛行機の翼は翼の上と下を通過する空気の流速を変えることで揚力を得ているわけですが、流速を変えることを形状によってではなく、イオンの生成によって同様の効果を得ようというものです。これらを応用して、自動車や航空機、鉄道車両、あるいはロケットなどの気流制御、空気抵抗軽減、低燃費技術の開発などに繋がることが期待されています。

―本当に幅広いんですね。

そうなんです。とはいえ現状では、やはり「プラズマ」の代表的な利用方法といえば「空気清浄」ということになります。ただ、プラズマとかイオンというと、消費者庁から指導があったことからも分かるように、〝胡散臭い領域〞と思われているのも事実です。設備系、建築系、物理系など、様々な分野に跨った領域になることもあってか、研究者もまだまだ少ないのが現実で、可能性は秘めていながらも、まだキチンとした評価にまで至っていないのが課題ですね。

プラズマ処理前後の大腸菌細胞の様子。処理前(上)、処理後(下)。

プラズマ処理前後の大腸菌細胞の様子。処理前(上)、処理後(下)。

プラズマ処理前後のすい臓がん細胞の様子。処理前(上)、処理後(下)。

プラズマ処理前後のすい臓がん細胞の様子。処理前(上)、処理後(下)。

評価が困難な「空気清浄」

―少し整理すると、家電メーカーなどが販売している一般的な空気清浄機に導入されているのはコロナ放電型と呼ばれる電圧の高いプラズマ方式であるのに対して、清水先生が研究されているのは低電圧のマイクロプラズマ方式ということであり、今回OMソーラーの空気清浄機の開発で導入が検討されたのもマイクロプラズマ方式だったわけですね。

そういうことです。

―結論から言うと、コストの関係で今回は導入を見送ることになったわけですが、一般的な空気清浄機との最大の違いは、OMソーラーのダクトの中で清浄するという点です。一般的な空気清浄機は室内空気を清浄するわけですが、そもそも室内全体の空気をどの程度清浄できるのか、空気清浄機の限界というのはあるのでしょうか。

難しい質問ですが、ターゲットによると思います。雑菌、ウィルスなどに対してはプラズマはかなり有効だと思います。ただ、臭い成分など複雑な構造のものは、プラズマでやっつけたとしても一部が残って別のものに変質していってしまうこともあり、完全に除去できるかというと限界があると思います。

―方式によってもどのターゲットに有効かなど、得て不得手があるわけですね。

それはありますね。機器のパンフレットにそのあたりは書かれていると思います。ただ、ある程度知見を持った人であれば読み込めると思いますが、一般の人が有効性を比較するのはなかなか困難なのが現実じゃないでしょうか。それをいいことに、あたかも何でもキレイにできるなど誤解を与えるような表現に対して指導が行われたということですね。

―そもそも、除去したい物質がどの程度人体に有害なのかとか、元々どの程度空気中に含まれているのかなどの相関関係が分からなければ、効果も不明瞭ということになります。

根拠となる実験の方法も実情とかけ離れているのが現実です。1立米の箱の中での実験、実験室での実験が実際の生活状況を反映しているとはとても思えません。現実の部屋の中には空気清浄機以外にも様々な機器が置かれており、それらの機器が稼動していたり、人が歩き回っているわけですから。

―空中に飛散していればキャッチすることも可能でしょうが、床や棚などに積もっている場合、除去はかなり困難ですよね。

評価の仕方はかなり悩ましいところではあります。関連する学会でも今まさに評価方法を策定しているところだと思いますね。

空気清浄機が〝汚染源〞になりかねない

マイクロプラズマ電極による雑菌・汚臭成分の処理イメージ。

マイクロプラズマ電極による雑菌・汚臭成分の処理イメージ。

―例えば花粉はかなり前から問題になっていて関心も高いところですがいかがでしょう。

花粉は粒子がかなり大きいですからフィルターで十分に除去できます。性能的にも信頼性は高いと思いますが、一般の方に知っていただきたい大事なことは、その性能がずっと続くわけではないということです。これは花粉に限った話ではないですが、一定の時間を経過すれば必ずフィルターは目詰まりを起こすということです。多くの空気清浄機にはランプが点灯するなどして、フィルターの交換時期を知らせる機能がついていますが、キチンとメンテナンスが行われなければ性能を発揮してくれません。そして、発揮しないどころか、目詰まりしたフィルターが雑菌の温床になって、空気清浄機が空気汚染源になりかねないのです。

―建築材料だけでなく、家具や設備、人間も重大な汚染源であり、室内空気の清浄化という点では、とにかく室内の空気を外の空気と入れ替える、つまり「換気」が基本になると思います。しかし、今やその外気も花粉だけでなく、PM2.5などの微粒子の濃度が問題になるなど、外気そのものが必ずしもキレイとは言えなくなってきたわけです。OMソーラーは外気を熱の運搬に利用することで、換気システムとしての機能も併せ持っていますから、外気が汚れていることはOMにとって大きな問題なんです。OM独自の空気清浄機の開発はそういった経緯から生まれたものです。大気汚染は、OMに限らず全人類的な課題なわけですが、そういった背景からも空気清浄機に注目が集まっているわけですよね。

そのとおりです。ただ、いくら外気が汚れているとはいえ、室内空気の汚れに比べれば比較になりません。空気清浄において「換気」は今後も最も有効な手段であることに変わりないと思います。

―OMソーラーでは取り込んだ外気の通り道であるダクトの中でフィルタリング※しますから、外気に対しては漏れなくろ過できるしくみになっています。また、外気取り込みしない時間帯には室内循環運転することで、室内空気のろ過も行えるしくみです。このしくみについて、一般的な空気清浄機と比べてどのような印象を持たれますか。

※:主に雑菌をターゲットにした抗菌フィルターと、PM2.5をターゲットにした高性能フィルターの2枚のフィルターで対応。

仰るとおり、外気に対しては大変合理的に集塵できるしくみだと思いますし、室内空気清浄という点でも悪くないしくみといえると思います。一般的な空気清浄機は持ち運ぶことはできますが、清浄範囲は一部屋に限られますし、部屋の大きさによって清浄範囲には限界があります。その点、OMのしくみなら家全体の空気が対象になりますし、風量が圧倒的に多いので、能力という点でも優位だと思います。ただ、室内からダクトを介して室内への循環運転時は閉鎖された経路になりますし、このしくみに限ったことではないですが、フィルターは必ず目詰まりし、雑菌の温床になりますから、それをどう解決するかが課題ではないでしょうか。雑菌はとてもしぶとくて、普通に我々の掌に繁殖しています。身近な例を出せば、エアコンをシーズン初めに使ったときに、モワモワっとした臭いがしたという経験をされた方は多いのではないでしょうか。あの臭いが雑菌によるものです。しばらく使い続ければ飛ばされて臭いはしなくなりますが、しばらく使わなかったりするとすぐに繁殖してしまいます。代表的なのはカビで、カビはアレルゲンでもあり、夏風邪の原因にもなります。

ターゲットは『PM2.5』

開発段階で描かれた実験図。プラズマON時とOFF時で通下粒子数の違いをカウントするという実験。

開発段階で描かれた実験図。プラズマON時とOFF時で通下粒子数の違いをカウントするという実験。

―このフィルターにマイクロプラズマを照射する機能があれば雑菌の繁殖を抑えることができますし、室内空気の清浄にも威力を発揮するものと思います。清水先生に協力をお願いしたのは、まさにそれを目指していたからです。しかし、OMとしての第一の目的は、室内空気の清浄ではなく、まずは取り込む外気の清浄にありましたから、主なターゲットはPM2.5になります。外気ならびに室内空気の微粒子をまずは除去し、フィルターの目詰まりに対しては年一回の交換を義務付けることで販売することにしました。家を建てた工務店が建物のメンテナンスと併せて交換することをセットにしている点が特長です。また、エアコンのフィルターには比較的湿気の多い空気が通過するのに対して、OMのダクトの中は高温乾燥空気が通過するので、雑菌に対してはエアコンや他の空気清浄機とは条件が異なるだろうということも今回導入を見送った理由の一つです。

了解しました。家電メーカーなどはフィルターの掃除をユーザーに任さざるを得ない面があって、メンテナンスをどうするかは大きなネックになっていました。最近は自動でフィルター掃除をする機種が販売されはじめていますが、メンテナンスの体制までカバーしているというのは一般的な空気清浄機にはないメリットといえますね。ただ、OMの空気経路の中には屋根の通気層、床下など、ダクト以外の部分も含まれ、いくら高温乾燥空気が通過するとはいえ、局部的には何らかの雑菌が繁殖する可能性は否定できないと思います。雑菌に対してアクティブに対策するということも引き続き検討されていくことをお勧めします。

―ご指摘ありがとうございます。前述したとおり、マイクロプラズマを導入することで、室内空気清浄という面で能力向上が見込めますし、フィルターの交換頻度を減少することにも繋がる可能性があります。コストを含め引き続き研究開発は行っていきますので、ご協力いただければと思います。本日はどうもありがとうございました。

清水一男(しみず・かずお)

1969年、静岡県浜松市生まれ。静岡大学准教授。1996 年豊橋技術科学大学大学院修了(工学博士)。東京大 学大学院工学研究科・新領域創成科学研究科助手を 経て2004年より現職。大気圧マイクロプラズマ応用の研 究および大学と社会との連携推進に従事。電気学会、 静電気学会、プラズマ核融合学会、応用物理学会、室 内環境学会、空気清浄協会、IEEEの各学会会員。

清水一男( ばば・まさたか)