第42回:坂本光司さん

「この人に聞きたい」第42回目は、法政大学大学院教授で、ビジネス書としては異例のベストセラーを続けている『日本でいちばん大切にしたい会社』シリーズの著者でもある坂本光司氏です。坂本氏は40年以上に渡って日本中の中小企業を訪問しています。そこから見えてきた、地域に必要とされ、長年に渡り利益を出し続けている企業の生き方は、経済学や経営学で教えられている理論とも、多くのビジネス書に書かれているセオリーとも違うものでした。そして、坂本氏の訴えからは、経営者の心得といった範疇に留まらない、現代の日本人が忘れかけている人としての「生き方」が示されていると感じます。今回は、坂本氏から企業の存在価値や社会的使命についてお話を伺い、「カイシャ」の生き方について考えてみたいと思います。(文/2014年1月現在)

「カイシャ」を動かしているのは、はたらく人の「ココロ」。

「社員第一主義」という法則

写真:坂本光司さん

―坂本先生は、企業経営とは「5人に対する使命と責任を果すことにある」と定義され、その優先順位を「社員とその家族」「外注先や下請け企業」「顧客」「地域社会」「株主」という順番だと語っています。まずは「社員第一主義」という考えに至った背景から伺いたいのですが。

これまでの経営学では一番大事にすべきは「株主」とか「顧客」でした。もちろん、株主も顧客も大事ですが、私はそれ以上に大事にしなくてはいけないのが社員やその家族、あるいは会社を支えてくれている仕入先や協力工場だと思っています。仕入先や協力工場は社員ではありませんが、私は「社外社員」と呼んで、彼らを社員と同様、顧客や株主以上に大事にすべきと考えています。私はこれまで中小企業を中心に約7000社の企業を調査してきました。そのうちの約1割の会社は売上高経常利益率が5%以下になったことがない会社でした。好不況に関係なく好業績を維持しているんです。では、なぜ維持できていたかですが、これには2つの理由がありました。

好業績を維持している理由には、商品開発に熱心だとか、マーケティングができているといった要素はありますが、それ以上に確固たる要素というか、法則のように共通していたことが「社員第一主義」を貫いているということだったんです。これは理想とか理論ではなく事実ということです。いい会社は例外なく社員第一主義を貫いていて、好不況でもブレていないのです。しかし一方で、このような会社が少ないのもまた事実です。ですから経営者は自分のやり方が合っているのか分からないので不安なんです。当時は、ほとんどの経営者が「大きくするのが会社の使命」だと考えている時代でした。しかし、よく調べていくと全国にはそういう会社が少ないけれど存在することが分かってきました。安定的に業績の良い会社の最大の共通点が「社員第一主義」だった、これが一点で、もう一点は、これらの社員が会社の業績を上げていくという大原則です。

顧客や株主に見放された会社に未来はありません。ですから顧客や株主が大事なことはいうまでもありません。ですが、顧客満足や株主利益を上げるのは誰でもない「社員」だということです。社員がお客さまに感動を与える商品やサービスを提供するのであり、業績や株価を上げて株主を満足させるわけです。CS(顧客満足)も大事ですが、それ以上にES(社員満足)も大事ということです。社員が自分の会社や上司に対して不平や不満、不信感を持っていたら会社やその組織の業績を上げようとはしないと思います。「早く替わればいいのに」と思っている人が、その人を応援することは考えられないのです。それが人間の本能だと思います。私はこの原理原則が「忘れられていた」のだと感じています。

会社の本質は「人財力」

「社員第一主義」という考え方は、理論でも理屈でもなく「現実」であることを強調する坂本氏。

「社員第一主義」という考え方は、理論でも理屈でもなく「現実」であることを強調する坂本氏。

―社員が「競争力の源泉」ということですね。競争力のある商品とか、その開発行為に目が向きがちですが、肝心の競争力のある商品やサービスを提供しようとしている社員に多くの経営者の目が向いていないのですね。

その通りです。技術力とか開発力とかマーケティング力というのは会社の本質ではないのです。結果としての力であり現象力に過ぎなくて、本質は「人材力」であり、もっと言えば財産としての「人財力」ということです。人が競争力のある商品やサービスをつくるのであり、あの人と会いたいから、あの人だから、といって取り引きが成立するわけです。よく「ヒト・モノ・カネ」とか「人材、技術、情報」が経営の三要素だといわれますが、私にいわせれば「一に人財、二に人財、三に人財」です。残りは、人が幸せになるための道具に過ぎないと思っています。このことをお話しすると多くの方が〝確かにそうだ〞と頷かれます。潜在的には誰もが感じていることなんです。私の話を聞いて、〝本当にそんなことをして大丈夫なのか?〞というのが正直な感覚なのだと思いますが、私が「大丈夫」と答えるのもおかしな感じですよね。私がつくった理想でも理論でもなく、現実なのですから。

―かつての日本の「商道」とか「徳」とか「粋」といった感覚に近いのだと感じますが、近代化と共に西洋的な考え方が入ってきて、高度経済成長の時代を経て、別の経営的価値観が蔓延してしまったように感じます。しかし、この価値観は本質ではなく、いわば、「右肩上がり」という時代だから通用した幻想なのかもしれません。

そうです。右肩上がりの時代は「作れば売れる」「仕入れれば売れる」という時代です。労働力も豊富で、いくらでも人材を選べる、代わりはいくらでもいたわけです。顧客最優先で、社員には〝イヤなら辞めろ〞でも通用したんです。しかし、時代は明らかに変わりました。社会は成熟化し、心の時代といわれています。とはいえ「拡大・成長」「顧客満足」を重視する経営学が間違っていたわけではありません。順番があったということです。衣食住足りて礼節を知るということもあるわけで、時代によって変わるのです。ただ、一番大切なことが忘れられていたのであり、それが今、求められている時代なのだと思います。

社員は「コスト」ではない

本当にいい会社は、昔も今も、どんな時代でも「社員第一主義」を忘れずに貫いています。私は、このことを「人本主義経営」だとか、「大家族的経営」「ぬくもりのある経営」「浪花節的経営」と呼んでいますが、教育の現場では未だに人材は他の資源と同列に扱われています。私も教える立場の一人ですが、私のスタイルは実証研究であり、現場の事実から理論を導き出すタイプです。それに対して多くの先生方は未だに欧米に倣った科学的経営、つまり、生産性を高めるなど、数値やデータを重視した経営学です。社員は経営資源の一つに過ぎず、道具とか、コストという位置付けです。そういう教育を受けた人たちが一流の企業に入ったり、大学の先生になったりしているわけです。そして、相変わらず企業の目的は「利益の追求」であり、株価を高めること、業績を上げること、組織を大きくすること、競争相手を打ち負かすことであり続けるのです。効率・効果重視の経営は、社員のモチベーションを上げることではなく、社員一人当たりの生産性を上げること、非正規社員を戦力化すること、ピークを過ぎた人に如何に退場してもらうか、といったことが大事になり、まるで人殺しのような経営に陥る危険性が高いのです。

―果ては「ブラック企業」ということですね。教育の問題など、なかなかこのスパイラルから抜け出すのは難しそうですが、同じことが国と国の間でも行われているような気がします。つまり、先進国と途上国の富の格差の問題です。

安い労働力を求めて企業が国から国へと渡り歩く、中国がだめならカンボジアへ、カンボジアがだめならバングラデシュといった具合です。得た利益が不当に分配され、その多くが本国に落ちるということでは相手国から評価されませんよね。

―多国籍企業は法人税の低い国で納税するというありさまです。

国外に出るということなら、行った先の国の人も、国内に残った人も幸せにしなくてはいけません。ある講演会で話したことですが、中小企業の理想は、国内にいながらにして世界の人々を魅了する経営をすることだと思います。

―日本は外国から学んで現在の豊かさを手にしています。今度は忘れられていた日本本来の経営的価値観を取り戻し、日本が世界に示していく番なのではないでしょうか。

仰る通りです。世界を見ても、いい会社は「ぬくもり経営」をしている会社ばかりです。そして、日本は特にその比率が高いのが特徴なんです。これはまさに日本が世界に誇れることであり、貢献できることだと思います。技術や商品といったことだけでなく、実は日本的経営の考え方はすでに外国からも高く評価されています。先日、韓国のサムスン電子の幹部が私に相談に来たんです。

日本にしかできないことをする

―まさに世界屈指の多国籍企業ですね。

幹部の方が聞きたかったのは「なぜ、日本の大手企業はおかしくなったんですか」「我が社がおかしくならないためにはどうしたらよいでしょうか」というもので、具体的な会社名を挙げて聞いてきました。考えてみたらとても恐ろしい質問です。私は率直に「一番大切にすべきことを、疎かにすると必ず会社はおかしくなります。組織から〝ぬくもり〞がなくなると、必ずその組織はおかしくなります。一番大切なこととは人間の命であり生活です。命や生活を踏み躙るようなことをすれば、会社はおかしくなるんです」と答えました。そして、「喜びも悲しみも共に分かち合い、誰かを犠牲にした経営をしないことです。社員は家族、社長はお父さんです。その視点で経営をする限り、会社はおかしくなりません」と伝えました。彼らは頷いて、「おかしくなった日本の企業は、私たちがかつて目標にしてきた企業です」と語りました。その目標がおかしくなり、彼らは羅針盤を見失ってしまったのです。私は彼らと話して、肝心の日本企業がそこまで考えているのか、ということを考えざるを得ませんでした。

―あらゆる商品やサービスは行き渡り、もはや性能や質は横並びの状態です。購買の判断は価格でしかないのが実情です。そして、価格競争はコスト削減を求め、コストである社員の給与は上がらない、下請けは泣かされる、という袋小路に迷い込んでいきます。

まさに天に向って唾を吐くような経営ですね。価格競争は人を幸せにする経営学ではないですよ。価格競争は誰かを犠牲にすることで成り立っています。犠牲が国内の人だとかわいそうだから海外に押し付けようというのも同じです。今や、海外の安い労働力でもまだ追いつかないといって、今度は無人化工場を作って、海外の工場すら畳んでしまおうとしています。この方向は完全に間違っています。日本は欧米に学んでチャンスを与えてもらったわけです。アジアの工場でできることは全部譲ってあげればいいんです。日本では他のアジアの国ではできないものをつくる。日本でしかできないことをして、アジアの国々を幸せにする。これが日本の役割りであり、日本はそれができる国だと思います。

大企業も同じ

―大企業ほど、自らの組織を維持するために、このような形に陥りやすい気がしますが、規模の大小は関係ありませんか。

大企業といっても99・9%は中小企業からスタートしているわけです。私は中小企業専門ですが、年間1%程度は大企業も見ています。大企業でもブレない会社は「ぬくもり」を大事にしています。いい会社は中小企業の良いところをちゃんと守っているんです。大企業だからといって例外ではありません。「幸せになりたい」というのは人間としての本能です。出世競争に勝った負けたで差をつけるとか、同期なのに方や部長で方や主任だとか、ボーナスの額が2倍も3倍も違うなんてやり過ぎです。真の強者は弱者の味方ですから「金」ではありません。つまり「利他」ですよね。立派な経営者は皆、利他の精神で経営されています。そして、その方たちも結果的に幸せなんです。

―周りが支えてくれるということですね。

そうです。結果的に仕入先や協力会社、下請けの工場などは、いい会社を大切にしています。逆に、いい加減な会社は見積書が出てくればすぐにコストダウンを要求したり、支払いを翌々月末まで延ばしていたり、手形を使っていたりします。いい会社は、自分より規模の小さな会社には全部現金で支払っていたり、たとえ10日でも楽をさせてあげたいといって20日締め翌10日払いなど、20日しかみていなかったりします。こういう会社には仕入先は感動しますよ。そういう一つ一つが「あの会社にはいいものを優先して出してあげよう」とか「何があっても納期を遅らせない」といった気持ちになり、いい会社には次々に良いことが集まってくるわけです。人間の営みですから当然ですよね。

―規模が大きい会社ほど、経営者の利他の精神が会社全体に浸透しないなど、やはり難しさを感じますが。

それはトップ次第ですよ。「社員第一」が口先だけなのか、貫いているかの違いです。先日も経団連から呼ばれて、上場会社の重役ばかりを集めた勉強会で話しました。名簿を見たら参加企業の3割くらいが希望退職を募っている会社でしたから、「あなた方が社員の立場だったらどう思いますか。肩を叩いてきた上司を好きになれますか。コンチクショーと思いませんか」と話したんです。五体不満足で大した仕事もできない、体が弱くて会社も休みがちだけど影の仕事をこなしてくれている社員、目立たないけど裏の仕事を毎日コツコツと続けている社員が組織を支えているんです。仕事には陽の当たる仕事もあれば、同じだけ日陰の仕事もあります。大した仕事をしていないからといってリストラしたら、怒り心頭なのはリストラされた本人ではないですよ。一緒に仕事をしていた仲間です。真の強者のほうです。大企業でもトップが社員第一主義を貫ければ変わるんです。それが一つと、もう一つは部課長さんです。

目的が変われば、経営も変わる

いい大企業というのは、いわば「ぬくもりのある会社の連合体」といえるものです。部長さん、課長さんというのはその組織のトップであり、社長であり、父親なのです。にもかかわらず、多くの部課長さんはその部や課の業績を上げることばかりに目が向いてしまうのです。3人でやっている仕事を2人でやらせるとか、工場なら1人で3台見ている機械を6台にするとか、営業なら一日5件だったところを10件回らせるとかです。そうやって利益を出すことばかり考えるわけです。中間管理職という立場ではなく、その組織のトップとしてスタッフ第一主義を貫けるかです。

実際に大きな会社でもトップが替わったことで180度変わった会社がいくらでもあります。公私混同してきた会社が、社員第一主義のトップに替わったことで、すぐに業績が上がりました。

―とはいうものの、「社員第一主義」をどう形にすればいいのか分からない経営者も多いのではないでしょうか。単に社員の待遇を良くするとか、社員の声を聞くということではないような気がします。

まずは自分が社員だった頃を思い出すことです。自分が社員だったらどうして欲しいか、自分が課長だったら何をして欲しいか、あるいは、自分の目が見えなかったら何をして欲しいかです。リストラは象徴的ですが、リストラしなきゃ会社が潰れてしまうという人もいますよね。でも、リストラしなくていいような経営をすることが大事なんです。リストラに至る多くのケースは取引先の倒産などの影響を受けてしまうことです。特定の取引先に依存してしまう状況です。そうならないためにはできるだけ多くの取引先とバランスよく付き合うことが大事なわけですが、そうなると当然ながら管理が大変になります。管理が大変だから条件の良い取引先に集中するようになり、その影響をもろに受けるようになるんです。社員を路頭に迷わせないためにはたとえ利益率が下がったとしてもバランス経営することです。効率経営が目的ではなく、社員の幸せが目的であれば、経営は様々なところで変わってくるんです。リストラしている会社で安定経営している会社は皆無です。

経済ではなく「心」の問題

―効率重視のツケがリストラというわけですね。

でも、3本の柱から8本の柱に増やしても、このご時勢、ドーンと危機が同時に襲ってくることもあります。「そういうときはどうするんですか」という質問を時々されますが、私はこう答えます。「それでもリストラはダメです」リストラは、要するに人件費の削減です。決して人員の削減だけを意味していません。例えば、2割の社員を削減したいなら、平均賃金を2割削減すればいいんです。「5人家族で食事が3人分しかなかったら、あなたならどうしますか」と訪ねます。「お父さんお母さんと子ども1人だけが食べれて、残りの2人に食うなと言えますか」と。私なら「お父さんは済ませたから4人で分け合って食べなさい」と言います。そして、裏へ行って水を飲んで凌ぐわけです。平均賃金を2割下げるなら、一番下げるべきは社長ですよね。私が知っている九州の社長は、リーマンショックのとき、自分の給料を一年間1ドルにしていました。そして、社員の給料は1円も下げませんでした。そしたら社員のほうから「社長の給料を戻そう」といって頑張ったといいます。そういう話をすると、次にはたいてい「それで優秀な社員、稼ぎ頭の社員が不平を言ったらどうしますか」と聞かれます。私は「そういう社員こそクビにしなさい」と答えます。そういう社員にはぬくもりがない、利他の心がないからです。カネの切れ目が縁の切れ目なんです。私の経験では、不況のときほど社長ばかりか社員の本性も顕在化します。だから本にも「時々不況になったほうがいい」と書いています。

―不況は会社にとって健康診断のようなものですね。

私は、仕事ができないという理由で仲間の前で社員のクビを切るなんて認めません。社員は家族なんですから。そのことに中小企業も大企業も気が付けば、この国は再生できますよ。この国の問題は「経済」の問題ではなく「心」の問題、あるいは、「社員」の問題ではなく「リーダー」の問題だと私は思っています。

―それでも、「勝つか負けるか」、「白か黒か」でしか考えられない、「勝たなきゃ意味がない」、「負けたんだから仕方がない」という価値観があまりにも浸透していて、坂本先生の話を「きれいごと」として片付けてしまう経営者が多い気がします。

社長も社員であり人材

法政大学大学院で教鞭を執る坂本氏だが、ライフワークとなっている企業訪問だけでなく、国や地方自治体、商工会議所等の委員や講演に引っ張りだこで、移動しながらアウトプットという作業をこなしている。

法政大学大学院で教鞭を執る坂本氏だが、ライフワークとなっている企業訪問だけでなく、国や地方自治体、商工会議所等の委員や講演に引っ張りだこで、移動しながらアウトプットという作業をこなしている。

何度もいいますが、この結論は学者の戯言でも理想論でもありません。現実です。これほどハッキリしていることはないんです。誰だっていい会社にしたいと思っています。会社を潰したいと思っている人はいないと思います。だったらなぜできないの?ということです。私は会社というのは「市場創造」機能と共に、「環境適応」機能を持っていなければいけないと思っています。環境適応とは時代に適応すること、ダーウィンの進化論と同じです。大きな生き物が生き残ったわけでも、強い生き物が生き残ったわけでもないのです。

そして、私が「一に人財、二に人財、三に人財」という話をすると、元気のない会社の経営者は必ず「ウチにはいい人材がいない」と言います。私は「最大の人材は社長をやっている人材、つまりあなたですよ」と答えます。でも、社長が偉いわけではありません。役割が違うだけです。ただ、企業において社長という仕事は、その組織の最高意思決定権者という役割があります。結果として上手くいかなかったからといってその責任を他の仕事をしている社員に擦り付けるのはどう考えてもおかしいですよね。リストラとはそういうことなんです。経営者も社員であり人材であるということが認識されなければいけません。3年連続赤字を出したら付ける薬は一つしかありません。社長が替わることです。でも、現実には替わらず、社員数が減っていくだけです。これでは何も変わりません。私はよくリストラする会社の社長にこう言います。「リストラするならまず自分の腹を切れ、社員を路頭に迷わすなら、自分も一緒に迷え」と。それだけの覚悟が経営者には必要で、採用した社員の命と生活を定年まで守ることができない人が、本来会社を起こしちゃだめなんです。

全国各地で経営者向けの講演会をやっていますが、いつも出てくる方は、もう勉強しなくていいような立派な方ばかりです。逆に、本来出てくるべき人が出て来ないのです。平日は忙しいというから土日にやっても出てきません。だから、どんどん格差が広がっているように思います。そして、出てこない人たちの決まり文句は「問題は外にある」つまり、悪いのは景気や政策、業種や業態、規模、ロケーション、大企業や大型店なんです。

社員を動かすのは「心」

―社員のモチベーションが高い企業と低い企業とを3年間比較した調査がありました。その結果、人事制度や給与制度はほとんどモチベーションに影響を与えない、強くモチベーションに影響を与えているのは「リーダーの人格」だったということでした。

給料を高くすればいいというものではないのです。さらにこの調査の続きから分かったことは、業績の高い会社の社員がモチベーションが高いのではなく、社員のモチベーションが高い会社の業績が高いということでした。鶏が先か卵が先かではないのです。モチベーションが高い会社は例外なく業績が高かったのです。だったら、経営者の仕事が何か分かりますよね。業績を上げることではなく、社員のモチベーションを上げることです。社員を大切にすることです。結論は出ているんです。そして社員のモチベーションの源泉は経営者の「人格」とか「徳」ですね。「優しさ」や「思いやり」、「人間力」といってもいいです。立派な経営者は苦労されている方が多いのです。涙をたくさん流してきたような方です。人の優しさは涙の量と比例するといいますが、自分が苦しい思いをしていなければ、人の苦しみは分からないですよ。エリートコースを歩いてきた人には泣いている人の気持ちは分からないでしょう。戦前、戦後を通して、立派な経営者は皆、苦労人ばかりです。だから利他の心を持っているんです。だから愛されるのです。

―著書の中では、障がいを持った方をたくさん採用されている会社がいくつも出てきます。そして、そういう会社の業績が高いということが、坂本先生のお話を何より証明しているように思います。

障がい者の法定雇用率を守っている会社は45%程度です。障がい者を区別する人は、自分やその家族だけは永遠に障がい者にならないと思っている人たちです。でも実際には、明日なるかも知れない、自分の将来の姿かもしれないのです。そして、障がい者を雇用するようになった会社は、それまでギスギスしていた社内にぬくもりが生まれたといいます。助け合い、分かち合いの心が生まれるのです。自分たちよりはるかに日常生活に支障があるような人たちが、朝から晩まで一生懸命に作業する姿を見ると感動するといいます。そして、自分たちが幸せの絶頂にいて、茹でがえっていることに気付くそうです。

ビジネスしは異例のベストセラーを続けている『日本でいちばん大切にしたい会社』シリーズ。写真は最新の「4」。(発行:あさ出版)ビジネスしは異例のベストセラーを続けている『日本でいちばん大切にしたい会社』シリーズ。写真は最新の「4」。(発行:あさ出版)

―3・11を経て、「助け合う」「分かち合う」ことの大切さに多くの方が気付いたように思います。

私は、災害はあってはならないことですが、人々の心に蓋をしていた大きな石をも地震が動かしてくれたと感じています。日本の底力を見た気がします。

―今日は、企業の存在価値や社会的使命についてお話を伺いましたが、結論は「カイシャ」も一人の人間と基本的には変わらない。優しさや思いやりが大事だと分かり、何か救われた気がします。いいお話をお聞かせいただき、本当にありがとうございました。

坂本光司(さかもと・こうじ)

1947年、静岡県生まれ。経済学者。専門は中小企業経営論、地域経済論、福祉産業論。法政大学経営学部卒業。浜松大学教授、静岡文化芸術大学教授などを経て、2008年より法政大学大学院政策創造研究科(地域づくり大学院)教授及び、法政大学大学院イノベーションマネジメント研究科(MBA)兼担教授を務めている。また、新設された法政大学大学院静岡サテライトキャンパスでは、キャンパス長も兼任するほか、国、県、市町や商工会議所等団体の審議会や委員会の委員を多数兼務。主な著書に『円高、国際化と地域産業』(静岡新聞社)、『この会社はなぜ快進撃が続くのか―10年以上高い成長を実現している22社の特徴』(かんき出版)、『選ばれる大企業、捨てられる大企業―中小企業とのwin winの関係を構築せよ』(同友館)、『日本でいちばん大切にしたい会社』『日本でいちばん大切にしたい会社2・3』(以上、あさ出版)など。

坂本光司(さかもと・こうじ)