第37回:ヴィンフリート・シュナイダーさん

第37回:ヴィンフリート・シュナイダーさん

今号の特集では「バウビオロギー」という考え方を取り上げましたが、バウビオロギーの提唱者であるアントン・シュナイダー氏の長男でIBN(バウビオロギー・エコロジー研究所ノイボイエルン)の現代表を務めているヴィンフリート・シュナイダー氏が軽井沢で開催される「バウビオロギー+建築+環境医学(B.A.U)会議」に参加するため初来日されました。今回の「この人に聞きたい」では、軽井沢での会議に先立ち、日本バウビオロギー研究会主催によるシュナイダー氏のセミナーでのお話、セミナー後の個別インタビューにてお聞きした内容についてご紹介します。(文/2013年1月現在)

建築に対する意識は、エンドユーザーの要求により高まっていく。

〈 セミナーにて 〉民家―バウビオロギーの根源

セミナーの様子。写真右がシュナイダー氏、左は当日通訳を務めた石川恒夫氏。セミナーの様子。写真右がシュナイダー氏、左は当日通訳を務めた石川恒夫氏。
セミナー会場の様子。参加者は建築関係者だけでなく、一般の人も多かったよう。セミナー会場の様子。参加者は建築関係者だけでなく、一般の人も多かったよう。

私は小さい頃から建築、特に、伝統的な佇まいに関心があって建築の道に進みましたが、めぐり巡って今日、日本の伝統的な木造建築、技術、風景に触れることができ、あらためて願うことは、皆さんが欧米的な建築を追い掛けるのではなく、皆さんが本来持っている、日本固有の建築を活性化していただきたいということです。バウビオロギーはそのための一つの助けになるものです。

そして、「バウビオロギー」を一言でいえば伝統的な民家ということになります。しかし、単に民家をコピーすればいいということではありません。今日の知識や技術に基づいてこれら民家をベースに新しいものを生み出していく、ということです。もちろん住宅に限ったことではなく建築全般にいえることですが、民家にはその前提的な意味合いが含まれているのです。それに対して、東京の風景は民家の風景に比べ、「より少ないバウビオロギー」ということができます。東京に限らず、世界中の大都市にいえることであり、自然との関係性を見失っている場所、大量のエネルギーやモノが消費されていく場所、そして、環境破壊が進んでいる場所です。

120箇所の相談窓口

シュナイダー氏設計の住宅事例・外観。シュナイダー氏設計の住宅事例・外観。

私が代表を務めているIBNはミュンヘン近郊の長閑な農村風景の中にあります。父は木材や木造技術、また林産を学んでいました。1969年にローゼンハイムの専門工科大学の教授となりましたが、当時、木材防蟻剤の有害性発覚を契機にバウビオロギーの研究を始め、1976年に研究所を開設しました。

IBNの業務は、施主やメーカー、施工者に対するアドバイス、エコ・ジードルンクを作りたいという人たちへの支援、化学物質の測定や調査、建材や家具の評価・認証など多岐に渡ります。ドイツを中心にヨーロッパ各地に120箇所の相談窓口があり、IBNの通信教育を経た人材(バウビオローゲ)がIBN本部と同じように地域の要請に応えています。人材育成は、通信教育を経た上で測定技術(空気質、電磁波、カビ、放射能、騒音、光など)、エネルギー・アドバイス、空間造形の研究コースによってさらなる専門家育成がなされています。ベーシックとなる通信教育は25冊のテキストからなり、ドイツでは1〜2年掛けて学びます。これまでドイツで約8000人、その他の国で約2000人が受講しており、3000〜4000人のバウビオローゲ(試験を修了)が生まれています。

専門家と万能家による協働

セミナー終了後に場所を変えてインタビュー。インタビューには自然素材家具のブランド、TEAM7(ティームセブン)のマテー氏も加わってくれた。 セミナー終了後に場所を変えてインタビュー。インタビューには自然素材家具のブランド、TEAM7(ティームセブン)のマテー氏も加わってくれた。

バウビオロギーは人間とつくられた(建設された)環境との全体性的な(トータルな)関係性についての学である―。この言葉は、バウビオロギーを定義するときに用いている言葉です。今日あらゆる学問が専門化されてしまっていますが、「全体」ということに意識を向けて欲しいと願っています。

とはいえ、今日の建築に必要な知識は膨大で、様々な領域があり、その全てをマスターするのは不可能かもしれません。しかし、包括的視点をすべて実現できるとも、実現すべきとも考える必要はありません。一歩一歩できることからやればいいのです。120の窓口ではそれぞれ軸足となる職能を持った専門家が情報交換し、領域を超えた「協働」を行うことで対応しています。物理学者のヴィクトル・ヴァイスコップは「エキスパート(専門家)とは、細部を知り尽くして、ついには全体がなんだったのかわからなくなる人のことをいう」と語っています。実際に全てのバウビオロギーの知識を持っている人はいません。大事なのは専門家と万能家(ジェネラリスト)の両方の視点を持つことであり、それぞれが得意分野を持ちつつ、いつも概観する視点から互いが協働することではじめて理想的なチームがつくれるのです。

〈 質疑応答・インタビューにて 〉エンドユーザーからの圧力

―バウビオロギー的な住宅はどれくらい建っているんですか。そして、実際のつくり手の意識はどうなんでしょうか。

事例はたくさんあります。しかし、何をもってバウビオロギーの家であるかの線引きはできません。25の指針の70%以上が達成されていればいいとか、そういう問題ではないのです。今、ドイツで建てられている住宅の2 割くらいはバウビオロギー的な配慮がされているといえるかもしれません。

エンドユーザーの関心は、つくり手よりもはるかに高くて、エンドユーザーからつくり手に圧力が掛かっています。つくり手は自分たちが勉強しなくてはその要請に応えられませんから、否が応でも意識は高まってきています。これらの現象は、つまり、バウビオロギーを学ぶとこで、競争に勝てることを意味しています。

―バウビオロギーの家のコストはどのくらいですか。

レベルによりますが、バウビオロギー的な配慮を行った家は、一般的な住宅に比べ10‒15%ほどコストアップします。しかし、完成した家は省エネ化が図られ、何より健康を支援する住まいですから、医療費の削減、リサイクルできるなどの特典があるわけです。環境の世紀といわれる時代、持続可能性が問われています。「健康」「エコ」「サステナブル」は、世界全体のメガ・トレンドです。ヨーロッパ各地に環境を擁護する銀行(環境銀行)が増えています。こうした銀行では環境に配慮した住宅には金利を優遇するなどの特典を提供しており、バウビオロギーの考えで家を建てた人の多くがこうした銀行を利用しています。バウビオロギーは、決して一部のお金持ちに対する高付加価値商品ということではありません。一般市民の誰もができる家づくりのスタンダードであり、そのための智恵が詰まっているのです。

「工業化」と「手づくり」の価値

―日本にはハウスメーカーがあります。ドイツでもハウスメーカーのような存在はあるのでしょうか。また、日本では省エネ、エコの担い手として太陽光発電を導入する住宅が増えていますが、バウビオロギー的な評価を教えて下さい。

ドイツにもパッケージ化された住宅を販売しているメーカーはいくつもあります。その多くは「安く・早く」住宅を提供していますが、一方で、徹底的にバウビオロギー的価値を追求したメーカーもあります。彼らは自分たちの建材や仕様を特許にし、差別化しようとしているのです。

また、太陽光発電パネルの評価は難しいところです。もちろん、再生可能エネルギー利用という面は評価できる部分ですが、自然の電磁場に対する影響を考えた場合、すでに存在する人工的な電磁場は自然界に存在するそれよりも圧倒的に影響が大きく、太陽光パネルだけを取り出して問題視する意味があまりないのです。例えば、高周波を遮蔽する住宅を建てる人が増えていますが(携帯電話が通じない)、そうなってくると自然界の電磁場の話はどこかに飛んでいってしまうのです。太陽光発電による電力は直流ですから、電気そのものは人体に問題はありません。しかし、太陽光発電のシステムを構成する部材の多くは金属からできていますから、パネルから居住スペースまでは1〜2メートルは取りたいところです。

―エンドユーザーの問題意識が高まっていることは確かだと思いますが、余計にお金を出す、結果が出るまで時間が掛かることを、どう「価値化」しているのでしょうか。バウビオロギーの方向性は、「工業化」という方向性と異なるもののように感じます。地域の材料を巧に使う、一つ一つ人の手でつくることには工業化とは別の価値があるように感じます。

建材一つ一つを評価し、リスト化したり、完成した建物を検査したりしています。また、バウビオロギー的配慮を行った住宅に対して認定するなどの方向性も探っていますが、99%評価しても残りの1%が悪さをしてしまうことも多いに考えられるのです。私たちは徹底的でありたいと思っています。だからこそ、安易に「認定」することなどできないと思っています

それから、もちろん「野の材料」と「手の仕事」には価値があると思います。しかし、結局このような価値は「他人に説明してもらう」というよりも「自分自身が感じる」ことだと思うのです。

―「思い」とか「こだわり」ということはかなり個人的な価値ですが、実際にドイツでも同じ状況なのでしょうか。例えば、施主自ら家づくりに参加できる要素を、バウビオロギーは持っていると思います。

やはり、一つ一つの住宅を評価する必要があります。ハウスメーカーでもピンからキリまでありますし、施主がどのような要望を持っているかで評価は変わります。職人さんにもピンからキリまであるわけです。また、セルフビルドについては、ドイツでは、かなり大きく展開しているハウスメーカーでも施主のそのようなニーズに対応しています。プランニングから使う材料まで選べ、ユーザーに近づいていく姿勢を持っている点は、日本のハウスメーカーとは違った位置付けかもしれません。

「一歩一歩」確実な広がり

-日本でもドイツの「パッシブハウス」に学ぼうと「パッシブハウス・ジャパン」という組織があります。パッシブハウスとの繋がりはあるのでしょうか。

特にコンタクトはありません。もちろん、バウビオロギーでパッシブハウスをつくる人はいます。しかし、何を使うのかの配慮が問題で、自然系の材料を使うかどうかがバウビオロギーでは問われます。全体的な視点の中でエネルギーを考えるのか、エネルギーという問題に特化して考えるのかで全然スタンスが違うのです。

-最後に、バウビオロギーの考え方が広がっていく過程で広がりを抑制する何らかの圧力を感じたことはありますか。また、人々の意識を高めたり、考え方が広がっていくために何が必要か教えてください。

30年ほど前の草創期には化学産業と私たちの間で問題が生じました。それを機に私たちも「証明できる」ということを重視するようになりました。今日ではお客様がIBNの側にいることを産業界も認識するようになり、穏やかな関係になっています。このような関係を築く上で「実証できる」ことはとても重要なのです。

また、意識についてですが、その前提にあるのがメガ・トレンドです。このようなニーズは意識するしないに関わらず多くの人の中にすでに存在していて、雑誌やインターネット、今日のような講演会などを通して喚起していくということです。バウビオロギーでは120箇所の相談窓口があり、そこから枝葉のように分かれて末端まで広がっています。様々な職能を持った人たちの協働の輪が広がっているということです。そして、通信教育を受講する人が年間200人ずつ増えています。一歩一歩ですが、確実に裾野は広がっています。火が付いたように広がると鎮火するのも早そうです。少しずつ広がっていくのがむしろ健全ではないでしょうか。

「トレンド」という後押しはありますが、広がっていくためには「エンドユーザーが要求する」「協働する」「証明できる」など、いくつかのキーワードがあることを感じました。今日は大変貴重なお話を伺いました。ありがとうございました。

ヴィンフリート・シュナイダー

1962年生まれ。建築家。IBN(バウビオロギー・エコロジー研究所ノイボイエルン)代表。ミュンヘンで家具及び建築を学び、ローゼンハイムに妻とともに設計事務所を開設。設計から監理まで全てを行う。バウビオロギーの持つホリスティックな意味において、建物が完成するのは、ただ「健康」で省エネだけではなく、良く、そして、快適に感ぜられるように造形されてのことであるという信念を持っている。

ヴィンフリート・シュナイダー

※この記事は日本バウビオロギー研究会の30回記念定例セミナーの取材を基にしたもので、日本バウビオロギー研究会の好意により掲載させていただきました。