第36回:長澤悟さん

「この人に聞きたい」第36回目は、長年、学校建築に携わられてきた東洋大学教授の長澤悟さんです。
今回は、8月22日(水)に建築会館ホールにて開催された「これからの学校建築を考える」(主催:OMソーラー株式会社)セミナーにて講演していただいた内容をご紹介します。
昨年の東日本大震災では、学校の校舎や体育館が避難場所として重要な役割を果していることを多くの人が再認識されたことと思います。学校は子どもたちの勉強の場としてだけでなく防災や地域コミュニティーの場であり、学校建築の有効活用はその地域の活性化に寄与し、それがまた学校本来の教育機能を高めることに繋がります。あらためて「学校建築」の役割りを認識し、永く使うためのヒントが得られればと思います。(文/2012年11月現在)

学校施設の活用は、老朽化対策ではなく“現代化”という視点で。

震災からの「復興」と残すべき「形」

写真:いわむらかずおさん

私の専門は建築計画学で、特に学校建築を対象に研究してきました。学校の先生方や地域の皆さん、時には子どもたちを交えて話し合いを行い、学校を作っていくということをしてきたわけですが、ハード面だけでなく、むしろ「教育のあり方」だとか「地域の姿」など、ソフト面の考慮が重要になってくるところが学校建築の特徴だと思います。また、その時の社会情勢なども大きく影響してくることから、様々な情報を共有し、多くの関係者と共に夢の実現を図る、こういったプロセスが「学校づくり」ということになるかと思います。

そういった意味でも昨年の東日本大震災は大きな出来事でした。被災地から距離が遠かったり、時間が経過したりすると共に、とかく意識から離れてしまいがちですが、震災からの学校の復興は大きな課題で、被災地では今なお大変な状況が続いています。津波の被害を受けた学校は70校余りに上り、その地域における復興の姿が見えていないということもあって、手付かずの状況が続いていました。最近ようやくいくつかの学校で計画がスタートし始めていますが、一方で、復興全体に関わる作業量の多さ、技術系職員の不足、そもそも子どもが減少してしまったり、多くの被災者が住むところも定まらなかったりする中で、なかなか新しい学校の姿を描く場が持てないというのが実情です。

被災地の復興の一方で、この震災を境に学校建築が変わったと後世に言われるように、私たちにできることをキチンと考え、形にしていくことが何より大事だと思います。例えば関東大震災(1923)では、震災を機に東京、横浜の学校は全て鉄筋コンクリートになり、都心の学校では隣に公園を設けるなど、避難場所としての配慮から構造や立地の考え方がそれ以前と以後とで大きく変わりました。それに対して、今回の震災を受けて何が言えるのか考えたとき、その一つとして、「地域の核となる学校づくり」ということがあると思います。「学校開放」、「地域との連携」ということはこれまでも大きな課題として挙げられてきたことですが、これらを具体的な形、姿として表すということが一つの目標になるのだと思います。

求められている役割と現実のギャップ

8/22に建築会館ホールにて開催された「これからの学校建築を考える」セミナーの様子。100名を超える参加者が集まった。

8/22に建築会館ホールにて開催された「これからの学校建築を考える」セミナーの様子。100名を超える参加者が集まった。

セミナーでは環境共生手法を取り入れた施設建築を多く手掛ける建築家の野沢正光氏と対談も。

セミナーでは環境共生手法を取り入れた施設建築を多く手掛ける建築家の野沢正光氏と対談も。

私が計画に関わっている大船渡市の小中学校は津波で大きな被害を受け、割と早い時期に高台に建て替えることが決まりました。しかし、復興全体の施策が固まらない状況が続き、ようやくこの3月に設計者が決まり計画が進み始めました。スライドにあるような方針のもとに取り組んでいるところです。地域の皆さんも安全な場所での学校の復興を熱望されており、とにかくスピーディーに進めて欲しいと仰っています。造成と建築の計画を一体として取り組むことにより、工期とコストを削減すると共に、特に重視しているのは、「高機能な教育空間」「複合化による地域の核となる施設」「ゼロエネルギー化」「(地域の)木材の活用」などの学校づくりの課題に応えることです。

大船渡の例に限らず、今回の震災を受けて学校は「地域の防災拠点」としての位置付けがより明確になっています。文科省では昨年7月に「東日本大震災を踏まえた学校施設のあり方に関する緊急提言」を発表しました。この提言のとりまとめには私も関わりましたが、3章から構成されており、「耐震性」「避難場所」「エネルギー」からなっています。そして、必要な項目を時間軸の中で整理した点が一つの特色だと考えています。

しかしながら、学校に求められている役割と現状とでは大きなギャップがあります。防災拠点となる公共施設等の施設別割合では、60%以上が文教施設で、公立小中学校の約9割が避難場所に指定されているわけですが、防災設備の整備が伴なっておらず、防災拠点としての要である耐震性も確保されていない学校がまだまだあります。耐震診断されていない建物を含め、耐震性のない建物が2万棟以上、震度6強の地震で倒壊する恐れのある建物が3千数百棟あると文科省の調査から報告されています。今年度中に耐震化率90%以上とし、100%を達成することが目標とされています。また、今回の震災では天井など非構造部材の安全性の確保が課題として浮かび上がりました。特に、体育館の天井が落ちたりすると、避難場所として使えなくなるわけで、点検など必要な対策が求められます。構造の耐震化が急速に進む一方で、非構造部材の耐震性の確保は大きな課題となっています。

避難場所としての機能とゼロエネルギー

東日本大震災で被災した大船渡市の小学校と中学校の復興計画。東日本大震災で被災した大船渡市の小学校と中学校の復興計画。
学校の防災設備の整備状況は十分とはいえない(国立教育政策研究所)。学校の防災設備の整備状況は十分とはいえない(国立教育政策研究所)。
東日本大震災で被災した大船渡市の小学校と中学校の復興計画。避難所としての機能も時間と共に変化することを前提に計画される必要がある。

次に「避難場所」としての機能についてですが、先に述べた緊急提言では4つの段階に分けてそれぞれ必要な機能を示しています。例えば「学校機能再開期」の段階になると、避難所としての機能と学校としての機能が同居する形になり、その状況に対応できるようなゾーニングがあらかじめ計画されていることが大事になります。

私自身の経験として、中越地震の際に長岡市立東中学校の計画に関わっていた途中で地震が起こり、計画が丸1年ストップしました。計画を再開するに当たり、市長から「この1年で経験した災害対応に関する市が得た知見を全て伝えるので、それを盛り込んだ施設づくりをして欲しい」と言われ、防災機能を強化した計画を実現しました。この内容は東日本大震災で被災した学校関係者や実際に避難されていた方からも評価していただきました。例えば、学校専用のゾーンと避難所としてのゾーンを分け、その間に大きな屋根の付いた広場があります。屋内運動場の隣に簡単な暖房機能が付いた武道場があり、ミーティングルームが防災センターになります。開放時には開放玄関から人々は出入りしますが、避難時にはグランド側の屋根付き広場から人々が出入りしたり、支援物資の搬入を行なったりできるようにしています。

次に「エネルギー」についてですが、緊急提言では、インフラが断絶した際に必要な環境をどう維持するかということと共に、日常、学校施設として使用するにもエネルギー問題は基本になるという考え方を示しています。その後、文科省、国交省が一緒になって「ゼロエネルギースクール」の検討を行っています。環境を考慮した学校施設の整備(エコスクール)については平成8年から取り組まれており、その柱は「環境にやさしくつくる」「賢く・永く使う」「環境教育に生かす」というものです。「エコスクール」という大きな取り組みに対して、さらに焦点を絞ったのが「ゼロエネルギースクール」だと言えます。基本的な考え方は、まず教育機能を高める、あるいは地域利用、災害時の対応など、必要なエネルギーはきっちりと確保する、そして、無駄は徹底的になくすことでエネルギー消費量を減らす。その上で太陽光発電、太陽熱利用など創エネ技術を組み合わせ年間のエネルギー収支をゼロにするということです。

子どもたちの活動とリンクしたゼロエネ

新潟県長岡市立東中学校で実施された計画(長岡市教育委員会)。新潟県長岡市立東中学校で実施された計画(長岡市教育委員会)。

これまでの統計では、学校施設は量販店や外食施設などエネルギー消費量の比較的多い施設と同じ括りで、低炭素化、省エネの努力を求められるところでした。しかし、学校施設の実際のエネルギー消費量を調査したところ、1m2あたりの年間消費量の原単位は350MJ(メガジュール)で、量販店や外食施設の3、4000MJという数字とは、全くオーダーが違うことが判りました。学校ならではの特性や実態をきちんと把握し、教育機能と併せて考えていくことが、学校施設におけるゼロエネの取り組みにおいて重要だと思います。

東京地域におけるRC造9,000m2の学校を想定した試算では、省エネとして高断熱化、高効率機器の導入、ライトシェルフ(庇と開口部を用いた昼光利用)の設置を進め、創エネとして太陽光発電設備約150kw導入を行うことで、ゼロエネルギー化は実現可能という結果が出ています。また、防災機能との関係では、電力や熱の供給、室内環境向上、その他雨水や中水利用など、平常時だけでなく災害時にもゼロエネ化対策は有効となります。

学校の消費エネルギーの内訳。照明が大きいが、暖房や換気も多くOMソーラーが果せる役割は大きいといえる。学校の消費エネルギーの内訳。照明が大きいが、暖房や換気も多くOMソーラーが果せる役割は大きいといえる。

特に学校では太陽光発電やOMソーラーといった設備だけでなく、自然採光(トップライト)や自然換気(ソーラーチムニー)、パーゴラとよしず、緑のカーテンによる日照調整など、基本的なことから始め、子どもたちの活動と組み合わせていくということがとても大事だと思います。

3つの「きょうどう」と4つの「教育空間」

茨城県大洗町立南中学校の「教科センター」の様子。茨城県大洗町立南中学校の「教科センター」の様子。
北海道豊富町立豊富中学校の「ホームベース」の様子。北海道豊富町立豊富中学校の「ホームベース」の様子。

防災拠点としての役割とともに、学校本来の「教育機能」を高めていくという目標も忘れてはいけません。細かなところまで見ていくといろんな課題があるわけですが、ここでは大きな目標として、「きょうどう」ということとその実現のために求められる教育空間について述べてみたいと思います。

運営面を含めてどういう空間が適切であるか考えることが大切で、その前提となる目標が3つの「きょうどう」です。1つ目は子ども同士の学び合いとしての「協同」、2つ目が教師が協力しながら、学校の教育目標に沿って有機的な組織体として対応する「協働」、そして3つ目がこれらが地域を含めて学びの共同体となる「共同」です。この3つの「きょうどう」を可能にする空間のあり方が課題になるわけです。

その課題は①集団としての教師のパワーを生かすこと、②多様な教育メディアが用意されていること、③生徒たちが能動的、積極的に行動できること、④お互いを認め合いながら多様な人的交流を生み出すことの4つにまとめられると思います。従来のような廊下と机がいっぱいに並んだ教室だけというあり方では4つの課題に対応することは難しいということです。

それに対する具体的な教室のあり方ですが、小学校の場合は学年で教室をまとめて、それにオープンスペースを組み合わせるという計画が一般的です。学級担任制ということが、この計画の背景になっています。それに対して、中学校の場合は教科担任制ですから、学年で普通教室をまとめても前述の4つの課題に対応し、スムーズに運営していくことが難しくなります。近年注目が集まっている「教科センター方式」は、教科が自立的にマネジメントできるしくみがベースになっていて、教科毎の教室のまとまりをつくって、子どもたちがそこで主体的に学習に向かうという計画です。小学校のオープンスペースが比較的がらんとしているのに対して、中学校の教科センター方式のオープンスペースは教科の特色を生かした環境づくりが積極的に行なわれています。

また、教室とは別に「ホームベース」と呼ばれる生活空間を設けるのも大きな特徴です。先生たちがつくり上げる教室に対して、ホームベースは生徒たちが自分たちの手でつくり上げていく空間となります。クラスの場づくりも含めて、クラスのまとまりを生み出すことが狙いです。

地域木材の活用と「現代化」という意識

愛農学園農業高等学校(三重県)校舎外観。RC3階建ての校舎を2層に減築し耐震性を確保。OMソーラーの導入により温熱環境改善と同時に省エネを実現。室内も木質化を図り、教育機能の向上にも貢献している。愛農学園農業高等学校(三重県)校舎外観。RC3階建ての校舎を2層に減築し耐震性を確保。OMソーラーの導入により温熱環境改善と同時に省エネを実現。室内も木質化を図り、教育機能の向上にも貢献している。

公共施設への木材活用が義務付けられるようになりましたが、学校施設においても地域木材の活用は、エコや温暖化という面、学びやすい環境づくりという面、また、地域の山林の保全など社会的な面でも大きなテーマになります。建築材料として使える年数に達した木がたくさんあり、それを上手く使いながら山の保全を図り、資源を循環させていくということが求められています。オープンスペースを設けるにしても木の柱ならあまり邪魔にならないので、大きなスパンを飛ばすということに囚われないで、木ならではの空間の構成を考えることが大切です。

黒みがあるため住宅には嫌われていた地元の杉の木が、学校で使ったことにより見直されるようになった例もあります。学校施設にはそういう力があります。大規模建築物に木を使うのはまだまだ一般的ではないため、多くの困難を乗り越える必要が出てきます。そのためには関係者が木材利用の意義や目的などを共有しておくことが大切です。

地域の材料を使った建築は地域のシンボルとして相応しいと言えます。その役割を果してきた学校を次にどう生かしていくかということが今後の大きな課題となっています。学校施設は約16,000万m2という膨大なストックを抱えており、公共施設の約4割を学校施設が占めていますが、その2/3は25年以上を経過しています。学校建築が大きく変革したのは、新耐震基準の適用と設計者がきちんと関わり始めた昭和59〜60年頃です。それ以前の建物は、ほとんどスケルトンにして再生していく方法にならざるを得ない面がありますが、それ以降の建物は質的にも面積的にもあるレベルを備えていますので、いわゆる「老朽化」対策ではなく「現代化」と捉えて対応していくことが大切だと思います。

イギリスの学校を訪れたとき、関係者が「今度建てた建物は300年使う」とさらっと話していました。日本との認識の違いに驚いたわけですが、一旦建てたものは永く使い続けるということが大きな課題であるし、そのための智恵が求められます。

今、学校建築の課題となっていることを駆け足で話しました。最後に簡単にまとめると、防災拠点としての計画、ゼロエネルギー化、教育機能の充実化、膨大なストックの長寿命化等、従来までの価値観に囚われない活用方法の検討が必要です。地域木材の活用はそのための切り札になるということが言えると思います。この後お話される野沢先生が取り組まれたOMソーラーによる愛農学園の改修手法はその好例といえるものだと思います。本日はどうもありがとうございました。

長澤悟(ながさわ・さとる)

東洋大学理工学部建築学科教授。教育環境研究所所長。木と建築で創造する共生社会研究センター(WASS)センター長。1948年、神奈川県生まれ。東京大学工学部、同大大学院博士課程終了(工学博士)。東京大学助手、日本大学工学部教授などを経て、1999年より東洋大学へ。日本建築学会賞作品賞、同業績賞、日本教育研究連合会表彰など受賞歴多数。著書に『やればできる学校革命』(日本評論社)、『学校づくりの軌跡~福島県三春町の挑戦~』(ボイックス)ほか。

長澤悟(ながさわ・さとる)