第32回:宿谷昌則さん

第32回目は、東京都市大学教授で建築環境学を研究されている宿谷昌則さんです。宿谷先生には、これまで「中宇宙としての住まいの環境を考える」と題した全7回の連載をご提供いただき、"住宅とは何か"、"本当の快適さ"について解説していただきました。今回の「この人に聞きたい」では、これらを総括していただくことにしました。
「快適さ」は、室温だけで決まるものではなく、実は「放射」こそ重要であること、そして、そのプロセスとして「中宇宙としての住宅」「流れ・循環のデザイン」を認識することが大切であるなど、本当の意味での快適さの追求は非常に奥が深いことがわかります。すべてを理解することは難しいですが、連載とあわせて読んでいただき、その"入り口"だけでも見えてくればと思います。(文/2012年2月現在)

OMソーラーは「エネルギーの流れ」をデザインする美しいシステム。

家も地球も「太陽エネルギーの流れ」の通過点に過ぎない

写真:宿谷昌則さん

―「中宇宙としての住まいの環境を考える」の連載を通して宿谷先生が何を伝えたかったのか、まずはあらためて総括していただければと思います。

人間は誰しも「家」に住んでいて、「家」無しには生きられない存在です。でも、あまりにも当たり前すぎて、なかなか考えてもらえないのも事実です。連載では「そもそも家とは何なのか」ということを読み手の皆さんにも一緒に考えてもらいたかったということです。そこで、敢えて「中宇宙」という言葉を使って、「家」がつくる身近な環境について解説してみました。この図(図1)には、快適性の話もエクセルギー(コラム1参照)の話も含まれています。

図の中には太陽から人に向けての矢印と、人から宇宙に向けての矢印の2つの太い矢印が描かれています。多くの人は、太陽熱利用というと、太陽から人へ向かう矢印だけをイメージします。ですが、地球環境が成り立ち、その中に私たちの中宇宙があることを認識する上では、人から宇宙へ向かう矢印もイメージできるようにすることが大変重要なのです。言い換えると、入ってくる矢印は、出ていく矢印と一対だから成立している、という見方が大切なんです。

言われてみれば「入ってくれば出ていくのは当たり前」と思われるかもしれませんが、この"流れ"の中に地球環境も中宇宙も存在していることをイメージできる人はなかなかいないのです。

環境空間の入れ子構造
図1:環境空間の入れ子構造

上図では、表面温度約5700℃の太陽から家や人を経由して-270℃の宇宙環境への「流れ」を表している。この「流れ」をエクセルギー・エントロピー過程と考えることができる。私たちの身体を含む様々な系は、エクセルギー・エントロピー過程という「流れ」の中に形態を創り出し働きを営んでいる。

―上水道は下水道があるから成り立っていることと同じですよね。

そう。でも、太陽熱=資源と考えてしまうと使うことばかりに目が向いてしまい、使ったあとのことには無関心になりがちです。太陽熱はもちろん重要です。

でも、それは冷たい宇宙があるからこそ、ということを認識しなくてはいけません。宇宙が温かかったら日射なんてありがたくも何ともないですから。そのことをまずは認識する…ということで、この図をいつも使っています。実は同じことを、鴨長明も方丈記の中で詠んでいます。 「ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず。淀みに浮ぶうたかたは、かつ消え、かつ結びて、久しくとどまりたる例(ためし)なし。世の中にある人と、栖(すみか)とまたかくのごとし。」

最初に聞いたときには何とも思わなかったけれど、エクセルギーの研究をするようになって、この歌の奥深さ、鴨長明の凄さを再認識しました。

―当時は理論的にこのことを説明できなかったでしょうけれど、ちゃんと感じていた先人の感性に驚きますね。

本質をきちんと捉えていたんですね。熱力学的に僕たちが分かってきたことは、結局は鴨長明がすでに言っていたことだったんです。

「効率を上げる」ではなく、「どう使うか」がエクセルギーの研究

―私たちは、太陽熱をいかに上手に取り入れるかに苦心していますが、その一方で、入ってきた熱をいかに上手に捨てていけるか、ということも同じくらい考えなくてはいけないということですよね。

そうです。100入ってきて50使いました。効率は50です。そういう見方では効率を上げることばかりに目が向きます。

―50を60に、そして60を70に、それこそが技術の進化だと。

その時点で視野狭窄に陥っているわけです。人体や植物、暖房や冷房・照明など、様々なシステムについて取り組んできましたけど、エクセルギーの概念でシステムの成り立ちを整理してみると、大雑把に言って効率としては皆3〜8%の間に入ってしまいます。言い換えると、あるシステムに100のエクセルギーが与えられたとすると、少なくとも95は消費しないと目的は達成できないのです。植物の葉っぱでさえそうです。葉っぱに日射が当たって、グルコース(※1)として蓄積されるのは5%程度です。例えば、部屋を暖房して20℃に保ちたいというとき、天然ガスを燃やして暖房したとすると、天然ガスが持っているエクセルギー100のうち、95くらい消費すると部屋の温度を20℃に保てるということになります。これは、冷房でも照明でも大体同じなんです。

(※1)【グルコース】糖の一種であり、代表的な単糖の一つ。デキストロースとも呼ばれる。人間をはじめ、動物や植物が活動するためのエネルギーとなる物質の一つ。

―それはよく言う「エネルギー効率60%とか80%」という数字とは別なんですよね?

例えば「エネルギー効率80%」というのは、例えば天然ガス100として煙突から逃げていく20を差し引いた80が熱として部屋に与えられるということだと思いますが、そこには"質"が考えられていないわけです。20は単にエネルギーの量であって、煙突から出ていく煙が持ち出すエネルギーに過ぎません。しかし、エクセルギーの概念では20℃という質を問題にします。天然ガスは温度に換算すれば4000℃となり、これはとても質が高いことを意味します。でも僕らがそれを使うには燃やすしかありません。ちなみに炎の温度は1200~1500℃くらいです。この時点でだいぶ温度は下がっています。そして、さらに20℃に下げて使っているんです。そう考えると、"効率良く"、"効率良く"と言うけれど、そんな無理なことを考えるのは、あまり意味のない話であることが分かります。どうせ流れて温度は下がっていってしまうんですから。であれば、"どう流れに身を任せることができるか"を考えるべきなんだ…そういうことになってきます。こういったことがエクセルギーの研究から分かりましたし、話は戻るけど、鴨長明は凄い人だということも分かったんです。

長年、建築環境を「エクセルギー・エントロピー」の概念で解こうと研究されてきた宿谷氏。著書の副題である「流れ・循環のデザイン」と「パッシブデザイン」は考え方が似ているのでは。

長年、建築環境を「エクセルギー・エントロピー」の概念で解こうと研究されてきた宿谷氏。著書の副題である「流れ・循環のデザイン」と「パッシブデザイン」は考え方が似ているのでは。

―コンマ何%の効率を上げることに血道を上げていることが空しく感じますね。

もちろん、全く無意味とは思わないですし、やらなければいけないことはたくさんありますが、あくまで"流れ"の中に効率を考えなければいけません。流れの道筋を上手に変えられれば効率はそんなに上がらなくてよい…そういうことだってあります。

―20℃という温度も家の外に出て、いずれマイナス270℃(宇宙)に流れていってしまう。人間は大きな流れの中の「20℃」という瞬間を使っているに過ぎないのですね。

そう考えると「断熱」をする意味が良く分かってくると思います。断熱とは水の流れをせき止めて水位(室温)を上げるということに近い考え方です。だから、やたらに上げてしまうと流れなくなってしまう。それでは困るので、適度に流してあげる水位を考えるわけです。"上げれば上げるほどいい"という論理ではないのです。逆に、水位が下がっちゃって、水がジャージャー流れていってしまうような場合に、水位を保とうとすれば、流れている水の量をうんと増やさなくてはいけない、ということになります。水位(室温)を保つには、流れる水の量を増やす(そのためには高い温度が必要)ことだけが答えではなく、せき止める度合い(断熱)を増やしてあげることでも達成できるのです。

―OMソーラーの家は、流れる水の量を増やす方向の技術と言えるのでしょうか?

どの家の屋根にも日射は大なり小なり当たるわけです。水の量は同じです。けれども、普通の家では屋根からそのまま宇宙に流れていってしまうのに対して、OMソーラーの家は一旦家の中を経由して流れていくことになりますね。太陽熱の流れる道筋を変えていることになります。そういう意味で大変面白い技術であるし、こういうことが本質的な住宅のデザインなんだと思います。この本(※2)の副題にしていますが、まさに「流れ・循環のデザイン」なのではないでしょうか。

(※2)【書籍/エクセルギーと環境の理論】参考図書参照。

コラム1 エクセルギーとエントロピー

コラム1 エクセルギーとエントロピー
部屋があって、その中央に湯の入った容器が置いてある。(a)から(b)へ、(b)から(c)への時間の流れの中で、水温は下降する。ここでは、部屋の大きさが容器に比べて十分に大きいために、室温の上昇は無視できるとする。熱拡散のイメージを黒点の拡がり散りで表現している。(a)の黒点の密度が高い状態が「エクセルギーが高く、エントロピーが低い」状態。(c)の黒点が拡がり散った状態を「エクセルギーが消費され、エントロピーが生成された」状態というイメージ。いずれもエネルギーは保存されている。(出典:『エクセルギーと環境の理論』より)

「省エネ」や「エネルギー消費量を減らす」などの言葉をよく見かけるが、本来「エネルギー」は保存されるものだと考えると、「省」や「消費」という概念は当てはまらないことになる。そこで、消費を明確にするために必然的に現れてくるのが「エクセルギー」という考え方となる。エネルギーは保存され、エクセルギーが消費されるのである。因みに「エクセルギー」をネットで検索すると「ある系から力学的な仕事として取り出せるエネルギーのこと。単に有効エネルギーともいう」と説明されている。また、「エントロピー」とは、エネルギーや物質がどれくらい拡がり散った状態にあるか(拡散の大きさ)を表現しており、エクセルギーとの関係では、「エクセルギーの消費は、エントロピーの生成に比例する」と説明することができる。右に、エクセルギーとエントロピーの概念を図で示す。

「室温信仰」からの脱却が必要

―宇宙という"大きな流れ"の話の一方で、家の中(中宇宙)における温熱環境を考えた場合、人体との関わりが問題になりますよね。

微妙な個人差はありますが、誰の体温を測っても37℃というのが平熱です。言い換えると、37℃という温度は、僕らの身体の内部で起こっている化学反応にとって丁度良い温度なんです。人の身体は基本的に燃えやすい物質でできていますが、水分が70%を占めており、ビチャビチャな状態で燃焼が起きることで37℃を保っています。特殊な燃焼の仕方なのですね。この燃焼の仕方は38億年という長い時間をかけて人類が獲得したものです。絶えずご飯を食べて化学反応を起こし、最後は体表面から熱を放出しながら生きているのです。大きな"流れ"にのっている、まさに小宇宙です。37℃よりも温度が上がると反応が促進され過ぎて具合が悪くなるし、下がると反応が滞って例えば細菌など外部からの攻撃に抵抗しにくくなります。ですから、身体は37℃を維持し続けようとして、温度が上がろうとすると「暑い」、下がろうとすると「寒い」と脳に意識させるようにできているわけです。「暑い」「寒い」と口にするのは身体が37℃を維持するためのアラームなんです。それで僕らは寒いとセーターを着たり手袋をするわけです。脳がそういう命令を下すようにできているわけです。このように考えてくると、じゃあ暖房や冷房は何のためにするのかが分かってくるように思います。

―もともと人間の体は放熱体であるから、快適な放熱環境をつくれるかが問われるということですね。暖房というと、「熱を取得する」という意識になってしまいますが、その逆で、「上手に放熱できるか」なんですね。そう考えると暖房も冷房も同じことですよね。

その通りです。

OMソーラーシステムは「美しいしくみ」

コラム2 放射と対流(直火と炭火)

コラム2 放射と対流(直火と炭火)

例えば、焼き鳥を焼くときに炎で焼くのと炭火で焼くのとではどちらが美味しいだろう。炎とはつまり「対流」であり、高温の空気が肉を包むことになる。そうすると表面だけが焦げて中には火が通りにくい。それに対して炭火はつまり「放射」であり、放射熱で肉を焼くから、表面温度がそれほど高くなくても中にはじんわりと火が通っている。暖房でも同じことがいえる。エアコンで温めた室内の空気はせいぜい20〜22℃で、身体の表面温度よりも10℃近くも低い。それをかき混ぜて身体に当てたら、身体からは熱が奪われてしまう。対流による暖房ではかなりの高温空気でなければ身体は温まらない。エアコンによる暖房の不快さはこのためだ。それに対して床や壁の表面温度がそれなりに高ければ体表面温は下がらないで済む。因みに、人体のエクセルギー消費が最も小さくなる(つまり「快適な」)環境は、室内空気温18℃で周壁平均温が25℃という計算結果が出ている。

―では、「放熱環境」として考えたとき、「放射と対流(コラム2参照)」の違いはどうなんでしょうか。

暖房や冷房の「房」という文字は「部屋」を意味しています。じゃあ、部屋の中に何がありますか?と聞くと、多くの人は「空気」があると言います。

―「温度」ということでしょうか。

おそらく。でも、僕はおかしいと思うんです。部屋の中を見ると、床や壁・天井があるのが見えて、空気は見えませんよね。「空気がある」と答えるのは、小学校か中学校かわかりませんが、どこかでそう教わって、刷り込まれて言っているように思えます。固定観念になってしまっていると思うんですね。僕は、「空気」よりはまず「放射」だと思うんですけどね。

―確かに、天気予報で出てくる数字も「気温」ですね。「暑い寒い=空気の温度」という刷り込みはあらゆる場面でされているかもしれません。

図1にある「宇宙空間」には空気なんかありません。放射が充満しているわけです。太陽からくる熱も、宇宙に帰っていく熱も放射です。

―OMソーラーのしくみでも、取り入れた空気で温かいのではなく、床や壁が温かいことで温かいということを説明しますが、なかなか伝わりにくいですね。夏に気温が高いのも、太陽からの放射熱とその熱が地面を温めて、地面からの放射熱が空気を温めているのに、太陽が空気を温めていると多くの人は思い込んでいます。

そう。プロセスがすっ飛ばされているから、「流れ」のイメージも掴みにくいのです。体感温度の一般的なこれまでの説明でも、「気温」「湿度」「風速」の順で全部空気の要素があって、最後に「放射」が出てきます。残念ながら放射の印象が薄いんですよね。でも実際には「放射」ありきなんです。僕が説明するときは「放射」をまず挙げますよ。

―壁の内表面を出入りするエクセルギーの様子を示した図(図2)では、放射の影響が大きいということがわかりました。

熱の伝わり方をエクセルギーの概念で理論化してみたら、放射の大切さが浮き彫りになったということです。体感に与える放射の影響は一般に思われている以上に大きいのではないかと考えています。

―人間にとって快適な環境をつくるには「放射環境」をどうつくれるかがカギなんですね。

エクセルギー的にいえば、出てくる放射エクセルギーを増やすということです。具体的には人間が温もりと感じる"長波長放射"を増やすということです。放射エクセルギーは外気温との関係で決まるので、夜に外気温が下がれば自動的に放射エクセルギーは増えます。そういう意味でもOMソーラーのしくみをエクセルギー的に説明すると"美しいしくみ"ということができると思います。
OMソーラーの家を、まだエクセルギーで評価したことがないので、機会があれば是非評価してみたいと思います。

―こちらこそ、評価していただければとても嬉しいです。"本当の快適さ"についての正しい理解や"流れ・循環のデザイン"の認識が浸透するにはまだまだハードルがありそうですが、宿谷先生と共にOMとしても引き続き取り組んでいきたいと思います。本日はどうもありがとうございました。

図2:断熱材の有無による「放射」効果の違い

図2:断熱材の有無による「放射」効果の違い

…長方形内の数字は、壁内表面での長波長放射の吸収によるエクセルギーの「消費」。
…壁の室内側表面の内側が「対流」のエクセルギー、壁内部が「伝導」のエクセルギー。
…「放射」のエクセルギー。

いずれの壁断面図でも、上部の数字は温度を示している。壁の温度は他の壁の放射温度と空気温度を与えて計算している。4枚の図から、「対流」に比べ「放射」の影響が大きいことが分かる。( )内の「温」「冷」はそれぞれ「温エクセルギー」「冷エクセルギー」を示している。

宿谷昌則(しゅくや・まさのり)

東京生まれ(1953年)。東京都市大学教授(環境情報学部・大学院環境情報学研究科)。専門は、建築環境学。自然のポテンシャルを活かす照明・暖房・冷房・換気などの建築環境システムとは何かを、熱力学と人間生物学の観点から理解し、人を含む自然の法則に照らして不自然でない建築環境の創出を目指した研究と教育に携わっている。著書に「エクセルギーと環境の理論_改訂版」(2010年9月、井上書院)、「自然共生建築を求めて」(1999年2月、鹿島出版会)、「光と熱の建築環境学」(1993年7月、丸善)など。著書(監修)に「住育ことはじめ」(2010年9月、小学館)。

宿谷昌則(しゅくや・まさのり)
マスコミは何を伝えないか―メディア社会の賢い生き方 【参考図書】
『エクセルギーと環境の理論-改訂版-』
著者:宿谷昌則
発行:井上書院