第3回:宇田川光弘さん

日本建築学会、空気調和・衛生工学会、日本太陽エネルギー学会、国際太陽エネルギー学会ほか多数の学会に所属されている宇田川先生は、これらの学会の中の多数の委員会の委員を務められており、建築と太陽エネルギーに関する政策についても有識者として意見を求められる立場にあります。また、太陽エネルギー利用の評価や熱負荷計算等に関するプログラム、システム等に詳しく、OMソーラーについてもよくご存知です。
今回、太陽熱利用の可能性や普及の方向性、OMソーラーの評価などについてお話を伺いました。(文/2008年5月現在)

OMソーラーは、太陽熱利用技術として数少ない成功例

OMの家づくりは、きわめて正攻法、正統的な手法

宇田川光弘さん

―まずはじめに、OM ソーラーの技術や取り組みについてはどのような印象をお持ちですか?

太陽熱利用ということでは太陽熱温水器が手頃なコストということもあって、普及した一例と呼べると思いますが、意匠的な問題や発売当初の販売体制の遅れから普及が止まっているのが現状ですよね。

その他を見ても、太陽熱利用の技術で成功した例が少ない中、OMソーラーは成功している稀な例といえるのではないでしょうか。

ソーラー関連の技術自体は他にもいろいろとありますが、建築の設計や施工と一体の技術として進めてこられた点が良かったのだと思います。建築は建築として工務店がつくって、後からソーラーの設備を載せるだけ、ということではなかったことが会員工務店さんの取り組む意欲に繋がり、結果的にお施主さんの高い満足感へと繋がっているのではないでしょうか。

―ただ、さらに広く普及していくためには、「太陽熱利用」という価値そのものを高めていかなければいけません。そして、その際に問題になるのがこの価値をどう評価するかになります。「定量的な評価」ということも含め、どのように考えたらよいでしょう。

ストレートに言えば、暖房や給湯によるエネルギーがどれだけ削減できたか、ということになると思います。ただ、そこが難しくて、電気代やガス代に換算しただけでは大した金額にはならなかったりします。単に「光熱費の節約」ということでは魅力に映らないわけです。また、その一方で「快適さ」ということもあるわけで、基本的にはお施主さんが何に価値観を持っているかによるのだと思います。

また、定量的な評価ということでは、本来は同じ仕様の二軒の家を建てて、同じ条件の生活パターンを再現した上で、太陽熱利用設備の有無による違いを計るということが必要になります。でも、そんなことは現実的ではありませんし、そもそも一軒の家を定量的に評価するというのは大変難しい作業なわけです。そこで、予測技術という概念が入ってくるわけですが、いずれにせよ「実証」ということには至りません。ただ、だからこそ、建築する上であらかじめ予測を行うことはとても重要だと思います。一般的に建築の設計者は、建物を設計する上で、プログラムを駆使してあらかじめ消費エネルギー量などを予測して設計行為を行うということはあまりしません。

一方で、OMソーラーの場合は、考案者である建築家・奥村昭雄さんをはじめとして気象データや周辺環境、使う材料やプラン、施工といった要素を統合的に考えて家づくりを行っています。

※OMソーラーでは、基本設計の段階から設計者がシミュレーションを行い、地域の気象や建物のデータ、住まい手の生活スタイルをもとに、建てる家の温熱環境を模擬的に作り出し、具体的な数値で性能を予測します。

統合的に考えることを設計のプロセスとして捉えられており、きわめて正攻法、正統的な手法をとられていると思います。あえて言うなら、こういった家づくりの進め方そのものが、お施主さんにとっての価値になるのだと思います。補助金などとの関係になると、定量評価は避けて通れませんが、仮にエネルギーの削減量が出たとして、それで何年で元が取れるのか、という議論になると相変わらず厳しいわけですよね。お施主さんとしては、そういう納得の仕方はしていないのではないでしょうか。

国としての「ぶれない方針」が普及の前提となる

―私たちも、「補助金ありき」というよりも、補助金が「後押し」になるという感覚で捉えています。ただ、一方で、国のエネルギー政策や環境政策という点で日本は遅れをとっているという国内外の指摘もあって、行政としても太陽熱に注目しているということはあるようです。ですが、どうしても「評価方法」がハードルになります。

OMであっても温水器であっても、太陽によって得られた熱量を計算して、これだけ削減できたはずであるということは、あくまで架空の話に過ぎないわけです。ですから考え方として、この集熱器を何m2付けたらこれだけエネルギーが削減できたことにする、というようにルールにしてしまうしかないと思います。それを元に、補助金なのか、税制の優遇なのか、あるいは、消費者に対してなのか、メーカーに対してなのか、また、それが合理的な金額なのかなど、いろいろな社会的なバランスを含めて、決めていくということでしょうね。

補助金で必ず問題になるのが、なぜ個人の財産に対して補助金を出すんだという議論です。その前提としても、国としてのぶれない方針が大切ですよね。太陽熱で日本のエネルギーの何%を賄うんだという明確な意思がないと、各省庁とも考え方がまちまちで、まとまりません。太陽熱利用の目標値も原油換算で439万キロリットルから90万キロリットルへとバイオマスに取って代わられて、大幅に削減されてしまいましたし、こんな形でパッと方針を変えられてしまうのではメーカーは振り回されてしまいます。

結局は、国の意思に対してどのようにコスト負担を割り振るのかだと思います。ソーラーの設備は、どうしても一般的な給湯器よりもイニシャルコストが割高になります。仮に10年ほどでコスト回収できればいいですが、20年ともなると個人では採用し難いことになります。そうなったときに個人が負担するのか、広く社会が負担するのか、というのが補助金の基本的な考え方だと思います。ドイツの太陽光発電の政策も、電力会社に高い値段で買ってもらっているわけで、そのコストは電気料金として社会が広く負担しているわけですから、考え方は同じです。こういったルールをつくり、皆が納得した上で、具体的にどういったインセンティブがあるのか、ということだと思います。

「太陽熱」は自分で付けて自分で使うから面白くて難しい

宇田川光弘さん

―国として足並みが揃いにくい中で、東京都は独自で対策を打ち出そうと準備しています。そして、その中には太陽光発電だけでなく、太陽熱利用推進策も含まれているようです。 (参考:東京都の再生可能エネルギー戦略

太陽光も太陽熱もどちらも大事ですが、同じ住宅に設置する設備ではあるものの、性質は全く異なっています。

太陽光発電は電気を生むということで、電力会社との系統連携により売電ができるなど、電力会社と繋がってしまえば、一発電所として位置付けることになり、発電した電力は誰が使ってもいいわけです。ですから、自宅で発電した電力を自ら使おうが電力会社に送ろうが関係なくて、「発電した人」と「使う人」を切り離して考えられるわけです。いわば、社会のエネルギーシステムと繋がっていることから制度として利用しやすく、電力会社の納得さえ得られれば、コスト回収も明確になり、ドイツのようなしくみであれば、投資目的としても利用が進むことになります。

一方で太陽熱は、暖房だろうが給湯だろうが、自分の家でしか使えません。要するに、使う側の問題も出てきて、それほど使わないのに暖房や給湯しても意味が無いことになります。「得られる量」と「使う量」のバランスを取る必要が出てくるわけです。余ったからって、誰も使えないわけで、放熱されて終わりですから。個人の家を出て行かないという点が「熱」の普及に関しての難しさの一つだと思います。

ただ、逆に言えば、自分でやれることだし、建物と一体として考えれば、断熱材を増やして暖房負荷を減らせば、それほど大きな熱量は必要なくなって、暖房費や給湯費が節約できるわけです。自分で建てて、自分で使うものだからこそ面白味があり、家づくりの魅力にもなり得ます。高断熱・高気密の家に太陽光発電を付けました、頑張って太陽電池をたくさん屋根に載せましたといっても、家そのものとは全く切り離されているわけで、家を建てるとか、そこに暮らすという面白さや魅力には繋がらないのです。

「熱」は、自分で付けて自分で使う、OMソーラーであれば、家の仕様やプラン、施工まで含めて性能を高めることができるからこそ、お施主さん自身はもちろん、設計者や工務店も面白いのだと思いますし、住んでからの満足度に繋がっているのだと思います。そして、このような個人としての面白さや満足度が伴うことが大切で、このような意識が本当の意味での循環型社会の形成に繋がるのだと思います。

ただ、直接的なコスト還元となると、やはり面倒な話になります。そこが「熱利用」、特に建築と一体となったOMソーラーの面白さであり、面倒さといえます。「元を取る」ということも、何を持って「取れた」と言えるのかということになりますから、どこで線を引くかの問題だけのような気がします。ソーラーだけを取り出して考えるとコスト回収に意識が向いてしまいますが、住宅全体として考えればそれほど問題ではなくなります。実際には内装の仕上げにお金を掛ける人もいれば、キッチンにお金を掛ける人もいるわけで、その人の「価値観」で決まるものだと思います。価値観は比較できないし、比較する意味がありません。そういう話だと思います。

暖房システムなのに、「全外気」という点が面白い

―確かに、よくOMの家の住まい手から意識が変わったという話を聞きます。そこには「元を取るための省エネ」や「我慢して省エネ」ということではなくて「楽しんで省エネ」や「快適で省エネ」されているという感覚があります。

OMを付けることで「年間いくら節約できる」と考えるよりも、「我慢しなくても節約できる」とか「環境に負荷を掛けずに快適さを手に入れることができる」という位置付けのほうがいいのかも知れません。

―宇田川先生は環境政策に関するいろいろな委員会に参加されていますが、太陽エネルギー利用建築の今後の見通しなどについて教えていただけますか?

焦点はやはり、「熱利用」をどう評価するのかだと思いますが、よほど規模が大きな建物であれば個別で評価、例えばシミュレーションするとか計測するということはあり得ますが、住宅であれば型式認定や集熱器そのものの評価をするというのが現実的だと思います。個別でシミュレーションしたり計測したところで誰が見るのかという問題にもなりますから、具体的には、標準的な仕様を出してもらうとか、実績があればそれを出してもらうということなんだと思います。

―最後に、OMソーラーの今後について一言お願いいたします。

OMソーラーのシステムで面白いと思ったのは「全外気」でやっているところです。暖房のシステムと考えると、普通は循環式というのが一般的です。今は24時間換気が義務付けされましたから、OMの換気の効果はとても相性がいいと思います。建物内部の温度を下げる(室内の熱い空気を外に出す)という意味で外気を取り入れることはあっても、暖房期に外気を取り入れるというのは、当然、熱負荷が大きくなりますから、あまり考えられなかったことです。

ところが、OMのようなしくみであれば、たくさん換気をしても寒くないということになりますから、とても面白いと思いました。温熱環境的にOMソーラーは評価されてきた面はありますが、断熱・気密が進んだ分、「全外気」という面が今後、注目されていくかも知れません。

―私たちも、OMの「換気」機能や効果にあらためてスポットを当てようとしているところです。宇田川先生から同じことをお聞きして、とても勇気づけられました。本日はどうもありがとうございました。

宇田川光弘(うだがわ・みつひろ)

工学院大学工学部建築学科教授。工学博士。 早稲田大学理工学部建築学科卒業。専門は建築環境工学。
1984年空気調和・衛生工学会学会賞、1997年日本太陽エネルギー学会論文賞、1999年日本建築学会賞受賞。
建築と環境分野の様々な委員会の委員を務め、行政の政策策定にも関与。

宇田川光弘(うだがわ・みつひろ)