第21回:大橋マキさん

「この人に会いたい」第21回目は、アロマセラピストの大橋マキさんです。元フジテレビのアナウンサーで、退職後は英国にてアロマセラピストの資格を取得した大橋さん。現在は一児の母として子育てを楽しまれる一方、アロマセラピストとして病院で活動を行ったりオリジナルブレンドのアロマオイル「aromamora」のプロデュースも行うほか、エコやロハスをキーワードとした執筆、翻訳、TVやラジオ番組のナビゲーターなどにも活動の幅を広げられています。
そして、大橋さんには、2009年12月~2010年3月にかけて開催の「2万家族の太陽と一緒の暮らし」の審査員もお願いしています。 今回は、生活者として、そして表現者としての大橋さんの感覚や大切にしていることなどをお伺いしました。(文/2010年1月現在)

「人」や「環境」との応答が大切なのは、アロマも建築も同じ。

引越しを繰り返しながら身についた住まい観

写真:大橋マキさん

―大橋さんと言えば、雑誌『ソトコト』や『Lee』といったライフスタイル誌での執筆やエコやロハスをテーマとした暮らしのイメージがあります。大橋さんご自身も、国内外問わずさまざまに住居を変えられてきたそうですね。まずはそうした中で感じる大橋さんの「住まい観」について教えてください。

私の場合、家単体というより、「住まいを中心とした生活エリア」として、それぞれの家の記憶を持っています。
父が転勤族だったので、小さいころは関東近郊で5回転校しました。住んだ家は自然環境に恵まれた場所が多く、川べりの土手を走り回ったり、草むらで花の蜜を吸ったり、ザリガニ捕りをしたり、といった、家周辺を含めた暮らしの思い出が残っています。子どもながらに、引越し先で出会う自然や人との関係をつくりあげていくのが楽しくて。“周囲とどう順応していくか”というようなことがいつの間にか身についていた気がします。

―転校を楽しまれていたんですね。そうした経験は、大人になってからの生活にも影響を与えていますか?

そうですね。大人になってからも何箇所か移っているのですが、特に印象深かったのは、結婚後に暮らした目黒での暮らしでしょうか。閑静な住宅街の袋小路になった場所に家を構えたのですが、ご近所づきあいの楽しさを知ったのが、この家でした。当時、娘が生まれたこともあって、お祝い事があるとご近所の方がお赤飯を炊いてくださったり、玄関先で立ち話したり、植物の苗を交換したり。自分たちは核家族ですけど、ご近所のおじいちゃん、おばあちゃんが本当の身内のように接してくださって、そうした関係が、とても楽しかったですね。

―本当の意味のご近所づきあいですね。勝手な印象として、東京で華やかなお仕事をされている方なので、六本木ヒルズみたいな高層マンションで暮らされているのかと思っていました(笑)。

写真:この日のインタビューは、大橋さんのご自宅で行われた。リビング南側と西窓の窓からは周囲の山々が臨める。
この日のインタビューは、大橋さんのご自宅で行われた。リビング南側と西窓の窓からは周囲の山々が臨める。

高いところ、苦手なんです…(笑)。夫も私も田舎育ちなので、低層で地面に近いところで、できれば土に触れて暮らしたいと思っていました。
それもアパートやマンションではなく一軒家が良くて、家を建てる際も、夫とは「プライバシーが保たれながらも、外の環境が自然に家の中に流れ込んでくる家がいいね」といつも話していました。それは、個々の住環境での経験から感じることでしたが、共通している価値観でしたね。太陽は思いっきり採り入れたい。風が家の中を抜けるようにしたい。外の環境をうちの中に入れたい、と。

―建築というと、とかく間取りを考えたり、建材のカタログから気に入った品番を選んだり、そういう建てられ方になってしまいがちですが…。

もちろん私たちも当初は床材はどれがいい、スイッチパネルはこれがいい、というようなことも考えていたのですが、設計者の方に、「そういうことより、まずイメージでも文字でも描写でもいいから、自分がそこでどういう風に住んでいるかをより具体的に教えてほしい」とアドバイスをいただいたんです。それで、「コーヒーを入れていると窓から木が見えて鳥が実を食べているのが眺められるキッチン」とか、「隣の夕ご飯の匂いが入ってくる感じ」というようなことを要望として出していったんです。
それから暮らしてみて気づいたのですが、「音」という要素もとても心地良い要因の一つでした。その家では、近所の方が朝犬の散歩に行くときに門扉をカチャンと開ける音や、ホウキで掃き掃除する音がすごく近くに感じられて、それでいて、近いからといって変にドキマギしないんです。プライバシーがさらされている感じがしない心地よさが自然に入ってくる雰囲気が気に入っていました。

―確かに光や風や音は設計図だけではわかりませんからね。でも、それが一番心地よさに影響を与える要素だったりしますよね。

本当、自然や人の気配が感じられるって、いいなぁ…って。ただ、これは後々経験して思ったのですが、音一つとっても、それが心地良いのはお互いの関係が良いからだと気づいたんです。
ご近所で赤ちゃんが泣いていても、心配になるのではなく逞しく子育てしている様子を知っていて微笑ましく感じたり、家の前をホウキで掃いている音も、「うちの前までやっているのかしら!?」と焦るのではなくて「お向かいのおばあちゃん、今日も元気だなー」と思ったり…。同じ音でも、関係性があることによって本当に幸せな音に感じるんですよね。家を買うってご近所を買うことだって言いますが、本当にその通りだと思います。

家は周辺との応答を楽しむ拠点

―大橋さんのお話からは、「周囲との応答」や「自然とのやりとり」を大切にされていることが伺えます。現在お住まいのこの葉山のお宅は、住宅街ながら、南側が山の斜面に面していて、庭の延長がそのまま山になっているんですね。

この家は、昨年の秋から借りている築30年の借家ですが、リビングを出ると庭が山で、季節の変化がよくわかります。先ほど言った目黒の家の後に夫の仕事の関係で半年ほどオランダのアムステルダムで暮らしていたこともあり、その影響で「とにかく自然の近くで暮らしたい」という気持ちで住み始めました。
アムステルダムは運河の町なのですが、そこで出会った人々がとにかく陽気で、口実をつくってずっとお祭りをしているような感じなんです(笑)。晴れると運河に小船を浮かべて溢れるほどの人で乗り込んで、一日中、歌を歌ったりビールを飲んだり。今ある環境をしっかり楽しむのが上手な人たちで、そんな雰囲気にすごく影響を受けました。彼らは、太陽があればそれだけでハッピーなんです。私自身もすごくリラックスして過ごせましたし、これはもう絶対自然の近くで暮らしたいと、葉山にやってきました。

―実際に暮らしてみて、いかがですか?

写真:初めてしもやけになったという大橋さん。この冬は、山で採れたカラスウリをホワイトリキュールにつけたものを化粧水として愛用中。
初めてしもやけになったという大橋さん。この冬は、山で採れたカラスウリをホワイトリキュールにつけたものを化粧水として愛用中。

大正解です。もちろん不便はありますが、静かですし、自然の変化がすごく楽しくて。夏みかんがなっているのを収穫してみたり、薪ストーブ用の薪を山から調達したり、自然は忙しく変化していくので、ボーッとしているのはもったいないくらい。
普段、忙しく暮らしていると、ついそうした変化に鈍くなってしまうことがあるのですが、こうしてリビングからただ庭を見ているだけでも夏みかんがすごく目についてきて、目につくと、夏みかんに応えたくなる。なっているカラスウリを、どうにかしてあげたくなるんですよね。「目の前にあるものに自然に反応する」という感覚を大切にしたいなぁと改めて思います。

―娘さんの反応はいかがですか?

私よりもずっと変化が大きくて、ここに来て本当にたくましくなりましたよ。放っておくと山を走り回っていますし、知らない間に斜面のすごく上の方まで登れるようになっていますし、もう本能のまま(笑)。最近、クラシックのコンサートに連れて行ったのですが、帰ってきたら木の枝を楽器に見立ててバイオリンの演奏会をしていて。子どもにとっては山はおもちゃの宝庫なんだなぁと思いました。
でもその一方で不思議なんですが、時々、住宅地にある私の実家に連れて行くと、「アンパンマンが見たい!」なんて言うんです。それでいて、ここに帰ってくると自動的にアンパンマンのアの字も出なくなって、違う遊びを始めるんです。どうやら彼女なりに、「ここにはアンパンマンはないんだ」「ここではこの遊びをするんだ」ということを決めているみたいなんですよね。
考えてみると、ジャングルジムも滑り台も、山の代わりなんですよね。山の斜面もダンボールですべり降りれば滑り台ですし、山全体はジャングルジムそのものですし、海や川にしても、なかなかそういう環境がないからプールがあるんでしょうし。

写真:リビングに面したデッキに出ると、そこはもう山。野生のリスや鳥、四季折々の木々の変化が楽しいという。
リビングに面したデッキに出ると、そこはもう山。野生のリスや鳥、四季折々の木々の変化が楽しいという。

―本来、人間の周りにあったものが消えていったから、次々に代用品がつくられて、代用品が当たり前の逆転の現象が起きているんでしょうね。

本当にそうです。だから、子どもって本能のままにリリースしておくと、どんどん逞しく適応していくんだなと、今、身をもって実感しています(笑)。逆に言えば、普段はアンパンマンやジャングルジムがなくても、山があれば彼女の欲求は満たされるわけで。親としてはヒヤヒヤすることもあるのですが、自分を振り返ってみても随分おてんばでしたし、自然の中で転んだり擦り剥いたりしても大きな傷にはならないので、これでいいのかな、と思うようになりました。
家を核にして周囲の環境や人たちといろいろな応答をすることが日常生活なのであって、その中でいろいろな発見をしたり成長をしたりしていくのは、子どもも大人も同じだなぁと感じる毎日です。

アロマはつくり手の一人よがりではダメ。建築も一緒ですよね。

―OMソーラーの家づくりも、周辺の環境と上手に応答することを目指しています。考案者の奥村さんは色や形のデザインではなく、目に見えない熱と空気をデザインすることが設計なのだと常々我々に教えてくれています。熱や空気や光や音、そして匂いも含め、そういった目に見えないものを上手にコントロールすることがデザインなのだと。

おっしゃる通りで、そういうことって、住んでみないと分からないけれど、すごく大事なんですよね。最近、音楽家やアーティストなど、異業種の方とのコラボでアロマによる空間演出をすることが多いのですが、匂いで空間をつくるときも、まったく同じで、それをどこまでイメージできるか、なんです。目に見えるインテリアや色や素材に似合う、というだけでなく、そのときの空間がどういう空気になっていくのかを想像することがすごく大事で。
さらに言えば、匂いをつくるときに大切なのは、その場に立ち会うことなんです。この匂いをつくったから置いておく、というのは実はだめで、その会場がその日どんなお天気でどんな気候で、どんな来場者が座っているのか、人の気分や雰囲気、そういうもので届けたい匂いって全然違うんです。空間をつくるときは最後の1滴にどのようなものを加えるかを当日その場で調合するのですが、匂いって、たとえばある人にとっては嫌な匂いが他の人にとってはすごくいい匂いに感じられたりと、多面的で繊細なんです。やればやるほど奥深くて、難しさを感じています。

―その分、空間と匂いがうまく結びつくと、記憶には強く残るんでしょうね。思い返しても、視覚から匂いを思い浮かべることはあまりありませんが、匂いからは鮮明な映像が思い浮かぶことがあります。

そうなんです。実際、視聴覚の記憶よりも匂いの記憶の方が維持率が長いと言われています。しかも、そのときは意識をしないくらい存在感の薄い匂いでも、ふとした時に鮮明にビジュアルを呼び起こしたり、美化して思い出したりするから不思議です。情報量としては圧倒的にビジュアルが多いのに、音や匂いは情緒的に思い出すんですよね。
たとえば、ワカメや磯の匂いって、多くの日本人にとっては郷愁を誘いますが、欧米人にとっては下水の匂いとして捉えられることもあるらしいんです。そういった人間の歴史や文化や一人ひとりの思い出にまで立ち返ってみた匂いをつくり出せたらすごくおもしろいし、アロマの可能性を感じますね。

―アロマというと、我々としてはどうしても「○○の香り」というのが小瓶に入っていて買ってくるイメージがありますが…。

写真:「アロマは建物の空間に漂うもので何にでも関係するので、いろいろな世界とリンク出来るんです」という大橋さん。最近は、異業種の方とのコラボレーションが楽しいという。
「アロマは建物の空間に漂うもので何にでも関係するので、いろいろな世界とリンク出来るんです」という大橋さん。最近は、異業種の方とのコラボレーションが楽しいという。

それももちろん一つのアロマですが、やはり空間をつくるアロマを仕事にしている限りは、そこにいる人のことをひたすら想像してつくるのが自分のアロマだと思うんです。きっと建築にも同じことが言えるんじゃないでしょうか?

―そうですね。日本中どこでも汎用性の高い家をつくることも設計の一つですが、気候や土地や家族の好みによって求められる家はまったく違いますし、それに応えるのも設計の一つです。

建築もアロマも、そこにいる人や物を含めた環境とのコミュニケーションなのかな、と思います。
もともと匂いって正解がないし、曖昧でしょう。「ただ、良い匂いをつくったんだけど、どう?」ではなくて、「自分はこういう気持ちでつくったんです」いうことをちゃんと伝えなくてはいけない。それでいて独りよがりじゃいけない。自己満足じゃダメですし、正解がなくて……。常に悩み続けています(笑)。

―そんな大橋さんがアロマで「これだ」と思う瞬間って、どんなときなんでしょうか?

建築もそうだと思うんですけど、新築で、ただピカピカで建っているよりも、そこで住んでいる人が楽しそうに暮らしているときの方が家って輝きませんか?アロマも同じで、「生きはじめる瞬間」というのがあるんです。まるで命がふきこまれたかのように、その場が輝くような…。だから、匂いがその空間にハマって、それをその場にいる人とシェアできたときが一番素敵なアロマだな、と思いますね。

写真:大橋さんが審査員を務める「第2回・2万家族の太陽と一緒の暮らしコンテスト」
大橋さんが審査員を務める「第2回・2万家族の太陽と一緒の暮らしコンテスト」については、OMソーラー各種キャンペーンをご覧ください。

―お話を伺っていると、大橋さんの仕事や考え方、住まい観に至るまで、常に周りとの繋がりやコミュニケーションや応答ということがキーワードなんだということがわかります。
では、最後になりますが、今年は大橋さんに住まい手コンテストの審査員をお願いしています。住まい手である作品応募者へのメッセージがありましたらお願いします。

昨年の作品をいくつか拝見しましたが、年齢や性別やジャンルを問わずいろいろなものがあって、とてもおもしろいコンテストですね。私は日々娘の言動に驚かされることが多いので、子供目線の作品をたくさん見てみたいです。
そして、家のつくり手である全国の工務店さんには、日々本当にありがとうございます、と伝えたいです。やっぱり、建った後もお手入れをしてくれたり、一生のお付き合いが出来るって、住んでいる側にはすごく安心なことだと思うので、これからも良いお仕事をしていってほしいですね。

―コンテストの審査がますます楽しみです。本日は貴重なお話をたくさん伺い、ありがとうございました。

大橋マキ(おおはし・まき)

神奈川県生まれ。フジテレビアナウンサーを退職後、イギリスに留学。植物療法を学び、IFA認定アロマセラピスト資格を取得。帰国後、アロマセラピストとして病院で活動するほか、執筆、翻訳、テレビやラジオ番組のナビゲーターなど、活動の場を広げている。著書に『アロマの惑星』(木楽舎)、『セラピストという生き方』(BABジャパン)、『日々香日』(サンマーク出版)など。
オリジナルブレンドアロマオイル「aromamora」(http://www.aromamora.jp/)のプロデュースも手がける。また、(株)アットアロマ認定アロマ空間デザイナーとして、イベントやショップでの香りによる空間演出も行う。
公式ブログ:http://aromania.cocolog-nifty.com/

大橋マキ(おおはし・まき)