第2回:飯田哲也さん

環境エネルギー政策研究所所長として「自然エネルギー」「省エネルギー」推進のための国政への政策提言、地方自治体へのアドバイス、国際会議やシンポジウムの主催など、幅広い分野で活動を行っている飯田さんに、現在の日本のエネルギー政策や社会の認識の実態をうかがいました。(文/2008年3月現在)

化石燃料フロー社会から、自然エネルギーストック社会へ

化石燃料フローから、自然エネルギーストックへ

飯田哲也さん

化石燃料が地球温暖化に影響を与え、なおかつその可採埋蔵量の限界も近づきつつあり、人類は地球温暖化とピークオイルという巨大な問題に直面しています。解決策は自然エネルギーの推進しかないと、世界各国が動き出しました。

しかしながら、現状の日本は、96%のエネルギーを輸入に頼っているという状況です。これらは、すべて枯渇性で汚れを生むエネルギーです。私たちの文明は、地球が何億、何十億年もかけてつくってきたこのストックを一瞬で取り崩し、CO2や核廃棄物へと変えることで成り立っているのです。

一方で、太陽は、今の文明が必要とする1万5000倍のエネルギーを供給しています。しかし、このクリーンで膨大なエネルギーを十分に活用し切れていない現状があります。地球規模の2つの問題に答えていくためには、まず、こうした状況を是正し、太陽エネルギーを含めた自然の力を、文明を支えるエネルギーを生み出すストックへと変えていく必要があります。

そのために、日本のエネルギー政策も大胆な「減らす」と大量かつ全面的な「増やす」が必要です。「減らす」とは、身近なところでムダを減らす、エネルギーの効率化を図る、低エネルギーサービスを利用することを組み合わせた、大胆な省エネルギー・エネルギー効率化です。「増やす」とは、自然エネルギーの価値を買う、自然エネルギー設備を導入するといった、大量かつ全面的な自然エネルギーへの転換です。

なお、今流行りの「オフセット」とは、こうした「太陽エネルギー利用ストック」を拡大するためにあらゆる手段を使った上で、最後に「約束」を達成する上での補助にすぎません。

供給側の都合による政策と、需要側の視点で考えた政策の差

日本のエネルギー政策は、じつは「電気事業法」「ガス事業法」「石油業法」という三業法を束ねた「エネルギー事業者施策」にすぎません。これらは、エネルギー産業の「上流側」「供給側」の視点から各事業者を育成拡大しようとするアクセル的な施策です。安全規制などのブレーキは盛り込まれているものの、社会的な目標(持続可能な社会や自然エネルギーへの転換)を織り込んだエネルギー政策ではなく、持続可能なエネルギー構造へ根底から変えていくことは不可能です。

持続可能なエネルギー構造に向けては、需要側から見た用途区分毎(電力、温熱、運輸、産業)に、それぞれ省エネと自然エネルギーへの転換が必要となりますが、日本のエネルギー事業者施策 は、中でも「温熱政策」、つまり家庭や事務所などで使う暖房や給湯などの温熱に関する基本政策が欠落していることが問題です。このため、家庭や事業所の「温熱市場」は、電気、ガス、灯油という既存のエネルギー事業者が激しく奪い合う状況で、太陽エネルギーなど自然エネルギーは排除される構図です。つまり、日本のエネルギー政策そのものに構造的な欠陥があるのです。

これに対し、ドイツ・北欧型のエネルギー政策では、エネルギーの利用者、つまり「下流側」「需要側」の視点に立ち、それぞれどのように賄い抑制できるかといった用途ごとのエネルギー政策の「構え」があります。そして、温熱政策に該当する暖房は、輻射が原則となっており、エネルギーを抑えつつ、快適性を得るという豊かな暖房文化がつくられてきました。

暖房といえば(電気+ガス+石油)×(ストーブ+ファンヒーター)という発想しかなく、種々雑多な暖房器具をバラバラに選ぶ日本の貧しい暖房環境とは大きな差です。しかも、日本で主流となっているこれら暖房に使うエネルギーは、いずれもエクセルギー(有効仕事量。質を伴うエネルギー価値)が高く、ほぼすべてが輸入で、環境負荷が大きい枯渇性の資源です。これでは温暖化が止まるわけはありません。

本来なら、暖房や給湯といった低温熱は環境負荷の小さい太陽熱や地中熱、バイオマスといった自然エネルギー、または廃熱を優先して供給するための戦略が、エクセルギーを考慮した「温熱政策」なのですが、日本の場合、この構えが欠落していることが根本的な問題になっています。

日本のエネルギー政策も、まずは「電力政策」「熱政策」「輸送・交通」「産業」といった用途ごとの「構え」を確立することが急務の課題であり、その普及拡大においては、事業者側ではなく、「利用者側」つまり下流側、需要側に立った視点を持ち込む必要があります。たとえば、研究開発や技術の実証だけではなく、ビジネスモデルや組織モデル・ファイナンスモデル・社会モデルまで含めて考えることが大切です。その場合は初期の補助金ではなく、付加価値やリスクにまで注目した長期的に効果のある経済支援策を採用すべきです。

供給側の都合による政策と、需要側の視点で考えた政策の差

国に現状の動きを待つのではなく、地域から変えていく動きが大切

では、今現在そうした動きが国にあるかと言うと、残念ながらありません。

太陽エネルギーを例に出すと、日本では利用機器の初期導入にかかる負担や、導入における経済的インセンティブの欠如、太陽エネルギーに対する情報不足などを背景に、優れた技術がありながらも設置件数の伸びが停滞してきたのが現状であり、これは、地球温暖化による影響の顕在化を背景として、世界各地で利用拡大が進んでいる姿と対照的です。

また、2003年4 月からは、電気事業者に一定量の新エネルギー導入を義務づけるRPS法が施行されましたが、RPS法は策定段階から多くの問題が指摘されており、制度上の欠陥から、自然エネルギーの促進どころか、抑制法となっているのが実態です。このまま国の動きを待っていても、構造を変えるような有効な施策は期待できないでしょう。

しかし、現状、東京都を筆頭に各自治体で動きがあるように、地球温暖化防止とエネルギー政策は、地方自治体、あるいは地域社会から変えていくべきだと考えています。地域での取り組みは、その地域のエネルギー安全保障を高めるだけでなく、進化し、大きなうねりとなりながら、全体へと作用していくのです。
とりわけ、東京都では太陽エネルギー利用を家庭部門でのCO2削減の主要な柱として位置づけており、2007年度から、「太陽エネルギー利用拡大連携プロジェクト」を始めました。これは住宅に対し、今後3~4年で100万kWの太陽エネルギー導入へ道筋をつけるというもので、太陽光と太陽熱に分けて考えています。目標数字が欧州並みに大きいだけではなく、これを実現するための戦略や政策を背景に持っていることも特徴です。

すでに太陽光発電では、発電量に応じてグリーン価値を第三者機関が評価して証書化する取り組み(太陽光発電システムの設置者は、証書を売ることで初期コストを軽減、買い取る企業は事実上、省エネやCO2削減に貢献したことになる)が始まっていますが、同様に、太陽熱に関しても09年度からのスタートに向けて、08年度中に制度づくり、制度の告知を行う計画です。

エネルギーに、優先順位をつける

「太陽エネルギー利用拡大連携プロジェクト」は太陽熱に限ったものですが、もっと大事なのは、やはり「温熱政策」という構え全体をつくることです。

東京都では、来年度、熱政策のしくみづくりを視野に入れ、「自然エネルギー導入検討義務」も始まります。これは大ロンドン市に倣ったもので、新築の建築物は、必ず自然エネルギー導入の検討をしなければいけない、という政策です。その先には、スペインで立法化された「ソーラーオブリゲーション」(新築の建築物には、一定比率の太陽熱利用を義務づけること)も視野に入っています。

検討義務があるからには、テキストやガイドラインの整備が必要になってくるわけですが、要は、「この暖房・給湯機器とあの暖房・給湯機器はどちらがいい?」という次元ではないということです。現状は選択肢がない以上、導入もやむをえない部分はありますが、そもそも、そういう機器を並べてアラカルトで選ぶこと自体、ナンセンスだという話です。

断熱・気密、パッシブソーラーというものを上位に置き、なおかつ導入が必要な場合はエクセルギーが小さい自然なエネルギーから優先して導入していく。このような優先順位を、社会の常識としていく。その常識が出来た上で、なおかつ障害があるところには、政策で手当てしていく。その政策は、もちろん事業者側ではなく、生活者側の視点に立ったものでなくてはいけない、ということです。

現状、自然エネルギーの有効活用という前提のもと、エクセルギーを考慮した家庭の中でのエネルギーデザインというものを、多くの建築家はまだ知りません。この考え方をきちんと広めていくことが重要であり、そういった意味でも、全国各地で実際にOMソーラーの家づくりに取り組んでいるOMの工務店さんたちは、非常に効果的な対策の実践者でもあり、一般市民や地方行政に呼びかけることもできる貴重な存在と考えています。

●東京都の再生可能エネルギー戦略
http://www.kankyo.metro.tokyo.jp/climate/renewable_energy/index.html

太陽熱を価値化できれば、可能性は一挙に広がる

今、私たちは東京都とともに「グリーン熱証書」というものをつくろうとしています。グリーン熱証書とは、CO2の削減量を証明する証書です。

先にも言いましたが、すでに太陽光発電では、発電量に応じてグリーン価値を第三者機関が評価して証書化するしくみが出来ています。同様にして、太陽熱利用もCO2削減効果を環境的価値として評価し、公的に買い取るしくみを創設し、売り手・買い手の間に行政や公的機関が介入することで、証書の取引を円滑にする枠組みを想定しています。

ただ、証書化するには、利用熱量に応じてグリーン価値を公式に設定できる手法を検討しなくてはいけません。熱に関しては、価値化が非常に難しいのですが、これが実現すれば一挙に広がる可能性があります。

この価値化についてはOMソーラーについても一緒に検討していきたいと考えていますが、「CO2が一般の家に比べて減っている」「お財布に良い」「快適」、この3つがきちんと証明されることが大事であり、そのための判断材料となるデータが必要です。

そしてもう一つ大事なことは、社会に対するメッセージと情報発信です。こういった情報発信活動の一つとして、現在、地球環境イニシアティブの活動のお手伝いもしています(※OMソーラー(株)も参加)。OMソーラーのように、全国に工務店さんがいる団体が、一斉に、CO2削減を価値化されたものとしてPRしたら、社会に与えるインパクトも、話題性も非常に大きいものです。そのためにも、独自での取り組みに加えて、我々や東京都とも足並みをそろえて、ぜひご協力くださればと思います。

進む道は、「自然エネルギー」と「省エネ」のみ

私は常々、「地球温暖化の問題は、垂直に切り立った1000メートルの岩壁を前にした状態」とたとえます。パッと見て、途方もない高さ・大きさに、おじけづいて逃げたくなります。しかし、目をそらさずに、正しいルートを見定めた上で、近づいて見てみる。すると、必ず、手がかり・足掛かりが見えてきます。つまり、効果的で具体的な実践です。それを社会全体に全面展開していけば、必ず登りきることができるのです。

今、私たちは地球温暖化という「岩壁」の前に立っています。国は原子力での解決を掲げていますが、枯渇性のエネルギーであるうえに大事故の可能性や核廃棄物、核拡散といった避けられないリスクを抱える原子力は、問題を複雑にするだけで本質的な解決策にはなりません。本来のルートからはずれて横道にそれているのも同然です。

日本における自然エネルギーのポテンシャルは非常に高いのです。将来的に、100%のエネルギーを補うことも決して不可能ではありません。登る道は、「自然なエネルギー」と「省エネ」しかありません。堂々と、正しいルートで目の前の課題に取り組んでいきましょう。

飯田哲也(いいだ・てつなり)

環境エネルギー政策研究所(ISEP)所長。 京都大学原子核工学専攻修了。
東京大学先端科学技術研究センター、スウェーデン・ルンド大学客員研究員等を経て、現職。
自然エネルギー促進法推進ネットワーク代表、高木仁三郎市民科学基金協働代表理事なども務める。中央環境審議会、総合資源エネルギー調査会など政府の審議会や東京都環境審議会など地方自治体の審議会委員を市民科学の視点で務める。

飯田哲也(いいだ・てつなり)