第18回:神保重紀さん

この人に聞きたい」第18回目は、『日経エコロジー』編集長の神保重紀さんです。神保さんは企業向けの環境とビジネスをテーマとした雑誌として草分け的な存在である『日経エコロジー』の編集長と、主婦を対象としたフリーマガジン『ecomom(エコマム)』の編集長も担当されており、企業視点と消費者の視点、両者の接点を意識した編集をされています。今回は、企業戦略、企業経営と環境問題の関わりについて「日経エコロジーの視点」を伺うと共に、一般の消費者の現在の価値観、選択眼についてもお聞きしました。(文/2009年9月現在)

“自分らしい選択”をするために勉強する人が増えてきた

“自分らしい選択”をするために勉強する人が増えてきた

写真:神保重紀さん

―『日経エコロジー』は、環境について「単なるトレンド」としてではなく、政策、企業活動、技術、社会の動きなどを丁寧に取材され発信されているメディアだと思いますが、世の中には環境関連の情報が溢れかえり、一般の消費者だけでなく、企業としても何が本当にいいことなのかわからないなど、混乱している状況も見られます。このことは住宅分野でも例外ではありません。こういった現状についてどうお考えですか。

確かに環境に関する情報は溢れていて、それに伴って一般の方の環境に対する意識も高くなってきています。実際に数年前からは、『日経エコロジー』のスポンサーになっている企業からも、B to C(消費者向け)の雑誌のニーズが高まり、2005年からは『ecomom(エコマム)』という雑誌を発行しています。タイトルにあるとおり、主に30代の若いお母さんを対象としていて、年4回発行、4万部ほど読まれている雑誌ですが、お申込みいただいた方にのみ購読料も送料もいただかないで直接お届けするフリーマガジンという形を取っています。その代わり読者にはアンケートなどの調査にご協力いただくことを条件にしていて、4万人の読者からダイレクトに意見を聞くことができる「リクエストマガジン」として位置付けています。読者の属性の把握はもちろん、実際にアンケートを行うと3000~4000の回答はすぐにいただくことができます。

―具体的にはどんなアンケートをされているのですか?

雑誌:『ecomom』
『ecomom』は一般読者向けの雑誌。 神保さんが編集長を務められている。

例えば「オール電化にするとホントにエコなのか?」「エコキュートとエネファームの違い」といったテーマを取り上げ、実際にオール電化を取り入れたり、コジェネを取り入れた方で、取材に協力していただける方に集まっていただいてご意見を聞いたりしています。普通、このような取材をしようとするとお客さんをハウスメーカーさんから紹介していただくような形になりますが、紹介ではない分、本音に近いご意見を伺うことができていると思います。そして、このような取材を通して感じているのは、住宅に関するエネルギー問題について、今はいろいろな技術が出揃ってきた端境期にあるということです。これまで住宅に関わるエネルギーといえば、「電気」「都市ガス」「プロパンガス」といった選択肢くらいでしたが、ここへきて多様な選択肢ができました。
もちろん背景には住宅分野での環境対策の推進があるわけですが、特に住宅は耐久消費財ですから、この先長く付き合っていかなくてはならないということもあって、混乱というか、消費者の皆さんもその選択に頭を悩ませているという段階にあるんだと思います。しかしその一方では、選択肢が増えたことにより、消費者自ら主体的に選択しようという意識が芽生えているのも事実で、これまで住宅会社任せだったのが、「私はこういうライフスタイルだからこのエネルギーを選択した」など、自分らしい選択が行われつつあると感じています。そういう意味ではOMソーラーも、これまで「建築」という視点から辿り着いた方が多かったかもしれませんが、今後ますます「エネルギー」という視点から辿り着いてくる人が増えるのではないでしょうか。

雑誌:『日経エコロジー』
『日経エコロジー』は企業向けの雑誌。 神保さんが編集長を務められている。

―確かに太陽エネルギー利用技術ということでの問い合わせも増えてきました。ただ今は太陽光発電の普及が国策となっていて、ソーラーといえば「発電」という認識が浸透しています。専門家の方たちにお話をお聞きすると「太陽熱利用」が効率的だということはよく言われるのですが、そのことが一般の消費者まで浸透していないのが課題ですね。

私たちも太陽光発電の前に、太陽熱こそ優先して取り組むべきだと思っていますし、それは「日経エコロジー」の中でも力を入れてお伝えしているつもりです。ドイツなどでは太陽熱がかなり伸びているようですし、家を建てるときに勉強する人が増えているのは事実だと思いますから、OMソーラーのような太陽熱利用技術が選択肢に挙がるのは必然だと思いますよ。

高い目標設定は、企業の投資判断を明確化する

―今回の民主党への政権交代によって、自然エネルギー政策の変化は見られそうですか。

写真:神保重紀さん
「太陽熱こそ優先して推進すべし」これは雑誌のスタンスでもあると語る神保氏。

民主党の環境政策はNGOやNPOとかなり連携していますから、彼らを通して太陽熱利用に関する認識が進んでいると思います。そういう意味では太陽熱利用の可能性が出てくるかもしれませんよ。鳩山総理が就任早々CO2の25%削減を目標に掲げたことも、今後の政策に大きな影響を与えるはずです。

―この25%という数値をどう捉えていますか。

経済界の立場もわかりますし、厳しい数字であることは事実だと思います。ただ、これが15%ではこれまでの延長線上でしかないし、劇的な変化にまでは至らないと思います。今求められているのは、工夫の積み重ねではなく、社会システムや人々の価値観などの大きな変革です。90年比25%ということになれば、05年比でいえば30%以上削減しなくてはいけないわけです。1/3減らすとなると社会全体がガラッと変わっていかなければ達成は無理ですから、逆に経済界にとってもビジネスチャンスが生まれてくることになるのだと思います。電気自動車が延々と無理だ無理だと言われながらも、まだまだ高価ですがついに今年市販化されたわけです。ガソリンエンジンをいくら低燃費化しても温暖化のスピードに到底追いつかない、あるいはハイブリッド化しても足りないとなれば電気自動車ということになるわけです。燃料電池車もトヨタやダイムラーが2015年には売り出すと言っているようですし、逆に高い目標を掲げたほうが企業も投資ができるんだと思います。
15%だと思い切れない部分もありますが、30%だと投資する以外に道はない、という投資判断が生まれるわけです。

―「改善」では追いつかない。「改革」が必要ということですね。

エネオスや昭和シェルがあれだけ太陽光発電に投資しているのは、もう石油の時代は終わると判断しているからです。世の中ではピークオイルはまだ先だと言われていますが、彼らは10年後とか30年後には自分たちの食い扶持がなくなることが分かっています。まさに企業の存亡をかけた投資ですよね。民主党が政権取ろうが失おうが世界の流れは変わりません。ですから、むしろハードルを思い切って高く設定したほうが世の中は動くし、投資も進むのだと思います。 バックキャスティング的ですが、想定した目標からそれをどう達成するかの道筋を考えることは、投資の動機に繋がるのではないでしょうか。良いか悪いかは別として、これくらいの目標が掲げられないと社会は変わらないということです。

―政治が先なのか、企業が先なのか、あるいは消費者の意識が先なのか、いろいろなバランスの中で『日経エコロジー』や『ecomom』があるのだと思いますが、やはりまずは政治主導なんでしょうね。

そうですね。数字の根拠について科学的な裏付けがないとよく言われますが、民主党もただ荒唐無稽なことを言っているわけではないと思います。IPCC(気候変動に関する政府間パネル)では2050年に半減とか8割減が必要だとしていて、その知見を基に2020年の目標を25%と掲げたわけです。元々自民党と経団連は密接に繋がっていて、自民党が掲げていた15%は、経団連と折り合いをつけた14%に1%だけ麻生総理(当時)のリーダーシップ分を上乗せした数字だということは周知の事実です。民主党は経団連とも議論を重ねましたが、結局は彼等の意見を聞いていたら何も進まないということで「政治の力でやります」ということになったわけです。もちろん、目標達成に向けては真水(実際の削減量)だけでなく、排出権取引などを含めて取り組まれることになると思いますが。いずれにしても簡単ではない数字であることは事実だと思います。でも、この数字はOMさんにとっては追い風なんじゃないですか。

一般の消費者に伝えるためには、旗振り役が必要

―そうですね。問題はそういったことをいかに一般の消費者の立場に伝えるかだと思っています。『ecomom』もやはりそういった役割を担っているのですよね。

2009年9月号では「食」をテーマにしていますが、年4回のうちの1回は「住まい」をテーマにしています。住まいといっても新築戸建てだけではなく、マンションでも給湯器はありますし、エコキュートとエコジョーズの違いなど、設備やエネルギーについては興味を持たれている方も多いと思います。

―私たちが実施した「住まい手コンテスト」にも数多くの応募があり、応募者の方たち同士でも横の繋がりが生まれています。OMソーラーの住まい手と、『ecomom』の読者の接点を見つけて、合同の企画ができると面白いですね。

『ecomom』の読者は家づくり予備軍でもありますから、実際に家(エコハウス)を建てて住んでいる人の話は興味深いと思います。昨日もカーボンフットプリントのシンポジウムに参加してきましたが、政権云々はともかく、環境政策は今後ますます重視されるでしょうし、特に家庭部門のCO2削減は本腰を入れてくるものと思います。そして、これまでは断熱強化が主な対策でしたが、家庭でのエネルギー源が問われることにもなると思います。また、その一方で、環境も重要ですが、家としてはそれ以前に安全・安心・健康というのが問われますよね。エネルギー源としてのスペック競争とは別に、ライフスタイルや住まい手の健康面についてもアピールすると効果的です。健康面は環境よりも切実な問題として、読者の関心も高いのが現実です。一度合同の企画を考えてみたいですね。

―給湯器や暖房機器といった設備機器を選ぶということになると、どうしても商品のスペック競争、PR競争になってしまうわけですが、その前の段階の「太陽熱利用」の価値を伝えることも私たちの課題のひとつです。

「太陽熱」のアピールがもっと上手くできればいいですよね。残念ながら太陽熱は政策面でのサポートが弱かったり、朝日ソーラーの事件で業界のイメージが悪くなったりと、撤退するメーカーも増え、「旗振り役」がいないのが辛いところです。太陽光発電もシャープが一生懸命アピールしたことで浸透してきたところがあります。京セラや三菱も作っていましたがアピールはさほどしていませんでしたよね。そして太陽光発電が政策にのった途端、知名度のあるシャープが走りました。正直、今旗振り役となって太陽熱をアピールしているところはありませんよね。注目が集まるべきときなのに一般の関心が向かないのは、そういったことも関係しているように思います。

―シャープさんくらい宣伝しないと旗振り役にはなれませんか(笑)。

そうですね(笑)。「とにかく覚えてもらう」ということだけであれば、やはりテレビメディアは有効です。あとは、実際に目に触れることですよね。太陽光パネルもOMソーラーのパネルも屋根の上に載っているものだから一般の人は見ることができないですよね。そういう意味で、太陽光パネルをヤマダ電機が売り出したのは画期的なことだと思います。ヤマダ電機ではエコカーも店内で売っていますよね。完全に「環境」を軸にした品揃えを行っていて、世の中が変わってきていることをそんなところからも感じます。温水器なども置いてもらえば太陽熱利用の認知が進むでしょうし、近い将来、OMソーラーもヤマダ電機で扱いたいと言われるかもしれませんよ(笑)。

環境教育の実践は、もっともOMらしい普及方法

―いわゆる広告やマスメディア以外による発信方法も考えないといけないと思っています。「地球のたまご」には年間で1500人を超える見学者があります。こういった活動も地道ではありますが効果があると考えていますがいかがでしょうか。

ecomom Web サイト
ecomom Webサイト。数多くのコラムのほか、オンラインコミュニティ、広告に関する意見や感想を書き込めるコーナーもある。

それは企業の活動としても素晴らしいことですし、発信の方法としても効果的だと思います。OMソーラーの普及の前提となるのが太陽熱利用の認知度アップということでしょうから、企業が果たすべき社会的責任と、ビジネスの目標が一致していますよね。そのための一つの手法として「環境教育」という「伝え方」はとても有効な方法です。子どもたちを通して親(大人)に伝えていくということです。最近は学校も環境教育の受け入れに積極的になっていますし、全国に工務店さんがいらっしゃるわけですから、工務店の社長さんが太陽熱利用や循環型社会について、「家づくりの実践者」という目線でそのことを語るというのも面白いんじゃないですか。

―実際にOMソーラーを導入されている学校やコミュニティ施設もたくさんあります。

だったら、そういった場で「太陽熱教育」をやらせてもらうのが一番です。そこでは、いつもOMソーラーのスタッフが授業をするのではなく、それぞれの地域の工務店さんが授業をするということが大きな意味を持つと思います。OMの工務店さんなら、エネルギーやソーラーの話から、家の話、森や木の話まで可能ですよね。これらは全部環境教育の大切なテーマです。さらに「食」がくっついてくると、子どもも大人も楽しみながら理解度も増すので、ソーラークッカーを持ち込めば楽しい授業になると思いますよ。OMソーラーは全国にネットワークがあり、全国にOMソーラーの施設があるというのが、強みですから、それを活かさない手はないと思います。

―工務店が環境教育の先生になるわけですね。

環境に関心を持っている子どもも、どんどん増えてくるでしょうし、子どもの頃から「太陽熱ファン」を育てるという視点も必要じゃないでしょうか。それに、その学校に通う子どもの親は家づくり世代だったりします。環境教育と聞くと先の長い話だと思われるかもしれませんが、意外と目先の受注に繋がっているかもしれません。「何でうちにはOMソーラーがついてないの?」「うちでは太陽熱を使っていないの?」なんて子どもに言わせるくらいにすべきですよ(笑)。こういった直接的な接点の持ち方の効果はCMとは比べ物にならないはずです。

―OMだからできる発信方法はまだまだたくさんありそうですね。今日は大変参考になるお話を伺うことができました。本当にありがとうございました。

神保重紀(じんぼ・しげのり)

日経BP社『日経エコロジー』『ecomom(エコマム)』編集長。1984年慶應義塾大学を卒業。88年日経マグロウヒル社(現・日経BP社)に入社し、「日経レストラン」を経て、2001年12月から「日経情報ストラテジー」編集長を務める。2004年1月に、環境技術&経営をテーマにする月刊ビジネス誌「日経エコロジー」編集長に就任。「日経エコロジー」は1999年創刊で、環境を経営・ビジネスの付加価値向上につなげようとする方々を応援する専門誌。「環境経営」「環境法」「環境技術」「地球環境問題」「海外動向」が主な編集テーマ。

神保重紀(じんぼ・しげのり)