第17回:小林光さん

「この人に聞きたい」第17回目は、環境省の事務次官でOMソーラーの家の住まい手でもある小林光さんです。
小林光さんは、「せっかく降り注ぐ太陽エネルギーなどの自然の恵みをもっとアクティブに、貪欲に使ってみたい」と、太陽熱利用を最優先に考えた家づくりをされました。OMソーラーのほかにも、太陽光発電、徹底した気密と断熱、自然素材の使用、雨水・風呂場排水を利用するシステムなど、その家づくりは正に「エコ技術のフルコース」といえるもので、こうした経験を元に、小林さんは実践者として著書『エコハウス私論』に体験談を綴られています。小林さんの家や暮らしなど、OM住まい手としての私的な部分は『エコハウス私論』をお読みいただくとして、今回のインタビューでは、個人のお立場での分かりやすい表現で環境省の役割といった初歩的な事実関係から、日本が目指すエコ社会とはどのような社会なのか、そして、エコ社会実現に向けた今後の取り組みなど、OMに関連することを含め、幅広く、環境を取り巻く状況を伺ってきました。 (文/2009年8月現在)

「技術」と「使い方」は“足し算”ではなく、“掛け算”で効いてくる。

「エコ社会」とは、自然の循環の中で人間社会も機能していくこと

写真:小林光さん

―京都議定書以降、日本でも地球温暖化防止に関する法整備が進み、様々な環境対策が行われるようになりましたが、そもそも日本が目指す「エコ社会」とはどのような社会なのでしょうか。

エコ社会についてはいろいろな意見があるでしょう。個人的な見方ですが、大きくいえば、地球の生態系の一部になる、地球の生態系がきちんと機能していくのに人間が妨げにならない社会ということが大事だと思います。ゴミを減らすとか、自然の生態系の中で処理できないゴミは出さないとか、逆に人間の社会だけで循環できるようにするなどもその一つです。人間の社会が地球の健康の一部になっていく。言い方を換えれば、自然の循環の中で人間社会も機能していくということです。CO2削減はそのための一つの手段ということですね。

―CO2削減がゴールではないと。

もちろんです。地球の自然の中で人間も生かしてもらう。自然を壊さないで人間も生活していくということが何より大事です。

―そのためには技術で解決できること、あるいは人間一人一人の意識や行動で解決できることの両面があると思いますが、実際に今行われている対策はどちらかというと、太陽光発電やエコカーなど技術面の対策が経済対策とも相まって一気に目立つようになりましたね。

図:2050年80%削減の基本的な考え方
エネルギーの低炭素化(技術)と消費量削減(使い方)は掛け算で効いてくることを説明。「温室効果ガス2050年80%削減のためのビジョン」の中で解説されている(環境省サイトより)。
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そうですね。細かな話になりますが、敢えて申し上げれば、技術を今のままにしておいて、精神論だけで地球の生態系の一員としての人間社会を築くのはとても無理だと思います。そういう意味で技術が果たす役割りはとても大きいです。特に、化石エネルギーのようなストックエネルギーを使うのではなく、太陽から日々得られるフローのエネルギーで人間が生活を立てていくというのはとても大事なことで、そのためには今の技術のままでは難しいですよね。もちろん、ハイテクかどうかは別の話です。今ある技術はどちらかというと過去の貯金(化石エネルギー)を使うことで成立しているものが多いのが現実ですから。いずれにしても、技術が変わっていかなければならないことは確かだと思います。ただ、だからといって全て技術任せで、今のライフスタイルのままでいいというわけではないと思います。今のところ全て技術任せにできるほど高度な技術はありませんから。ですから、技術でやれる部分とその技術の使い方の部分は、両方やる必要があると思いま す。CO2を世界で半分、日本だと8割削減しなければならない、しかも技術で8割、使い方でも8割削減と思うととても大変ですが、実際には「技術」と「使い方」は“足し算”ではなく“掛け算”で効いてきます。例えば技術で4割、使い方で2割でいいのです。両方やるということは効果も大きいので、その点は楽観的に考えられると思いますね。

―そういう意味では「技術」だけでなく「使い方」や「環境行動」に対するインセンティブ制度があってもいいのではないでしょうか。

例えば、太陽光発電に関して売る電力については電力会社が2倍で買取ってくれるとなれば、自家消費を減らすという節電行動に繋がります。これは一例ですが、ライフスタイルが良いほうに向くような制度設計は可能ですし、環境税など、今後は無駄遣いや贅沢には「地球の使用料」としてお金が掛かることになっていくと思います。

環境に関して“とにかくやってみる”のが環境省の役割

―技術というと経産省、生活の器である住宅というと国交省ということになりますが、実際に環境省は他の省庁との連携を含め、どのような役割を果たしているのでしょう。

行政の仕組みの事実関係を説明しますと、環境省自身は環境を守る。具体的には環境の中で生きている人間や他の生物を守るということになります。その観点から考えると、技術や住宅なども含め横断的に施策を考えていくところです。環境省は、橋本内閣のときの中央省庁の再編によって生まれましたが、再編の際の基本法では「環境を専ら目的とする施策は全て環境省が行う」となっています。もちろん、各省と連携して行うこともあるわけですが、環境が目的の一つになっている施策には全て環境省が加わることになります。その中で「これでは環境のためになっていません」「これではダメです」という権利を環境省が持つということです。役所の意思決定は政府全体で行われていて、例えば経済の振興に関しては経産省が行うわけですが、経済の振興だけではダメなわけで、環境のことは環境省が考える。もちろん環境のことだけを考えてもダ メなので逆もあるわけですから相談して考えることになります。その中で、あくまでも環境の立場で考えるのは環境省だということです。もちろん他が環境のことを考えてはいけないということではありませんが、それで十分なのか、環境全体を考えてどうかということは環境省が決めるということです。「環境」というのは、特定の立場の人だけが使っているわけではなくて、様々な人たちがいろんな切り口、角度で使うわけで、ある一つの見方だけでは判断できません。
そういう意味で、環境全体を見渡して判断できる立場の役所が必要ということで、環境省が設けられた歴史があると思います。

―先ほどの「技術」×「使い方」の×(掛け算)の部分とか、「技術」×「環境」、「土地利用」×「環境」といった考え方なのかもしれませんね。住宅に関しても環境省のモデルハウスの補助金に20の自治体が選ばれましたが(環境省エコハウスモデル事業)、この補助金も住宅を通しての環境意識の啓発などを目的としているわけですよね。

そうですね。特定の人のためのものではなく、多くの皆さんの体感の場であったり、あるいは、つくり手側が環境技術を知り、親しむことでお客さんに自信を持って勧められる、そのきっかけになる場というのが予算の趣旨です。

―それから、住宅としてはリフォーム分野も今後大きなテーマとなります。環境省の事業としてもエコリフォームに予算を組まれていますが、国交省の事業とは違ったスタンスになるのでしょうか。

画像:小林さんのOMソーラーの自邸
小林さんの家。OMのほか、太陽光発電、ヒートポンプ式空調機、断熱、雨水利用、日射遮蔽、屋上緑化、植栽等々、様々な環境共生技術を実践されている。

住宅施策は人間が地球にとっていい住人になるための一つの手段だと思います。先ほどお話したように、役割を見ると、国交省では住宅や建築に関して建てることやその技術など、実質的な部分が主だと思いますが、ある意味、主管の省庁が環境に関して「そこまでやらなくても」ということにもトライしていくのが環境省としての一つの役割であり、ハードの分野でもデモンストレーション的に取り組んでいかなくてはならないでしょう。そうしない限り、いい技術やハードがあっても、実証されないで誰も手をつけないまま放置されることになってしまいます。とにかく“やってみる”というのが環境行政のスタンスではないかと個人的には思います。

住宅も規制を強化して、良い技術を伸ばしていくのも一案

―OMはたまたま建築分野にいるので、その他の分野のことを知らないだけかもしれませんが、自動車や電機なども同じようなスタンスで取り組まれているわけですね。

自動車に関していえば、電気バスを作ろうというのも補正予算に組まれています。最近電気自動車が一般に売り出されました。電気自動車ですらまだまだ高価ですし、ましてや電気バスの開発はそれ自体全く採算に合わないのが現実です。しかし、採算がとれているバス路線はあって、その路線に電気バスを導入すると、CO2削減の点ではとても効果的なんです。電気自動車は走行距離が限られているのが課題ですが、路線バスであれば走行距離があらかじめ決まっているので、電気バスは路線バスに向いているんです。CO2削減に大変効果的なんですが、意外と盲点で、ハイブリッドバスはあっても電気バスは誰もつくっていないんです。ハッキリと路線バス用の電気バスとして開発してみようということをやろうとしています。とても実験的なことですが、こんな事業にも取り組んでいます。

―ハードに対する支援だけでなく、むしろ社会のしくみづくりの側面や啓発活動など教育的な面で先導的な取り組みを行っているイメージでしょうか。

そうですね。政策の手段という意味ではそういう言い方もできるかもしれません。流れからすれば、デモンストレーションとしての事業を行う、いけそうだとなれば補助金や税制優遇して誘導する、当たり前になってくればそれ以外のことには規制を掛けて制限していくということになるでしょうね。一般的には進んだ取り組みには支援するし、酷いことしていたら取り締まる。これらを行いながら前進させていくということです。住宅や建築でいえば、環境技術は出揃っていますから規制を強めてもいい時期だという意見も聞かれます。省エネ法が改正されましたが、個々の建築ではまだ省エネ基準を満たしていなくても建築確認が通るわけですよね。そろそろ強制基準にしてもいいのでは、ということでしょうか。

―自動車でいう“排ガス規制”のようなものですね。消費者側の選択の余地をなくし、全ての建物で基準が満たされているという状態ですね。消費者の意識を高めて消費者の選択に任せるのではなく、供給側でコントロールしていくと。

ただ、大量生産品などではそういうこともあるでしょうが規制だけで誘導しようとすると技術の進歩が止まってしまう恐れもあります。もちろん、技術進歩のための規制強化もありますが、大事なことはそれに加えてさらに良い技術には☆印をつけて税制優遇や補助金などを行い、技術をさらに伸ばしていくことです。ダメなものの排除だけでなく、良いものを伸ばさないと規制ギリギリのところで技術が固着してしまいますから。

―そういうことも意識して供給側はレベルアップに取り組んだほうがいいですね。

基準が厳しくなったほうがレベルが揃ってロットが増え、かえってコストが下がったりします。規制強化は必ずしもコストアップの原因になるとは限りませんし、それに加えて技術を伸ばす取り組みも業種を問わず今後されていくと思います。家電のエコポイントや自動車のエコカー減税などはその一例です。そういう意味で、住宅も規制を強化すると共に、良い技術を伸ばしていく取り組みが行われていい時期という見方もあります。

―太陽光発電は評価を受けやすいですが、太陽熱は評価が受けにくい状況です。わかりやすく評価を受けていくというのは我々にとっての課題でもあります。

画像:『エコハウス私論』
『エコハウス私論』 発行:木楽舎
計画段階から実際の暮らしの中での気付きまで、エコハウスの実践が綴られている。

屋根の面積から得られるエネルギーの何%が有効に使われます、といった、単純な指標でいいと思うんですけどね。OMとは直接関係ないかもしれませんが、ウチでは北側に太陽光発電を載せていて、当時の製品なので元々変換効率が高くありませんが、計算してみるとそこに降り注ぐ太陽エネルギーの3%しか電気に変わっていないのです。しかし、たった3%の太陽エネルギーでも、電気の自給率が15%になるんです。何を言いたいかというと、太陽エネルギーを30%使えば150%も供給してしまうんです。
それでも全部使っているわけではありませんからね。そういう意味では、小さな敷地でも自然エネルギーは莫大に存在していて、ゼロエミッション住宅は可能なんです。最近聞いた話ですが、太陽光パネルの下から熱も取り出せるものも開発されているようです。それをやればわが家のように狭い南屋根で太陽熱しか利用できないと思っていたところでも、お湯採りも発電もできるので効率がいいですよね。

―実はこの秋からOMソーラーと太陽光発電の一体化システムが製品化します。(OMエコスカイルーフ。2009年11月発売)

それはいいことですね。熱を回収したほうが太陽光発電の発電効率も上がりますからね。熱心な人は太陽光パネルに水掛けたりしているほどです。最近のOMは暖気を床下に押し込むファンも太陽光発電の電気で回しているようですが、ウチで実測してみてもOMシステムのCOP(※)は、15~16にもなり、ほんのちょっとのエネルギーの投資で20倍近い自然エネルギーを取り込んでいることになります。

※COP:成績係数:(Coefficient Of Performanceの略)。動作係数ともいい、冷暖房機器などのエネルギー消費効率の目安として使われる係数。消費電力1kWあたりの冷却・加熱能力を表した値。

OMソーラーはエコハウスの一番の「老舗」

―OMもいろいろな技術との融合を図りつつ技術的に前進していきますが、一方で、先ほど言われた「技術×使い方」の面の啓発活動も重要だと考えています。環境教育という面での環境省の取り組みはいかがですか。

文科省とも連携して学校に太陽光発電システムを導入していく事業に取り組んでいます。この事業には太陽光発電だけでなく、太陽熱利用システムも含まれますし、これらのシステムを単に設置するだけでなく、環境学習の教材として活用していくことも含まれています。

―太陽光発電メーカーの担当の方も環境教育の必要性を訴えていらっしゃいました。もっと具体的に、例えば教科書で教えていくなども考えられるのでしょうか。

教科書に太陽光発電のしくみを載せるのは大いに結構じゃないでしょうか。環境教育に関しては、環境教育法等の法律でも推進していくことが謳われていますので、実際に教科書への記載も、現場で教える時間も増えていると思います。「環境科」といった教科を設けるまでしないにしても、国語や算数、理科、社会などの他の教科に入れていって、足りないところを総合の時間で補うなどの対応でいいと思います。環境教育法の改正案も出ていて、さらに丁寧に教えていくとか、環境技術を学校に取り入れていくなど検討されているところです。

―わかりました。では最後に、最初に伺った社会の実現に向けて、環境省としてOMソーラーに期待したいことなどがあれば仰っていただければと思います。

OMソーラーはエコハウスの「走り」というか一番の「老舗」ですから、すでにいろいろなツールをお持ちだと思います。エネルギーやCO2の削減量の計算だとか、それらをもっともっと打ち出していただければいいと思います。雑誌なんかでも事例をたくさん紹介したりして、一般の人の目に触れる機会を増やしていただくのもいいと思います。そして、私なんかは「エコ」を目的に家を建てたところがありますが、普通は「エコ」を目的に家を建てる人はいないと思いますので、「快適」や「健康」「安全」という家の本分と同時に「エコ」も実現しているということを大いにPRされたらいいと思います。そしていずれ、エコハウスの資産価値が上がっていくことに繋がればいいですね。
とにかく、大きな実績をお持ちなので、実例をたくさん示してあげられればいいのではないでしょうか。OMは太陽熱利用という点が大変面白いと思います。OMを宣伝する立場にはないですし、どこのハウスメーカーも頑張っていらっしゃいますが、豊富な実例を活かして自信を持って取り組んでいただければと思います。

―太陽熱利用は評価が難しいという話もありますが、国として太陽熱利用が自然エネルギー利用の中にちゃんと位置付けられていくと考えていいでしょうか。

政治家の方々のこれからのご判断ですが、太陽熱利用は効率がいいです。太陽光発電も効率は上がっていくと思いますが、それにしたって太陽熱利用は効率的です。熱を熱として利用するところが大事で、その点はもっともっとやられていいと思います。
欲をいえば、温暖化のことを考えて今後は「冷熱」について何とかなると面白いかもしれませんね。

―お話を伺い、今の環境行政の内容やエコ社会の姿をあらためて認識できたように思います。本日はどうもありがとうございました。

小林光(こばやし・ひかる)

1949年東京生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。1973年環境庁(当時)入庁後、主に環境と経済、環境のための計画、地球環境等に関わる諸課題を担当。1995年以降は、同庁地球環境部環境保全対策課長として、気候変動枠組条約第3回締約国会議(COP3)の日本への誘致、同条約の京都議定書の国際交渉、我が国初の地球温暖化防止法制(地球温暖化対策推進法)の国会提出などを担当した。環境管理局長、地球環境局長、大臣官房長、総合環境政策局長を経て、2009年7月より環境事務次官。この間、地方では、北九州産業廃棄物課長を務める一方、海外ではパリ大学都市研究所に留学。米国東西センター客員研究員なども歴任。また、大阪大学大学院、東京大学大学院の客員教授などで教鞭を振るった。著書に『日本の公害経験』『エコハウス私論』など。

小林光(こばやし・ひかる)