第16回:南雄三さん

「この人に聞きたい」第16回目は、住宅技術評論家の南雄三さんです。南さんは住宅における高断熱・高気密化技術の推進に長く取り組んでこられ、高断熱・高気密が広く社会に浸透するようになった近年は、長く培ってきた断熱・気密の技術をもとにした環境共生住宅の推進に取り組まれています。OMソーラーと関わりが深いところでは、OMが採択された平成21年度 第1回「住宅・建築物省CO2推進モデル事業」において、環境効率の評価となる「CASBEE戸建て」の評価員講習の講師を務められており、最近は環境共生住宅に関する国の施策などとも深い関わりを持たれています。
ここ数年、怒涛の如く住宅に関する法改正が相次ぎ、それに伴う補助金などの施策も打たれ、その波間で地域工務店は翻弄されてきた感があります。今回は、地域工務店が今後、このような施策にどのように向き合っていけばよいか、などについてお話を伺うことにしました。(文/2009年7月現在)

住宅もようやく、「共通のモノサシ」で評価する時代になった。

「補助金のための評価」ではなく、「評価の結果としての補助金」と考えるべき

写真:南雄三さん

―東京と大阪で開催したCASBEE(※1)の講習会では講師をお願いしましたが、その時の参加者の反応はいかがでしたか。

皆さん熱心でしたよ。ただ、中にはCASBEE や自立循環型住宅(※2)など、名前も知らないという人もいました。これはOMソーラーの工務店に限った話ではありませんが、国の政策や施策にとても詳しい工務店もあれば、「CASBEEって何?」というレベルの工務店もあり、情報量の格差は大きいですね。

―とはいえ、これだけ法改正があり、多くの施策が目まぐるしく展開されると、勉強熱心な工務店ほど施策に振り回されてしまうということも考えられませんか。

法改正やそれに伴った施策の目的は主に3つに整理できます。「建築に対する信用回復」「住宅の長寿命化」、そして「地球温暖化防止」です。信用回復は、瑕疵担保履行法であり四号特例廃止であり建築士法です。長寿命化は長期優良住宅。そして温暖化防止は、太陽光発電や省CO2モデルなどです。
これらの項目が国の施策になったという意味は、国はこの項目が重要と判断し、施策を掲げることに対して国民の支持も得られると判断したからです。そして住宅業界の自助努力だけでは実現しないと思われたわけです。

写真:流れ
住宅に関する省エネ施策の流れ。

今回、ややこしくなったのは、これらの施策に「景気浮揚策」まで上乗せされたからです。
目的達成のためのルールを決めるだけではなく、景気浮揚も狙いながら、ルールを浸透させるための方法として補助金という名の現金をぶら下げたんです。そうなると業界はお客さんのためにそれを取りにいかなくちゃならない。ただし、補助金をもらうためにはいろいろな手続きが必要です。翻弄されているとしたらその部分じゃないでしょうか。

―補助金をもらうためのルールではなく、ルールを浸透させるための補助金と理解すべきなんですね。

そうです。そうはいっても企業としては自社の経営に直結するのは受注活動ですからね。「品質向上のための施策」という面ではなく、「受注促進のための補助金」という側面に意識が行くのは当然だと思います。事実、不景気になれば、これまで日本はすぐにローン減税などの住宅施策を打ってきました。住宅を購入するということは、住宅以外でも間接的な購買が広く期待できますから。

だから住宅業界は他の業界に比べると総じて景気が良かったわけです。でも今回は住宅以外にも、エコポイントやエコカー減税など、住宅以外にも景気浮揚策が広がっています。そこまでするのは珍しいことです。ただ補助金は一時的なものですから、やはり大事なのは施策の内容や意図を理解するということが大切です。そのためには、補助金のノウハウだけ勉強していてもだめです。

もちろん、常に補助金情報を追い掛け回して、出てきた施策一つ一つをその都度勉強するのも効率的ではありません。何を勉強したらよいかを考えなければいけません。

―そして今勉強すべきなのがエネルギーに関する評価ツールということですね。

「信用」と「長寿命化」は法整備が完了して一旦落ち着くと思います。残ったのは「地球温暖化防止」です。これは、国際的な枠組みの中で、国が他国にお金を払ってでも守らなくてはならないルールです。今後、温暖化対策がどのように動いていくか見守る必要があると思います。そして、このような住宅関連の施策の一方で、勉強していかなくてはならないのが「評価ツール」です。「性能表示」、「CASBEE」、「自立循環型住宅」、あと温暖化防止とは直接関係ありませんが、今後「健康維持増進住宅」なども登場してくるはずです。これらの評価ツールは国が作ったものなので、施策の一部として混同されてしまいますが、施策とは別のものとして捉えておく必要があります。つまり、これらの評価ツールは、個別の施策に付いているのではなく、今後打ち出される諸々の施策(インセンティブ)の判定基準になっていくということです。施策は様々ですが、その判定基準は変わらないということです。前述した4つの評価ツールがその判定基準になると考えていて、この4つをマスターしておけば、あらゆる施策に対応できることになります。

―施策を活用するためには、まず評価ツールを理解する必要があるということですね。

写真:自らを「国の施策を工務店に伝える“通訳”と喩える南さん。
自らを「国の施策を工務店に伝える“通訳”と喩える。

そうです。性能表示は「性能」を、CASBEE は「エコ度」を、自立循環は「省エネ度」を、健康維持増進は「健康度」を測るわけですが、これ以外に住宅を測るモノサシはないように思います。あとは「美しさ」くらいでしょうか。実際に、長期優良住宅は性能表示で、省CO2はCASBEEで評価すると言っているわけですよね。

評価ツールさえマスターしておけば、びくびくすることなく大きく構えていられるわけです。ただ、評価ツールそのものに「縛り」があるわけでもなく、「お金」が出ることもありません。施策になってはじめて「旨み」が出るため、つい施策に目が行きがちですが、僕が常々、評価ツールこそ勉強しなさいと言っているのはそのためです。家づくりの質の向上を目指しているのであれば、施策に振り回されるという意識にはならないと思いますよ(笑)。

※1  CASBEE :2001 年に国土交通省が主導し、(財)建築環境・省エネルギー機構内に設置された委員会によって開発された建築物の環境性能評価システム

※2 自立循環住宅:気候や敷地特性などの住宅の立地条件および住まい方に応じて極力自然エネルギーを活用した上で、建物と設備機器の設計や選択に注意を払うことによって、居住性や利便性の水準を向上させつつも、居住時のエネルギー消費量(二酸化炭素排出量)を2000年頃の標準的な住宅と比較して50%にまで削減可能な、2010年時点までに十分実用化できる住宅。

「省エネ」を考える前に「暖房方法」の検討が不可欠

―施策の情報をいち早くキャッチしたところで、評価ツールが使えなければ意味がないわけですね。一方で法改正ということでは省エネ法の改正により、次世代省エネ基準が当たり前の時代になろうとしています。

今のところ年150戸以上の建売住宅供給の業者などに限ったトップランナー方式ですが、次世代省エネ基準が当たり前になるのも遠い話ではないでしょう。2010年が“次世代省エネ元年”と言われています。そうするとみんな暖かい家になってしまうわけです。

―OMは建築的な工夫、いわゆるパッシブ的手法により省CO2を目指していくスタンスですが、ハウスメーカーなどは高断熱・高気密+太陽光発電により省CO2を目指そうというのが主流のように見えますが。

OMのような自然エネルギー利用も、高断熱・高気密も、「暖房エネルギーの削減」という視点で考えれば同じモノサシで評価できます。
問題は暖房の範囲です。日本の住宅はこれまで個室暖房が一般的でしたが、OMや高断熱・高気密の家では全室暖房が行われています。いくら高断熱・高気密にしたといっても、大きな建物で全館を暖房するためのエネルギーはそれなりに掛かるわけです。

一方、個室を限定して暖房するのであればそれほどエネルギーはいらない。そこで高断熱・高気密で省エネといっても、余計にエネルギーが使われている…と批判する声があります。
日本は未だに個別暖房の意識があって、この状態だと省エネ対策が一つになりません。我慢も省エネ対策の一つなんです。欧米各国はとっくの昔から全室暖房ですから、エネルギーを多消費していて、高断熱・高気密で省エネ対策をすればよい状況があります。
一方日本では、まず個別暖房から抜け出すのか出さないのかの議論にまだ終止符が打たれていないのです。日本独特の情緒的な議論嫌いもあって、この個別暖房×全室暖房の議論はかみ合いません。快適が目的ということになれば「もったいない」が出てきます。ですから日本では快適という言葉は使えなくて、「健康」が使われてきました。

つまり、ヒートショックや結露の防止を目的にすることです。家全体に大きな温度差がなくなればこの2つの「健康」は実現しますから、次は「快適」の議論です。24時間、ホテルのように温湿度をコントロールするのが快適なのか、そこまで恒温性を持たせないパッシブな雰囲気の方が快適なのか…、面白い議論が待っているのです。
しかし、その議論をする暇もなく、次世代省エネが一挙に普及することになりました。
全室暖房の状態で断熱性を高めれば省エネ効果は大ですが、個別暖房では大して省エネになりません。それでも断熱・気密性が高まっただけで、室温はだいぶ高まります。
そこでどんな暖房状態がはじまるのかは未知です。日本人の感覚としては、ホテルのような環境ではなくて、朝起きるときに一枚羽織って起きるくらいが丁度いい。

曇っていたら少し寒いくらいでいいんじゃない。僕もそういう感覚が好きですが、高断熱・高気密の家では冬でもシャツ一枚で過ごせるほどの環境を求める人もいます。一般的な日本人の感覚としたら少し寒いくらいでもいいと思いますが、そういう感覚を施主に営業上で話す時には理解されにくいのが実情です。

―OM の場合は全室だけど、ほどほどに暖かいという感じです。

たしかにOMはほどほどを追求するものだと思いますが、施主にとっては全室暖房手法であって、家全体が暖かいというイメージがあるから売れているのだと思います。太陽熱が家全体に巡る…、あのしくみ図は全室暖房のイメージで、どこまでパッシブな「ほどほど感」を営業的に伝えられているのか知りたいところでした。「ほどほど」を伝えるのはむずかしいのです。

―確かに、熱をどう得ているかイメージしやすいのは大事ですね。

省エネ法改正で出たトップランナー制では個別暖房と全館連続暖房と全居室連続暖房の3つの暖房範囲があって、それぞれで基準値がつくられている。日本の実状を示した不思議な基準値のつくりかたですが、でも3つの暖房範囲の状況に間違いはありません。ところが、�地域以西になると、全居室連続暖房がなくなって、個別暖房と全館連続暖房だけになっている。つまり、寒い家かホテルかの選択しかなくなって、高断熱・高気密化して1~2台のエアコンで家全体をほどほどに暖冷房してしまう状況を評価することができなくなっています。トップランナー制のもとになったのが「自立循環型住宅のガイドライン」で、ここでもやはり�地域版は個別暖房と全館連続暖房しか評価がありません。

―OM も自立循環型住宅で評価する際に、「全館連続冷暖房」と「部分間欠冷暖房」の二択となると迷ってしまいます。

そうでしょう。私はトップランナー制が暖房範囲によって基準値が違って設けられていることに否定的です。やっぱり家としての目標は一つにするべきで、これからの日本の家の健康、そして快適を考えれば、個別暖房でもなく、全館連続暖房でもなく、ほどほどに暖かい全居室連続暖房を目標にして、基準値にするべきだと考えています。

―OM も曇りの日や雨の日など、OMの補助暖房をつけるのではなく、寒い部屋だけホットカーペットをつけるなど、部分的な対応で足りることもあります。

OM は暖房としての一つの形を持っているからね。省エネに対する「目」は明確で、何をするべきかを考えることができていると思いますが、この省エネ法改正で、「目」をもたないまま、一挙に高断熱化・暖房のイメージなしの状況が広くつくられてしまうとしたら怖い気がします。

最後は住宅の「論」を持っているかどうかが問われる

―今後はエネルギーという点では、コジェネや燃料電池も出てくると思いますが。

しばらくはヒートポンプ(電気)とコジェネ(ガス)の戦いでしょう。ただ、コジェネにしても火をつけたら発電しなきゃもったいないということですから、発電してその余熱でお湯をつくるわけです。だからいずれにしても家は電化されていて、家で火を使うことはなくなるんじゃないでしょうか。でも燃料電池のためにガスの供給が必要となれば、現在のようなオール電化住宅でガス管が来ていないという家は困りますよね。設計者によく言うのは、200 年住宅なんていうけど、設備が将来どう変わるか考えたことありますか?ということです。そして、そのときに太陽光と太陽熱がどう位置付けられるかです。

―OM もそれまでに他の技術との融合を検討していきます。最後に、もう一度評価ツールのことに戻りますが、IBEC (※3)のWebサイトに出ている「住宅事業建築主の判断基準/算定用Webプログラム」は今後使われるようになるんでしょうか。

プログラム:「住宅事業建築主の判断基準/算定用Webプログラム」
「住宅事業建築主の判断基準/算定用Webプログラム」はIBECのWebサイトからダウンロードできる。

省エネラベルの制度も出来ましたし、もちろんどんどん使われていくことになるでしょう。ただ簡単に計算できるのは良いことなので大いに使って欲しいのですが、そうなると自立循環型住宅をきちんと勉強しようとする人が減ってしまうのではないかと心配しています。算定結果の答えは判断材料にはなりますが、大事なのは、その答えにたどり着くまでの検討の過程ですから、そういった意味でも勉強は必要なんです。

―勉強した上でWebプログラムを使えばいいですね。

いや~、入力するだけで答えが出るんだから勉強なんかしないでしょう(笑)。それはジレンマです。シックハウスのときの24時間換気もそうでした。 換気が義務化されてしまえば、何も議論しないでとにかく換気扇を付けるだけです。換気のことなんてわかってなくても、とりあえず付けるんです。残念だけど、法律とはそういう動きを生むんです。
そうはいっても、このプログラムは使うべきです。公的な評価プログラムなわけですから、営業マンの口先三寸のトークなんてこれからは全く差別化にも信用にもならないわけです。

―「公的な評価」ではなくても、「公的な評価ツールによる自己評価」が重要ということですね。

CASBEEも自己評価です。国は責任を負えませんから。評価員なり、自己の責任ということです。ラベルも評価員の評価と自己評価の2種類用意されています。大事なのは公的なモノサシを使うということです。僕は今、一生懸命この評価ツールを皆が使えるように教えているところです。

―これまで、構・工法や高断熱・高気密、自然素材やOM のようなシステムなど、商品の違いで差別化を図ってきたものが、公的な評価ツールにより総合的な評価が行えるようになってきたわけですね。そうなった時の工務店の差別化の武器はなんだとお考えですか。

ひとつは「資産価値」ということでしょうか。もちろん、建築家の作品もいい家だと思いますけど、いい家の評価も時代とともに変わりますよね。結果的に高く売れる家が「資産価値が高い」と呼べるわけです。
それから、やはり「設計」の質、もっといえば作り手がちゃんと「論」を持っているかどうかだと思います。小手先の差別化に終始したり、施策を追い掛け回すのではなく、住宅の本筋の勉強を重ねていく必要があります。
そこでは新しい情報だけに興味を持つのではなく、家づくりのあり方や人々の暮らしのことを真剣に考えて、文化や歴史まで幅広く興味を持つことです。そんな勉強をしていくことで自分なりの「論」が形になってきますから。その「論」を軸に新しい技術や情報、施策をつなぎ合わせていくべきです。
そういった意味でOMには昔から一つの軸が通っていますから、その軸を中心に、どんな要素を組み合わせていくのかが、これから問われていくんじゃないでしょうか。

―施策にどう向き合えばよいか、ということからお話はいろいろと膨らみ、大変面白いお話を伺いました。今日はどうもありがとうございました。

※3 IBEC:「建築・環境省エネルギー機構」の略。建築物におけるエネルギーの有効利用その他環境保全の推進を図る活動を行っている国交省所轄の公益法人。

南雄三(みなみ・ゆうぞう)

昭和24年東京生まれ。明治大学経営学卒。木造住宅の断熱・気密化技術及びエコハウスのアドバイザーであり、また住宅産業全般のジャーナリストでもある。伝統的な在来工法に現代の技術を合体させたパッシブデザイン(新自然住宅)を提案し、地場の材で地場の職人たちがつくる環境共生住宅の建設を推進している。 新宿にある自宅は大正の古住宅を再生し、屋根緑化や蛍の居るビオトープ等を試み、都心の共生住宅として新名所(?)になっている。若い頃、世界50カ国を放浪した貴重な経験をもつが、現在も建築を見に世界を歩き続けている。住宅誌等に執筆の他、講演活動を行っている。
『スラスラわかる断熱・気密のすべて』(日本実業出版)、『SuiSui分かる結露の本』『高断熱・高気密バイブル』『資産になる家・負債になる家』(以上、建築技術)、『在来工法新時代』(日本住宅新聞社)、共著に『人間住宅』(INAX出版)他著書多数。

南雄三(みなみ・ゆうぞう)