第14回:宮田識さん

「この人に会いたい」第14回目は、パナソニック、キリンビール、イオン、モスバーガー、ブライトリング等の広告を手掛けられている、クリエイティブディレクターで(株)ドラフト代表の宮田識(さとる)さんです。

宮田さんには、1996-2001年にOMソーラーの広告デザインをお願いしており、お付き合いが始まる直前にOMソーラーでご自宅を建てていただきました(設計:長谷川敬 竣工:1996年)。宮田さんの仕事のスタイルは、単に広告等のデザイン制作ではなく、企業や商品の内部にまで入り込み、販促企画や商品開発、企業のあり方といった部分にまで深く関われる、というのが特徴です。そのため、たくさんの依頼の中から宮田さんの “御眼鏡に適う”仕事はほんのひと握りで、簡単に言えば、その選択は宮田さんの選択眼で決まっています。

当時、OMソーラーは宮田さんの選択に適ったわけですが、今回は、宮田さんの「モノを見る眼」について、あらためて伺うことにしました。(文/2009年4月現在)

仕事も家も自分の生き方に照らして選択してきた。OMソーラーもその一つ。

できるだけ楽しいものの中に身を置きたい

写真:宮田識さん

―宮田さんやドラフトの仕事は、比較的、衣・食・住など、人の暮らしや生活といった身近な商品が多いように思います。他のカテゴリーを含め、たくさんの依頼の中から、どのようにして仕事を選択されているのか、何か基準のようなものはあるんでしょうか。

うちはデザイン事務所だから、「表現すること」や「デザインとは何か」ということを追及していくわけですが、追求すればするほど世界はどんどん広がっていきます。しかし、自分と関係のないデザインではなくて、できるだけ自分の生活に近いというか、身の回りにある部分のデザインに関わっていたいと思います。

人生なんてあっという間だから、笑顔で人生を送りたい。書籍『デザインするな』(藤崎圭一郎著)の中では、僕は“怒りんぼう”のように書かれているけれど、できるだけ楽しいものの中に身を置きたいじゃないですか。そうなると、仕事としてデザインに取り組む上でも、自ずと自分の生活に近いところが基準になっていくような気がします。どう生きたいか、自分の生き方と仕事と、身の回りとがセットされなくてはいけなくなってくる。世の中に存在する商品やサービスのほとんどは、直接的にしろ、間接的にしろ、人が生きていくのに必要なものですが、その中で自分も理解できて、深く考えられるもの、そしてそれを人にも伝えたいと思うものが、仕事を選択する上での基準になっていると思います。

写真:「デザインするな」表紙
書籍『デザインするな』(藤崎圭一郎著/DNPアートコミュニケーションズ発行)。
宮田さんやドラフトの考え方、仕事がわかる本。本文最後にOMソーラーのことも書かれている。以下はその部分の一節。OMとドラフトは「パッシブ」という言葉で繋がっていることがわかる。
「…自然と共生するのは、簡単なことではありません。面倒なことも引き受けなければいけない。寒くなったら、服を着る。陽の当たるところへ行く。空調でいつも室内の温度が一定なら、そんなことをする必要はない。壊れれば、電器屋さんに来てもらえばいい。自然の変化を受け入れるには、行動をしなければならないのです。 だからパッシブは能動なのです。パッシブを守りつづけるには、ものすごく人のエネルギーが必要なんです」風のめぐりをつくる会社だからドラフト。時代の風を強引につくる会社ではない。受動の能動―パッシブであるために、時代や社会に積極的に関わりつづける。そうして風の道を整えていく。

―基準は宮田さんの生き方の延長にあるという感じでしょうか。

そう。自分と仕事の関係もそうですし、仕事をする環境に対してもその 思いはあります。僕は、本当は那須の山の中で暮らしたいし、そのほうが気持ちいいに決まっています。だけど、デザインの仕事をしている以上、現実的には難しいことです。でも、こうやって事務所に庭があることで那須じゃないけれど気分良く仕事ができます。自分の生き方に照らして、そういう環境をつくっています。

仕事も同じで、単に売れればいいとか、儲かればいいということじゃなくて、自分が使ってみたいとか、他人に勧めたいとか、周りの人が使ってくれることで自分自身も気持ちよくなれるとか、自分の生き方の中での選択と言ったらいいかな。お金が一番素晴らしいものではないし、何人かの友人がいて、山の中に居られればそれに越したことはない。それができないから、それに合うような環境をつくっているのであって、それは、仕事だからといって分けたくないのです。自分の中で、一日も、一生も、周りの環境も、仕事も同じであって、線を引くことができないのです。

―今は宮田さん個人ではなく、組織としてたくさんのスタッフを抱えられていますが、その考え方はデザインの仕事をはじめられてから一貫しているんですか。

会社を大きくしようと思ったことはないし、仕事をしているうちに人が育って、その下に人をつける必要が出てきたり、人が増えたら経理する人が必要になったり、仕事が増えてきたら全体をコントロールする人が必要になったりして、知らず知らずのうちにこんな所帯になったという感じです。

判断基準は自分自身が育んできた感性であるべき

―所帯が大きくなるのと同時に、仕事の量も増えていったのだと思いますが、仕事の選択の基準は変わらなかったのですか。

さらに選ばないといけなくなりましたね。もちろん、人が増えて会社が回らなくなったらという不安は常にありますよ。でも、だからこそ受けないことが多い。圧倒的に受けないことのほうが多いですよ。僕の中では常に、「この企業や商品は、本当に世の中に必要なんだろうか?」という問い掛けがあるんです。

―逆にいえば、今付き合っている企業や商品は、仕事を離れても付き合いたいというところなんですね。

もちろん。でも企業そのものもどんどん変化していきます。変な方向へ行こうとしたら、僕も「ふざけるんじゃない、そんなことしたらお宅は潰れるよ」と、社長相手に机を叩くこともあります。

―単に広告だけを考えるということではなく、会社のあり方を一緒に考えるということですね。

ただ「この会社面白いなー」と思って付き合っていても、そのうち会社としては「今の時流を考えると」とか、「もっと儲けたい」という思いが出てきて、方向がズレて行くことが往々にしてあります。でも時代とか流行とかは関係ないんです。必要なものは必要なんです。

―何となく、デザインの仕事というと「流行を作り出す」とか「時代を先取りする」というイメージがありますが。

それは表現の最後の部分ですね。時代とか流行とかは関係ないと言いましたけど、実際には僕の体の中にもそういった情報は勝手に入ってきて、知らず知らずのうちに影響を受けています。それが“今を生きている”ということです。今の僕の身体は“昭和の身体”じゃありません。ましてや江戸時代の身体でもない。僕は、昭和にも江戸時代の人間にもなれません。平成21年の宮田識なんです。毎日毎日、影響を受け続けていて、過去に戻ることはできないんです。

ただ、影響されているかどうかなんていうことは、頭で考える必要はないんです。身体が勝手に情報を受け入れて、それをこれまで形成されてきた性格や性分、育まれてきた感性によって、気に入らないものは撥ね付けて、好きなものを受け入れているに過ぎません。

―とはいえ、自分の感性に自信が持てずに、流行に流されてしまうことも少なからずあると思います。宮田さんの“選択の強さ”はどこからくるんですか。

“カッコいい”と思えるかどうかということかな。例えば、僕の家は外観のデザインは決してカッコいいわけではないけれど、家に対する考え方がカッコ悪くないから自信満々でいられるんです。その辺の家がバカに見える。どういう思いで、どういう家を建てたかったか、ということが僕にはあったからです。言い方を換えると、“自分がいいと思っていることを信じている”ということかな。だから、自信満々でいられるわけです。

―それは、住宅の設計の良し悪しが評価できるとか、そういう問題ではないですよね。

写真:ドラフト事務所
ドラフト事務所。庭を囲んだL字型の建物で、陽が沈むとより一層中の様子がよくわかる。

僕はOMで家族の気配が感じられる小さな家を建てたかったわけだけど、“どんな家を建てたいか”、そういう思いがあればよくて、家づくりそのものはプロに任せればいいんです。

この事務所を選んだのも、L字型だからスタッフの様子がよくわかるからです。これが四角いビルだったらよくわからないわけです。お互いの顔が見えて影響しあうことってとても重要で、気付くことも多いのです。これは家族間にも会社内にも共通しています。60の僕が、20代の女の子から感動を受けることもあるわけですから。

買う人は“自分の感覚”に正直になればいい

―宮田さんは、関係性とか、間にある領域をとても大切にされていて、それがニュートラルさや化学反応みたいなことに繋がっているのだと思いますが、そういうことも“自信”の礎になっているのでしょうか。

というより、そのほうが失敗がないということです。僕は、打ち合わせの席にも全員連れて行きます。向こうは減らしてくれって言いますけどね。でも、そうするとガンガン話に絡める者、反対にずっと黙っている者もいるわけです。いろんな反応があるわけですが、黙っているからといって可能性を閉ざしてしまいたくない。黙っている者も、その場にいるからどうしたらいいか自ら考えるわけです。それぞれが夫々考えるわけですよ。

そして、いろんな関係性の中からお互いに影響しあいながら気付くことが出てくる。折角、大きな夢を持ってこの事務所に来たわけですから、冒頭の話じゃないですけど、できれば楽しく仕事をして欲しいですよね。その可能性を摘んでしまいたくないし、僕にその権利はありません。皆に平等に可能性を与えていたい。そこに線を引きたくないんです。それと同様に、家の話も、会社の話も、個々の仕事の話も、趣味や遊びの話も、どこにも線はないんです。

―どんな家を建てるのかも、どんな仕事をするのかも、皆一緒なんですね。家を建てるときになって、あらためて「どんな家を建てたいか」とか、急に家づくりの勉強をしたりしますが、本来そういうことではないと。

勉強なんて要りません。プロがいるわけですから。必要なのは、“どんな家族になりたいのか”、“どんな会社にしたいのか”、“自分がどうなりたいか”です。別に具体的じゃなくてもいい。「いい男になりたい」でいいんです。「いい男って何だろう」って自分で問いかけるんです。そうやっていい男に向かっていけばいい。「思う」ことで近づけるんです。

―“何が一番得か”など、とかくカタログ等の情報で選択を判断してしまいがちですが…。

それが間違っているんだと思います。例えば最近カロリー表示をよく目にするようになりましたが、数値さえ押さえておけばメタボにならないかというとそうとは限りません。数値の範囲ならいくら食べてもいい、というのでは本末転倒です。それよりは「食べ過ぎ」という自分の感覚のほうがよほど信じられるし、昔から言われている「腹八分目」を守ることのほうが、結果的に正しい判断が下せるんじゃないでしょうか。カロリー表示がメタボを増やしたんじゃないかと思うくらいですよ。

―大事なのは“自分の感覚を磨くこと”、ということですね。

家を建てるときも、モノを買うときも、自分の感覚が大事で、「この家と一生付き合っていけるか」ということで判断すべきです。どんなに機能が優秀でも、気分が悪かったら買わないですよ。

―宮田さんは、そういった判断してもらうための材料を提供する側のお立場ですが、何を心掛けているんでしょうか。

写真:事務所の庭
事務所の庭には多様な植栽がなされている。写真右手の楠の巨木がここが都会のど真ん中であることを忘れさせてくれる。

「リアルさ」とか、「正直さ」ということでしょうね。だから、ろくでもない正直さとは付き合えないし、そういう会社とは付き合わないわけです。正直に伝えれば、お客さんはそれを感じ取ってくれて買ってくれるし、隣の奥さんにも言ってもらえるんです。僕はそうやってきました。だから、世の中に必要なものとしか付き合いません。

伝えるためには「表現」より「構造」が大切

―現在は情報が氾濫していて、届けたい情報やメッセージがなかなか届きにくい社会になってきている感があります。

そんなことは気にしなくていいです。OMの良さを客観的に評価している人だって、建てない人は建てないですよ。それはOMの客観的な評価による判断ではなく、その人の生き方における主観的な判断です。現実はそうやって決められるものです。

―モノを選ぶという行為は、その瞬間だけで決まるのではなくて、その人がそれまで積み重ねてきたもの全体から選ばれるということですね。

僕だってOMとそんなに長く付き合って建てたわけじゃありません。OMを知って、しくみや考え方が面白いと思って、“すぐやろう”と思って建てたわけです。それは、僕の生き方との関係の中で選択されたということです。それが、僕の生き方が違っていて、仕事だけのつながりだったら建てやしませんよ。でもそういう感覚を持っていない人は、3軒も見れば自分の感覚と違うことに気付きます。必ずしも右脳(感覚的)だけで決まるわけじゃないでしょうけど、積み重なって形成された“感覚”というのは正直なものです。

―最近は住宅業界全体も性能や法律を基準にしたPRが増えていますし、太陽電池などをはじめとしたさまざまな設備も性能比較など、左脳(理論的)にPRしようと考えがちです。

もちろんそれらの情報は重要なことです。OMと太陽電池の関係についていえば、パッシブと組み合わせることでアクティブが小さくて済むわけなので、組み合わせの問題であって優劣の問題ではないと思っています。正直に言えばいいんです。「電気はつくれません。その代わりこういうことが実現できます」と。

―「正直」がキーワードですね。

正直に伝えられるものがなければ、人に伝わらないですよ。嘘ついて伝えたところですぐに見限られてしまう。

―(時計の)ブライトリングの広告でも、動かすのに毎日自分で巻かなきゃいけないとか、正確性は電波時計に比べて劣るとか、ネガティブな情報も正直に伝えることで、逆に魅力を高めているように思います。

写真:宮田さん
ホワイトボードを使って自らの家づくりの考え方を説明する宮田さん。

ブライトリングの価値がそこにあると考えていないからね。正確に時間を知りたければ携帯電話を見ればいいんです(笑)。もちろん、正直に伝えることもそうですが、伝え方の構造のほうが問題になるわけです。あくまで表現は最後の部分ですから。伝えたい「目的」があって、そのための「構造」があり、はじめて「表現」が生きるわけです。「表現」ありきではありません。目的に達すれば良くて、逆に、別のことが目的になるから混乱するんです。

OMだったら、“どんな家が建つんだろう”ということをたくさん見せてあげることが大事だと思います。高いお金を出して家を建てるんです。少しでもいい家にしたいし、建ててからも後悔したくないですから。OMのことをよく知っている建築家なり工務店とお客さんを結び付けてあげるのがOMの仕事であり、そのための構造を考えることです。いい建築家、いい工務店と家を建てるほうがいいに決まっていますから。

いい建築家やいい工務店がOMに集まる構造にすることが大事ですね。お金は、本来の目的を達すれば自ずとついてくるんです。何しろついてきちゃうんですよ(笑)。

―最後はOMソーラーの普及のためのアドバイスをいただきましたが、今日のお話は、結果的に“企業のあり方”のヒントになるような内容だったと思います。興味深いお話を伺い、どうもありがとうございました。

宮田識(みやた・さとる)

クリエイティブディレクター。アートディレクター。株式会社ドラフト代表。朝日広告賞グランプリ、読売広告大賞、ADC最高賞、ブルーノ国際ビエンナーレ広告賞、ワルシャワ国際ビエンナーレ入選ほか、受賞多数。

宮田識(みやた・さとる)