第13回:石川英輔さん

連載「この人に聞きたい」、第13回目は、作家の石川英輔さんです。『大江戸神仙伝』『大江戸えころじー事情』『大江戸えねるぎー事情』など、代表作の『大江戸シリーズ』を通して江戸時代の人々の文化や営み、そしてそこからうかがえるエネルギーやリサイクル、真の循環型社会の在り方を紹介されてきた石川さん。そこには、生活の便利さを求めて大量のエネルギーを使い、化石燃料を消費し続ける私たちが今学ぶべきヒントが散りばめられています。

石川さんが作品を通じて問いかけ続けていることとはどんなことなのか。その一端をお伺いしました。(文/2009年3月現在)

地球環境という視点ではなく、自分の健康という視点で考えることが大切。

私たちの生活は、膨大なエネルギー消費を背景に成り立っている

写真:石川英輔さん

―石川さんがこれまでに書かれた江戸関連書籍は、小説や解説書など、20数冊に上るそうですね。まずは、江戸をテーマとして書かれたきっかけを教えてください。

きっかけと言うと難しいのですが…。私はもともと写真製版の会社を経営していたのです。一方、昔からSFが好きで、ありふれたSFを書いていたのですが、あるとき出版社の方から、「今まで誰も書いたことのないテーマで執筆してみませんか?」と声をかけられました。自分は技術者ですので、本当はロケット・ロボットものを書きたかったのですが、その世界は当時既に確立されていてオリジナルのテーマは難しかった。

それで、さんざん悩んだあげく「もし現代人が着のみ着のままで江戸の町にタイムスリップしたとしたら、どうなるだろうか?まともに生活していけるのだろうか?」というアイデアを思いつきました。30数年前のことです。

―それが、現在7巻まで出ている小説「神仙伝シリーズ」の始まりですね。第一巻の「大江戸神仙伝」では、現代の東京から江戸時代に突然タイムスリップした主人公・速水洋介が、持ち合せた身の回りの品や薬の知識によって、たちまち江戸の世界で「超能力を持つ神仙」として敬愛され、江戸の庶民生活を楽しむ、というストーリーですが、実際、江戸の町に放り込まれたら、我々の生活はどうなるのでしょうか?

写真:江戸時代の頃の文献
石川さんが所有する江戸時代の頃の文献。当時の生活や文化をうかがい知る貴重な資料。

まったく生活できないでしょうね。たとえば、私はかつて写真製版の仕事をしていましたが、着のみ着のまま江戸に放り込まれたら、何もできません。仮にフィルムの入ったカメラを持ち合わせていたとしても、現像ができない。カメラの製造も製版もできません。要するに、私たちができる「つもり」でいるということは、現代の膨大な工業力を背景にして成り立っているということで、手ぶらでできることはほとんどないのです。デジカメで写真を撮れるのは、カメラをつくるという膨大な工業力が背景にあるから。メモリーカードや充電器やプリンタをつくる工業力があるからで、我々のほとんどは何がどういう理屈で成り立っているのか、その理屈すらわかっていません。

ところが、江戸時代の人は「できると思っていること」は、本当に自分の力だけでできるのです。私の手元には江戸時代の頃の文献が多数ありますが、これらの本をつくるにしても、紙をつくる人、字を書く人、版木を彫る人、印刷する人、製本する人など、自分の分担のところはちゃんとできます。和紙は、植物の白皮と呼ばれる靭皮からつくられているのですが、植物繊維だけでできており、木や竹を材料とした簡単な道具さえあれば、手ですべてつくることができます。特別な動力は必要ありません。

―それに比べて、現代社会は、膨大な量の化石燃料の消費を前提に成り立っているということですね。

江戸時代までの人間は、太陽エネルギーだけで生きていたといっても過言ではありません。暮らしの中の動力源は人間の力です。あとは、せいぜい水車くらいですが、水車だって太陽が汲み上げた水の力で動いているわけです。牛や馬だって、太陽が育てた草を食べて成長している。人間自身も穀物、豆、芋を食べて生きていますが、これらの穀物類も前年度の太陽エネルギーによって育ったものです。つまり、江戸時代までの日本は、せいぜい過去2、3年分の太陽エネルギーだけで動いていたと言えるのです。

写真:インタビューの様子
インタビューは、東京・中野の石川さんのご自宅で行われた。

ところが今、我々は一日におよそ12万キロカロリーくらいのエネルギーを使っています。そのうちの10万キロカロリーが化石燃料です。石炭、石油、天然ガス、これらは燃やせばおしまいです。絶対に循環しません。

そうやって考えてみると、江戸時代の人は身体の100%が太陽エネルギーでできていると言っていいでしょう。それに対して、現代人…特に主食はパン、牛肉が大好きで、野菜は極力安いものを買っている、という人は、おそらく80%くらいは石油でできているのではないでしょうか。私は、普段自動車は使いませんし、主食は玄米、肉を食べる習慣もなく、野菜は自宅の庭で栽培しているものを食べていますのでフードマイレージはゼロに近い生活をしています。それでも私の身体のうち太陽エネルギーだけでできている分は40%で、60%くらいは石油だと思います。

「豊かな社会の実現」が人間に与えた影響は何なのかを冷静に考えてみるべき

―本来は、太陽エネルギーだけでも暮らすことができるのに、現在では、それ以上のエネルギーが必要な社会になっているわけですね。

要するに、現在の高度工業社会は、せっせせっせとエネルギーを使いながら、ものすごい勢いで地上を汚して、今度はきれいにするために膨大なエネルギーを使っている。その結果、環境破壊が起きているということです。

はっきり言って、物でやったことを物で解決しようとしても無駄なエネルギーが要るだけです。汚さなければきれい。放っておけばいいんです。

私は決して江戸時代の生活が今の時代よりも快適だと言っているわけではありません。もし、このまま快適な生活が持続できるなら、江戸時代のことなど考える必要はないのかもしれません。しかし、化石燃料は永遠にエネルギーとして使えるわけではありません。エネルギーが断たれてしまえば、この快適な生活を享受しつづけることは不可能です。だから、今、太陽エネルギーだけで社会を維持していた江戸時代のことを考えてみることが、私たちの生き方や社会の在り方に、大きなヒントを与えてくれると思っています。

―最近でこそ、江戸時代の文化が見直されたり、さまざまな本が書店で並んだりするようになりましたが、西洋文化崇拝が盛んになった明治以後、便利さを求めて化石燃料のエネルギーを大量に使う生活こそが「豊かさの実現」であると考えられてきましたね。

確かに、歩いて買い物に行くよりも車で行くほうが楽に決まっていますし、洗濯も掃除も料理も、楽で効率よくできた方がいいに決まっています。しかし、「楽になること」と「人間にとってよい環境」は必ずしもイコールではないのです。たとえば、昭和40年発行の「家庭医学大辞典」には、60歳以上の高齢者に見られる動脈硬化や高血圧を「老人病」として解説されています。ところが10年後の昭和50年代には、同じ症状が40代以上の中高年に現れるようになり、「成人病」と呼ばれるようになりました。昭和60年代になると、これが10代の子どもにも見られるようになって「小児成人病」というのができます。さらに平成8年になるとついに「年齢不問」となって、皆さんご承知の「生活習慣病」となりました。生活習慣病には動脈硬化や糖尿病、高血圧、肥満などいろいろありますが、大雑把に言うと、5歳児で5%、10歳児で10%、15歳児で15%くらいにその症状が出てきています。この何十年かの間、我々は「豊かな社会になった」「医学が進歩した」とどれだけ聞かされてきたのか分かりません。それなのに、この状態はおかしいと思いませんか?

―人間を取り巻く環境を豊かにしてきたつもりが、結果として人間自身に負担がかかってしまったわけですね。

写真:石川さんの自宅の庭
都心にありながら木々と緑に覆われる石川さんの自宅の庭。キツツキやメジロなど、数多くの鳥たちが集う。

そうです。では、なぜ子どもが生活習慣病になるか。この大きな原因は「高脂肪、高カロリーな食事」「運動不足」「不規則な生活」の3つです。そしてこの背後にも、やはりエネルギーの問題があります。

戦後の民主主義が目指した生活は、「上質な食事の摂取」「労働からの解放」「自由な生活」でした。これを現実におきかえてみると、「上質な食事」は「高脂肪、高カロリーな食事」、「労働からの解放」は「運動不足」、「自由な生活」は「不規則な生活」と、現代人が改善すべき項目として挙げられていることばかりです。なるべく身体を動かさず、好きなときに好きなものを好きなだけ食べていたら、子どものうちから生活習慣病にかかるような社会になってしまったというわけです。そして、こうした生活を解決する方法としても、またエネルギーを消費する手段が前提となることが多いですよね。

しかし、考えてみるとこれは当然の結果で、人間なんて本来、もっと原始的な生活に適応しているんです。最新の説では人類の先祖とチンパンジーの先祖がわかれたのは、700 万年くらい前だと言われています。その後多くの人類が生まれては消え、ホモ・サピエンスという我々の直接の先祖に進化したのは20万年くらい前で、それから私たちはほとんど変化していません。今のようなアジア型になってからでも4万年。4万年前の設計図でできている人間を、こんな無茶な使い方したら、そりゃ病気になりますよ。

―確かに電気モーターやガソリンエンジンのような人工的な動力がどこにでもあるようになってきてから、まだ数十年しかたっていませんからね。

だから、今が普通で、江戸時代以前が特別だと思うのがおかしいんです。 たとえば今の高層マンション暮らしでは、入り口は自動ドア、階段ではなくエレベーターを使うのがあたり前ですが、自分の家に入るだけでもエネルギーを消費しなければいけません。これを不自然なことだと感じないことが不自然です。

車だって、私の体重は68キロですが、私の運転する自動車は1.1トンあります。つまり、68キロを運ぶのにわざわざ重量1.1トンの乗り物を使っているわけです。16倍ですよ(笑)。

私は、今使っているエネルギーの80%までは無駄だと思っています。私たちは本来、わずかなエネルギーで生きられるようにできているのです。エネルギーの節約というとみんな被害者みたいな顔をしますが、「辛い」とか「楽」とかいう主観的な見方をやめて、もっと客観的に見てみると、現代人の生活がいかに不自然で身体にとって過酷なのかということがよくわかります。それと、もう一つ。最近では地球温暖化が話題になり、ようやく自然エネルギー利用にも目を向けられているようですが、仮に、火力発電で行っている発電を、全部太陽光や風力などの自然エネルギーで賄えるようになったとしますよね。それによって、石油や石炭の消費は減るでしょうが、以前と同じだけのエネルギーを使っていたとしたら、私たちの生活の何かが変わるでしょうか?

生活習慣病が減り、子どもが健康に育つ暮らしに変わるでしょうか?「自然エネルギーでつくった電気だから安心してたくさん使えるようになってよかった」では、何の解決にもならないことも、きちんと自覚すべきです。

エネルギーを使って強引に自然をコントロールする文明から、自然と調和していく文明へ

―技術の進歩による変化だけではなく、一人ひとりの価値観を変えなければ、生活は変わらないということですね。しかし、大量のエネルギー消費に慣れた現代人に、どうすればそういった意識が芽生えるのでしょうか?

写真:畑の野菜
石川さんの日々の食卓に並ぶ畑の野菜。キッチンまでのフードマイレージはゼロ。

私ははっきり、「あんたの身を守れ」と言っています。「地球に優しくしよう」「地球環境を考えて」なんて、まるで神様にでもなったような言い方をする人が多いのですが、地球環境よりも、危険にさらわれているもっとも身近な対象は自分や家族の心と身体です。地球は巨大な石の塊で、人間のような生き物はその地球の極めて薄い表面の部分にへばりついて生きているわけですから、そんな人間が、環境のためとか地球のためとかいう前に、無駄なエネルギーを使う生活が自分や子どもの体を痛めているということに気づくことが第一ですね。

―OMソーラーも、環境のためというよりは、エネルギーをできるだけ使わないで住む人に気持ち良い家をつくろうという考えが原点でした。

それは、非常にいい考えだと思います。OMソーラーについては私も調べたことがありますよ。もう何年も前ですが、近所でOMソーラーの家の工事をしていて、すぐにOMソーラーだとわかったので、建築中も何度も見に行きました(笑)。

私は建築のことは詳しくはありませんが、日本の建築で大事なことは、やはり太陽エネルギーで育ってきた国産材を使うということでしょうね。木材を使って家を建てるということ自体が太陽エネルギーの利用になり、CO2の固定にも繋がります。木造の家を建てて、断熱を良くして、風通しをよくすれば、それだけで結構な省エネになるはずです。調湿作用もありますし、木に包まれているようで居心地もいい。

それと、木造建築には大工さんという家に関する万能な技術者がいるわけで、そういう人たちがきちんとメンテナンスをしてくれるというのも、建てる側としては重要なことです。OM ソーラーは太陽を使っていてエネルギーの消費が少ないですし、木造建築を中心に、そうした家づくりを工務店が組織的にされていますよね。家のあり方は、家族の暮らし方や意識にも大きな影響を与えますので、皆さんの取り組みは非常に価値があることだと思います。今後、エネルギーを使って強引に自然をコントロールする文明から、自然と調和していく文明にシフトしていくことが大切だと思います。これからのみなさんの活動に期待しています。

―ありがとうございます。あたり前のように便利、快適と思っていることの中にも、無駄や無理がたくさんあることに気づくことができました。本日は、貴重なお話をありがとうございました。

石川英輔(いしかわ・えいすけ)

1933年(昭和8年)京都府生まれ。国際基督教大学、東京都立大学理学部中退。1961年、ミカ製版株式会社を創業。社長を務めながら、『SF西遊記』で作家としてデビュー。『大江戸神仙伝』シリーズなど独自の作風で執筆活動を続ける。江戸学、特に江戸時代の資源、エネルギー問題の研究者としても知られ、『大江戸えねるぎー事情』、『大江戸テクノロジー事情』、『大江戸リサイクル事情』、『江戸時代はエコ時代』など多数の著書がある。

石川英輔(いしかわ・えいすけ)
石川英輔さんの近著

石川英輔さんの近著

『大江戸妖美伝』
2009年3月に発売された「神仙伝シリーズ」第7弾。
著者:石川英輔
発行:講談社
定価(税込):660円

江戸時代はエコ時代

『江戸時代はエコ時代』
「究極のエコ社会」江戸を読み解く文庫オリジナル。
著者:石川英輔
発行:講談社
定価(税込):520円