第12回:澤地孝男さん

連載「この人に聞きたい」第12回目は、独立行政法人・建築研究所の環境研究グループ長として建築と環境について研究を行っている澤地孝男さんにお話を伺いました。

建築研究所は、建築・都市・住宅に関するわが国唯一の国立試験研究機関であり、建築や住宅に関する法規・法令等を策定する上で、その裏付けとなる調査、試験等を行っています。研究成果は、住宅・建築に関する今後の政策にも大きな影響を与えることとなり、特に、近年社会的なニーズが高まっている省エネ、省CO2に関する研究は急務のテーマとなっています。

澤地さんはこれらのテーマの中心的役割を果たされており、単に設備による対策に留まらない建築と一体となった設計手法を提案した「自立循環型住宅」の開発者でもあります。建築に関する環境研究の第一人者である澤地さんに、自立循環型住宅の開発経緯やOMソーラーについてお話を伺いました。(文/2009年3月現在)

OMソーラーの家は、夏涼しい家の可能性を秘めている。

「高断熱」と「省エネ」は別の話

―自立循環型住宅については、OMソーラーに取り組む工務店も大変興味を持っており、皆さん熱心に勉強されています。自立循環型住宅の設計ガイドラインは、建築研究所の先生方が中心になってまとめられましたが、まずは開発の経緯から伺いたいと思います。

澤地孝男さん

住宅の省エネ基準(断熱基準)について関わってきましたが、断熱というのは暖房負荷や冷房負荷の抑制という点で意味がありますが、単に断熱性能だけを高めても省エネに結び付くかどうかは別の話だと感じていました。それから、これは多くの皆さんの願いでもありますが、私自身も日本の住宅の質を高めたい、良質な住宅がたくさん建つようになって欲しいと考えていました。温暖化の問題が起こる前から省エネには興味がありましたし、人類がこれまでのようにエネルギーを使い続けていたら、いつかしっぺ返しがくるのではないかと直感的に思っていました。かといって断熱基準だけでは痒いところに全く手が届いていないし、設備についても本当の省エネ効果をどう把握したらよいかわかっていませんでした。

そんな中で、解決への糸口として実態調査を行いました。私が建研に入った頃のことです。温熱環境やエネルギー消費量、居住者の環境に対する働き掛け(着衣の調節や昼寝、窓の開閉等)など、10年ほどいろんな調査をしてきましたが、結果的には実態調査だけでは何がどのくらいの省エネに繋がるのか見当がつきませんでした。ですから当時は省エネ住宅を建てたいと思ってもそういう情報がなかったわけです。そこへたまたま国交省から「自立循環型住宅」という名前のプロジェクトが出てきて、研究は私に任されることになりました。それが平成13年のことでした。

実験棟内部 実験棟内部。部屋の中には様々な計測器が設置され、人が実際に生活してる様子を再現する。ドアや窓の開閉はもちろん、風呂のふたやテレビのスイッチもアルゴリズムによって制御される。この実験設備そのものが「生活ロボット」。

当時は身近な研究では研究費が貰えませんでしたから名前通りの長期的なテーマで研究費をいただいたわけですが、いざ始めようという段になって京都議定書の約定に間に合わせたいということになって、長期的なテーマから即効性のあるテーマに切り替えることになりました。前述の通り、何をしたらどのくらい省エネに繋がるのか見当がつかない情けない状態でしたから、私にとって大変いい機会が与えられたわけです。そして、本格的な研究に入っていくわけですが、実際の住宅を調査しても、「どう住んでいるのか」までわからなければ意味がないことがわかっていましたから、「住まいの状況」も「そこでどう住んでいるのか」も機械的に模擬することにしました。それが実験棟内部の設備です。人間の姿はしていませんが、人間の代わりに人間の生活を代替してくれているわけですから、私はこの設備を「生活ロボット」と呼んでいます。調理やお風呂、出入り、窓の開け閉め、人間そのものの潜熱や顕熱など、人間の生活を温熱的、エネルギー的に再現することで、ようやくいろいろなことがわかってきました。

建研外観 茨城県つくば市にある独立行政法人・建築研究所。

―「何もわからない」ところからスタートされたわけですね。確か、自立循環型住宅の目標は「2000年頃の住宅に比べて2010年までにエネルギー消費を半分にする」ということでしたよね。

その目標は後から設定し直したものですね。最初は言葉通り「完全自立循環」を目指していましたから。でも、正直身近なことがわかっていないのに何十年先のことを考えても仕方ないという思いもありましたから、丁度私に任されることになって、身近な確実なテーマに全部置き換えました。

完全にストレスのない空間を目指すのではない

―OMソーラーに取り組む工務店が興味を持つのも、自分たちがやってきたことの延長にあるテーマだという認識があるからだと思います。手っ取り早く何か設備を付ければ解決するということではなくて、建築や設計の中で解決を目指すから勉強する価値があると。

そう感じていただいているのであれば、それが私たちの望んでいたことです。「完全にストレスのない空間を目指すのではない」ということをガイドラインの始めのほうにハッキリと書いてありますが、その考え方はOMソーラーの考え方とも通じていると思います。多少寒くても、多少暑くても、そういう刺激は人間にとってプラスなのではないかということです。もちろん、刺激がないほうがいいという人もいるでしょうから、そういう人にはストレスのない住宅を供給することも大事です。そのあたりは実態調査の中でわかってきたことですが、どう考えてもサーモスタットに任せて住んでいるわけではありません。実際には人は周囲の環境と応答しながら生活しています。是非、そういう価値観を反映させたいと思っています。

―ストレスがある生活とない生活の健康などへの影響について検証されているんですか。

検証とはいえませんが研究はしてきたつもりです。PMV(温熱環境評価指数)などの指標で不足している部分などは学生の頃から個人的に取り組んできました。あのような指標はあくまで人を拘束(着衣など)して、人工気候室の中に入れて得られた指標であって、実際には人は拘束されていません。特に住宅ではそうです。暑ければ昼寝して代謝量を落としたり、冷たいものを飲むとか、熱バランスを取ろうとします。夏と冬では買い物をする時間が違ったりします。

私の解釈では、人は環境に対応するのにいくつかの方法を持っていて、そのうちの一つがいわゆる「空調」であり、あとは、窓を開けたり庇を下ろすなど「自分が動いて対応する方法」、この2つに加えて、暑いときに昼寝するとか、外に出ないとか、寒いときは寝室に入ってすぐに寝てしまうなどの「行動的対応」、汗をかいたり震えたりする「生理的対応」、気持ちの入れ替えなどの「心理的対応」です。これら5つの対応のうち、人工気候室の中から最適温度を得ようというのは、最初の「空調」でしかないのです。要するに、レストランの中に入って、自分ではどうすることもできない、文句を言うしかないときに、文句が出ないような温度とは何かというときの指標がPMVなどの研究なんです。ですから、住宅の環境計画の考え方とは根本的に違うのです。ただ、5つの対応のどれを使うかは個人差ですから、「空調」で得たいという人にはそのような家を提供してあげる必要があると。でも、実際には(特に温暖地では)残りの4つを使いたいという人が多いのだから、夏に室温30℃で暮らしている人や冬に15℃で生活している人がいてもいいのです。

―残りの4つにPMVのような指標はないんですか。

ないですね。あくまで現象の解釈です。でも、その解釈を明確に意識すると住宅の設計そのものが大きく変わってきます。残りの4つに指標はないけれど、実態調査として数量的に確認されていることです。

―澤地さんのような研究者が残りの4つを重視されるというのがとても新鮮な印象です。

従来の環境工学は残りの4つは無視していましたが、建築計画の人たちは意識のレベルはあっても全部を相手にしているはずです。私がしてきた研究と自立循環型住宅は一直線に繋がっています。ただ、実態調査から解釈や理論はつくれても、それとモノ(設備)とを結び付けるのが大変で、自立に至るまでは、断熱や気密、設備などの勉強をして、実験をしながらわかってきましたね。

4つの付加価値をどう評価するか

―一方で、法律ということになると残りの4つがかなり減らされてしまうのが現実です。

その通りです。数値で評価できるものしか入っていませんね。ただ、平成11年の暖冷房負荷基準では24時間暖冷房が前提でしたが、エネルギー消費量の計算では一般的な暖冷房の形態が前提になりました。あとは、まだ小さいですが「通風」が入りました。

実験棟外観
集合住宅の実験棟。各部屋では様々な実験・計測が行われている。

―私も驚きました。

エアコンの性能を厳しくチェックするように、通風の性能もチェックする。まだ、風圧などわからない部分があるので、かなり安全側に見ていますが。

―外国では「通風」は評価されているんですか。

エネルギー計算までしているかわかりませんが、オーストラリアやハワイなどではあるようです。

―自立循環で得られた知見が今後法律へも反映されていくと考えてよろしいでしょうか。

はい。IBEC(建築・環境省エネルギー機構)の中にも委員会を設けていくことになっています。OMソーラーも含めて順次評価していくことになるでしょう。

奥村先生たちがまとめられた『パッシブソーラーハウスの設計』という本がありますがご存知ですか。当時、建築研究所も編集に関わっていたようなので、もしかしたら意識されていたのかと思いまして。

もちろん。私も持っていると思いますよ。ただ、このような本は事例集とかマニュアル的なところがあって、自立循環とは性格が異なりますよね。自立は単純でドライで割り切っています。ギガジュールの世界ですから。その点、この手の本は面白いし内容が豊かです。

―読み手のレベルによって捉え方が違うのかもしれません。ある程度マスターしている工務店は面白いと感じるかもしれませんが、全然できていないところはハッキリとした指針があったほうが助かります。

私たちは建築家でも設計士でもないですから、あくまで私たちが確実に伝えられることしか書いていません。自立でいう設計ガイドラインの「設計」というのは極めて単純なことだけです。でも実際の設計では、もっと豊かでいろいろなことが入ってきます。役割分担だと思いますね。面白くて豊かな部分は設計者に任せます。

―そこの部分は各自で勉強して欲しいということですね。

そうです。自立は省エネルギー設計のほんの一部分ですから。

―勉強していく上でですが、今後「自然エネルギー」を利用した建物というのはどう評価されていくのでしょう。

今まであまりにも断熱重視できましたので、自然エネルギー利用をきちんと入れることは大切だと思います。ただ、設備の性能向上と自然エネルギー利用はライバルであって、トレードオフの関係にあります。私たちとしてはどちらの肩も持たないということです。通風が大好きですが、通風も甘くは扱いません。一方、エネルギー以外の付加価値(残りの4つ)をどう評価するかということも大きな課題だと考えています。

世界で一番普及しているソーラーハウス

―省エネ法の改正で、商品化された住宅などは高効率設備をたくさん付けるなどやり易くなると思うのですが、建築的な工夫で省エネを考えている工務店などは厳しくなり、そういう考え方そのものが希薄になってしまう危惧があります。建築的な工夫がPMVに代わる指標の中で評価されるようになれば、家づくりがとても楽しいものになると思いますし、お客さんに合った家づくりの提案がしやすくなると思います。

私は指標で新しいものを開発するというよりも、定量的に捉えられない環境の質を経験的に捉えて、それをよくするためにはどういう設計をすればよいか、指標を設計の方法に置き換えていけばよいと思います。そうしておけば経験的にその中で実現される環境は大体いい線いっているだろうということになると思うのです。設計でもって誘導していく。例えばエアコンが要らない設計だとか、夜良く眠れる設計とか、冬に日向ぼっこの暖かさが得られる設計ということです。暖かいほうは断熱や日射利用でかなりいけると思いますが、問題は涼しさのほうですね。暑さ対策の指針が不足しています。窓からの日射を防ぐとか、小屋裏換気だとか、反射塗料の類です。断熱材では熱が出て行かなくなりますから。最近わかったことですが、同じμ値(夏期日射取得係数)でも断熱と断熱以外の方法では遮熱効果が全然違うようです。そうすると、断熱性能をむやみに高めないで、日射遮熱性能を高めて夏涼しい家にする。沖縄のガイドラインを作ったものですから、それを東京などの温暖地でも講習会をして、皆さんの意見を聞いてみたいですね。北海道の家が南下したように、沖縄の家が北上してきても面白いと思います。

―OMはある程度冬の環境がつくれているので、夏の環境をどうつくるかが課題ですね。

「閉めることができる開放的な家」という概念は誰もが納得するところだと思うのですが、「涼しい家」ということはあまりやられていないように感じます。その部分はOMが得意としているところではないですか。開口を大きく取るし、簾なんかも上手に利用されているし。でも逆にOMの場合は冬に窓から日射を取得する必要がないから窓を徹底的に小さくできますよね。ある程度熱を取り入れるわけだから断熱もそこそこでいい。断熱が少なければ熱は外に出て行き易くなりますから夏暑くなりにくくなります。

―全く逆の発想ですね。それから、今OMの家で実測を行っていて、ほぼ室温は17℃以上を保っていますが、寒い朝などは15℃くらいまで下がることがあります。ある人は15℃では寒いのではと仰るのですが、住まい手の方はご夫婦共とても満足されていて、我慢しているわけではないと仰っています。澤地さんの目から見て、この温熱環境をどのように思われますか。

暖房なしでこの温度を保っているのは素晴らしいのではないですか。暖房なしで住んでいても不思議じゃない温度だと思いますよ。次世代省エネの家だって暖房しなければ平気で10℃下回りますから。しかも床暖房による輻射暖房は、エアコンのような対流式の暖房と比べて約10%省エネになるという評価もあります。そういったことも含めて住まい手アンケートなどで、満足されていることを調べてみたらいいと思いますよ。私たちも加わって客観的な調査にしたらいいと思います。

―ありがとうございます。では、最後にOMの印象と今後に期待することなどがあれば仰っていただければと思います。

私は昔からOMソーラーは世界で一番普及しているソーラーハウスだと思っています。どこにもないと思います。だからこそ、どんどん先に行って欲しいと思います。現状に満足するのではなく、例えば、なかなか表現しにくい環境の質を明らかにしていくとか、設計法もより最適化していくなど、現状では他に追いつかれる可能性があるので、勉強してどんどん先に行って欲しいですね。

―断熱や設備ではなく、設計をより磨いていくということですね。

そうですね。そして、上から「こうやれ」ということではなくて草の根的じゃないですか。そういうのが好きなんです。伝統的に設計方法に関しては継承されているし、パンフレットなどの媒体もとてもきれいに作られています。私たちも精進しますから、OMソーラーもOMの工務店さんも頑張ってください。

―本日はどうもありがとうございました。

澤地孝男(さわち・たかお)

工学博士。独立行政法人建築研究所環境研究グループ長。自立循環型住宅の開発者。

澤地孝男(さわち・たかお)