第10回:奥村昭雄さん

OMソーラーは、設備や技術開発の延長ではなく、ひとりの建築家によって生み出されたシステムです。科学する建築家・奥村昭雄。
「建築物を環境との応答という関係から考える」という奥村さんは、自然の循環の中で生き続けるさまざまな植物や生物への尽きない興味、発見、驚き、畏敬の念を膨らませ続け、それぞれに宿る固有のシステムに美しいデザイン性を見るとともに、「熱と空気をデザインする」ことを建築的工夫と太陽熱活用の可能性とともに模索しました。
奥村さんがOMソーラーを誕生させ、はや20年以上。その間も、彼の好奇心、チャレンジ、情熱はひとときも絶えることがありません。
記念すべき、「この人に聞きたい」の第10回目は、OMソーラーの考案者である奥村昭雄さんと奥様のまことさんです。OMソーラーの原点に立ち返り、改めてお二人にOMソーラーの良さや、それをどのように伝えていったらいいかなどについて伺いました。(文/2008年11月現在)

「換気」と「輻射」こそ、OMを語るキーワード。

換気しながら熱も取り込む

奥村昭雄さん

―さっそくですが、現在、国の施策としても、性能表示や200年(超長期優良)住宅など、OMがスタートした頃と比べ、住宅の環境性能や省エネ性能が求められるようになりました。それらの動きについてはどのようにお考えですか。

基本的にはその内容は「断熱」が中心ですよね。断熱性能を高めることは、同時に気密性能も高まることを意味していて、そこには危険も潜んでいます。高気密化は家の中の空気質を悪化させる一番大きな要素になりますから。住宅にとって換気はとても重要です。「換気」と「気密」は相反する要素ですが、一方的に気密を高めるということでは人が住むところにはなりません。

先日もある人がOMの家でハンドリングボックスの外気取り入れ側にフィルターを付けたいと言っていました。それは「外気が悪い」という認識のもとに言っているわけですが、もちろん、交通量の多い道路沿いだとか工業地帯だとか、外の空気が汚い場所もあるでしょうが、普通は汚いとはいえそれほどではなくて、室内の空気のほうがよほど汚れているわけです。だから、フィルターを付けるとしたら、リターン側(室内側)に付けるのが正しい認識なんです。

―そうですね。換気も気密も重要ですが、なかなか「換気」に関心がいかないようです。

家を高気密にしておきながら換気扇はつけっ放しにするなんて、何をしてるんだかわかりません。そこで、換気しながら熱も取り入れるOMの良さが出てくるわけです。

―実際にOMの家に住んでいる人や、OMのしくみをよく理解されている方は、「換気」の重要性やOMの良さをよくお分かりになっているんですが、一般的にはどうしても「暖房」や「冷房」といった機能に目が向いてしまいます。一方で、病院にOMを導入した例では、病院特有の消毒や薬品などの臭いがしないとか、院内感染に効果的だとか、OMによる換気の効果を実感されているようです。しかし、一般の人には「換気」にそれほどのメリットがあると認識してもらいにくいのが現状です。

換気しながら太陽の熱も取り込む。これがOMソーラー独特の機能です。一般的には、換気を促進するとせっかく暖房した空気も外へ逃がしてしまうことになります。言い方を換えれば、暖房のために消費したエネルギーを換気のために捨てていることになるわけです。しかし、逆に暖房を効かせたいために換気をしないでいると、室内の空気質が悪化してしまいます。OMはそのどちらも犠牲にしないのが大きな特長です。環境性能や省エネ性能の高さを競って断熱材を厚くしても、性能をアピールしているところほど「空気質」には疎くて、「換気」については基準法の範囲でしか考えられていなかったりします。空気の通り道をきちんと考えるなど、「換気」の性能こそ住みやすさに繋がる重要なポイントなんです。

―しかし一般的な換気は、換気扇を回すことでエネルギーを使ったり、熱的なエネルギーもロスするわけですから、わざわざ換気をアピールしているところは見かけないですよね。

それがOMの場合は、100Wのファン一つあれば家中換気できて、しかも一緒に熱も取り込むわけだからね。そもそも、外の空気が汚いなら、外をきれいにしなきゃいけません。結局、自分の家の空気質が悪いとは誰も思っていないんですよね。「うちの息子に限って!」と同じことです。

「常に」ではなく「できる限り」が大事

写真:奥村昭雄さん、まことさんご夫妻奥村昭雄さん、まことさんのお二人。

―一般の方の認識としても、花粉や排ガスなどを家の中に入れたくないという思いはあると思います。でも、よく考えれば放っておいたら家の中の空気は汚れる一方ですからね。また、「OMは外気と一緒に花粉も取り込むのでは」という質問をよく受けますが、実験の結果としても床下に到達する花粉の数は少なく、それよりも窓の開け閉めや洗濯物への付着、人の出入りにより入り込む花粉の量のほうがはるかに多いことがわかりました。

「断熱・気密」よりも「換気」ですよ。

―OMは「換気ができる暖房」というよりも「暖房できる換気」と言ったほうがいいですね。

そう。だから私はいつも「OMは暖房じゃなくて換気のしくみです」って言ってきたんだよね。「しかも暖房もできちゃうんだからすごいでしょ」っていう風に。そこがOMのいいところですよ。熱を貯める効率としたら水のほうがいいけれど、換気を考えたから空気を熱の運搬に使ったわけです。短い時間で考えると水が熱を運ぶ能力は高いけど、長い時間でみれば空気も十分に使えるんです。

家には、新鮮な空気が常に一定に取り込まれていなければいけません。それは、暖房していようが冷房していようが変わらないことです。だから、家の中に取り込まれる新鮮空気そのものに、「暖かさ」や「涼しさ」が一緒に含まれているというのは大変都合の良いことなんです。ところが現実には、「新鮮空気」と「暖かさ・涼しさ」は別々に考えられています。新鮮空気を取り入れて、かつ、暖めたり涼しくしたりを別途行っているというのは、よくよく考えてみると、とっても無駄なことをしているわけです。

―家をつくるほうも、そのことに気付かないでいる。というより、疑問に思わないで当たり前のこととして見過ごされている気がします。

とにかく「寒くないようにしなきゃ」とか「暖房しなきゃ」という意識が働いてしまい、「暖房、暖房」と思っていると、「換気」を忘れてしまうわけです。「両方いるんだよ」と思わなくてはいけなくて、かつ、それが一緒にやれる方法がいいわけです。太陽熱を取り込んで暖房も換気もできている。こういう方法があれば一番簡単なんだよね。お金が掛からないし、太陽からは請求書もこない。

―建築と設備とを切り離して考えているようなところがあります。それを一体となって考える、一体として計画しないと合理的ではないということですよね。

そう。そして大事なのは、常に両方を同時的にやれるということではなくて、両方できるときもあれば、できにくいときもある。いろいろと条件が変わってきたときに上手く切り替えてやる、そして、「できる限りやる」というのがOMの考え方です。

―全部をカバーしようとするのではないということですね。

完全にはいかないけれど、可能なときには可能な方法に頼ればいいという考え方です。そういう考え方でやっていけば、日本という環境においては、太陽熱でかなりの範囲を賄うことが可能だと思います。法的にも日本においては屋根には陽が当たるようになっています。基本的に太陽エネルギー利用には向いている国だといえるんです。

「輻射暖房」の気持ちよさ

―でも、現実には「太陽エネルギーを見直そう!」となっても、ほとんどの方は太陽電池をイメージされます。国のほうでも補助金の話が出ていますし。太陽熱にももっと関心を持ってもらえるようにがんばりたいと思っています。

もし、OMに補助金を出すとしたら、OMとしての条件を満足して(取得したエネルギー量がわかって)いればよくて、効果について問われなくていいはずなんです。どうせOMで暖房や給湯を全て賄えるという話ではないし、雨の日には使えないわけです。でも、現実には雨の日のほうが少ないし、太陽が顔を出しているときのほうが多いわけですから、それでいいんです。全部を満たすことが大事ではなくて、「使えるものは使おうよ」ということが大事なんです。

補助金を出すのに効果や効率を問うのはおかしな話だと思いますけどね。「OMを入れている」ということが大事なんです。そもそも補助金というのは、国がそれを推進するのかどうかという「国の意思」であって、推進する気があるなら出すし、その気がないなら出さない、そういう性質のものだよね。

―補助金は出るに越したことはありませんが、その一方でOMソーラーが世の中に知られていないことが問題だと思っています。「知っていればOMにしたのに」という声をたくさん聞きます。どうにかして世の中に知らせたいのですが…。まずはOM以前に「太陽熱を使う」という認識が広まって、その中の一つの技術としてOMソーラーに目が向けばいい。その辺りが現実的なところだと思っています。家を建てるときに「太陽を使う」ということが当たり前になればいいと思っています。

写真:「OMの良さは換気と輻射にある」と力強く語るご夫妻お二人は、「OMの良さは換気と輻射にある」と力強く語られた。

電気や暖房機器を使えば「確実にその温度が得られる」ということがあります。でも、太陽は顔を出したり出さなかったり気まぐれです。「今日は寒いなぁ」というときでも顔を出してくれるとは限らないわけです。でも、使ったからといって太陽から請求書は送られてきません。そこが大きな違いです。「太陽を使う」という市場を大きくしなくてはいけなくて、皆の努力で市場が増えて、そのときにOMはその元祖だと言えばいいわけだから。でも一方で、「太陽を使う」ということだけではOMの良さを言い表しているわけではないから、OMが選択されるには、やっぱりOMによって得られるメリットをきちんと伝えないといけません。その一つ目はさっきも言ったように「換気」で、二つ目は「輻射(暖房)」ということです。日本人には、感覚的に輻射暖房の理解がないと思います。床が温かければ室温が低くても寒くないんです。普通、室温は23~25℃くらいないと寒いと思ってしまいますが、例えば床が25~30℃もあれば、室温は15℃でも寒くないんです。靴を脱がないアメリカでも、床暖房は「部屋を温める方法」として広く浸透しています。

―輻射は説明しにくいですよね。床暖房とは言ってきましたが…。

でも、OMが狙っているのは輻射だから、「輻射」って言ってほしいんだよね。床を温めることによって天井の表面温度も上がってきます。壁もそうです。そうすると、身体から奪われていく熱量も少なくなります。もちろん、全く熱が奪われない(空気の温度が体温より高い)のでは具合が悪くなります。ほどほどに熱が奪われている状態が心地良く感じるということです。

湿度もシミュレーションする

―その状態をつくるのに「輻射」は都合がいいわけですね。

そして、単に床を温めるということだけではなくて、他の仕上げ材にも蓄熱材を使うということも「輻射」を期待する上では重要なポイントになります。木もそうですが土壁のほうがもっと有効です。もちろん、塗厚も重要ですから、薄く使っているだけでは蓄熱の効果も薄くなります。もっとも、下地材も合わせればそれなりに効果はあるでしょうが。蓄熱材がなんで重要かというと、蓄熱材が「輻射」をくれるからです。「換気」と「輻射」がキーワードだと思うけどね。その2つの効果を同時に満たしている暖房方法はおそらく他にはないでしょう。

―しかも、太陽の熱で「輻射」というのが大きいですよね。

それから、体感に影響があることとしては、「湿度」の問題も無視できません。OMに限りませんが、空気を温めると相対湿度はどうしたって下がります。よく乾燥対策としてお風呂の蓋を開けておくという話をしますが、単純に開けておけばいいということでもなくて、空気が家中に行き渡る計画になっているか、あるいは風呂の位置がどこなのか、ということも重要になります。一度、お風呂の目の前に階段をもってきたプランがあったけど、たいてい階段は空気の上り口になるので、うまく家中の湿度が保てました。もう一つ階段とは離れたところに空気の降りるところ、たいていは「吹き抜け」ということになりますが、それをつくってあげると空気が上手く回ってくれます。本当は、温度だけじゃなくて、湿度のこともシミュレーションできるといいんだけどね。

―実は、今開発を進めているシミュレーションでは、湿度も要素として加えようとしています。また、これまでのシミュレーションは、あくまでOM独自のものでしたが、開発中のものは公的に認められたシミュレーションとして検討しています。

写真:インタビュー時ご馳走になったまことさんお手製の昼食インタビュー当日、まことさんお手製の昼食もご馳走になった。とっても美味しかった。

「湿度」は、OMでは未踏の領域だったから大きな一歩だね。「湿度」を把握することはとても大きな意味があります。がんばってください。

―ありがとうございます。「熱と空気のデザイン」をさらに進化できればと思います。今日はあらためてOMを語る上で重要なキーワードをいただきました。本当にありがとうございました。

奥村昭雄(おくむら・あきお)

建築家。1928年東京生まれ。1952年東京美術学校建築科卒業。同研究員として東京藝術大学改築計画を担当。1956年吉村順三設計事務所に勤務。1964年東京藝術大学美術学部建築科助教授。1973年同教授。1978年木曾三岳木工所設立。1987年東京藝術大学名誉教授。1988年(有)木曾三岳奥村設計所代表。OM研究所所長。主な建築作品に星野山荘(1973)、愛知県立芸術大学(吉村順三設計事務所と共同、1974、1992)、新田体育館(1983)、阿品土谷病院(野沢正光と共同、1987)、金山中学校(益子義弘と共同、1992)、関西学研都市展示館(永田昌民と共同、1994)他。主な著書に『パッシブデザインとOMソーラー』(建築資料研究社)、『暖炉づくりハンドブック』(同)、『奥村昭雄のディテール空気・熱の動きをデザインする』(彰国社)、『時が刻むかたち』(OM出版)、『樹から生まれる家具』(同)他。

奥村昭雄(おくむら・あきお)