第1回:山本良一さん

東京大学生産技術研究所教授であり、地球温暖化問題の第一人者としても知られている山本良一先生。日本テレビ『世界一受けたい授業』に出演されるなど、難しい環境問題を分かり易く解説し、精力的に活動されている山本先生に、地球温暖化の現状と未来について伺いました。(文/2008年2月現在)

エコハウスを建てることが地球市民としての義務

「温暖化地獄にまっしぐら」という認識が必要

山本良一さん

現在、地球温暖化は科学者の予測をはるかに上回る速度で進行しています。まずそのことを認識することが大変重要です。「何となく…」ではダメです。明確に温暖化地獄の一丁目から二丁目に向かっているということを認識する必要があります。

具体的な状況としては、北極海に浮かぶ海氷が急激に融けはじめており、今年の夏にも完全消滅する恐れがあります。もうそこまできているのです。

公式的な見解としてIPCC(気候変動に関する政府間パネル)では過去に夏期の海氷の完全消滅は2080~2100年頃に起こるであろうと予測していました。ところが、昨年には科学者は2030~2040年頃と予測を早めたのです。予測が50年早まったのです。

そしてさらに、9月にはNASA(米国立航空宇宙局)が北極海氷の面積が413万km2まで減少していることを発表し、世界の科学者を驚かせました。北極海氷は20世紀後半には640万km2、2005年に532万km2ありましたから、この2年で実に日本列島3つ分の氷が消滅したことになります。これは「非常事態」であるということが分かったことからアル・ゴアもIPCCもノーベル平和賞をもらえたわけです。

今年の夏が温暖化地獄の一丁目

第1回:山本良一さん

また、昨年12月、NASA(マスロフスキー研究グループ)の報告として、北極海氷の減少は面積だけでなく厚さも考慮すべきとしてさらに精密なシミュレーションを行った結果、あと5年で消滅するという報告をBBC(英国営放送)が放送しました。しかし、この分析には2005年から2007年の急激な減少分については含まれていないことから、今年の夏にも完全消滅する可能性があると言われているのです。今年に入ってからも、南極大陸の氷も年間1960億トン失われているなどの論文が発表されており、容易ならざる状況であることが分かってきています。

そして、北極海氷が消滅すると何が起こるかというと、グリーンランドの氷が融けたり、シベリアのツンドラが融けてメタンガスが大気中に噴出したりして、さらに温暖化が加速していくこと(グリーンランド氷床の全面的融解の開始があと10年以内に起こると言われています)、そしてもっと深刻なことは、日本を含む中緯度地域の気候が大きく変化し、大干ばつや大洪水などの直接的な被害が頻発する恐れがあるということです。ロッキー山脈から西側のアメリカ西部は大干ばつになると予測されています。

あと20年で温暖化の暴走が始まる

温暖化地獄の一丁目が北極海氷の夏期の消滅、二丁目がグリーンランド氷床の全面的融解の開始とすると、すでに北極海氷の消滅は避けられないだろうと予想されていますから、我々は温暖化地獄の一丁目から二丁目に向かっているという認識です。そして、このまま愚かなことをやっていると、2050年までに地獄の五丁目まで行くと考えています。つまり、地球の平均気温が3℃ほど上がってしまう状況です。

地獄の三丁目は北方寒帯林が枯れて死んでしまうこと、四丁目は西南極大陸の氷床の崩壊、そして五丁目はアマゾンの熱帯雨林の砂漠化です。昨年末に米・ウッズホール海洋研究所が2030年までにアマゾンの熱帯雨林の約60%が破壊されてしまうと報告しています。その結果、最大約900億トンの炭酸ガスが大気中に噴出するといわれています。地球の表面温度は早くて2030年頃に産業化前と比較して2℃上昇し、温暖化が更なる温暖化を招くという事態になっていると考えられています。

つまり、あと20年でほぼ「温暖化の暴走」が始まり、20~30代の人たちは、このままでは地獄の五丁目まで味わうのです。

対策は温暖化への宣戦布告しかない

では、そうならないための対応策はあるのか、ということになりますが、答えは「Yes」です。

気温の上昇を2℃以下に抑えるために大気中の温室効果ガスの濃度を450ppmに安定化させる必要がありますが、昨年秋にIEA(国際エネルギー機関)が発表した「World Energy Outlook 2007」には、そのシナリオが詳細に報告されています。そして、それによると2030年までに天文学的な努力を要することになっています。

例えば、バイオマスエネルギー利用は10倍に、太陽光発電は130倍に、風力発電は20倍、原発は235基を新規に建設し、炭酸ガスを貯留するCCSは460基新たに必要とされています。そして、省エネは年率2%ずつの改善が求められています。

現在、全世界でエネルギー効率が年間0.9%改善されているということなので、その倍以上の努力をしなくてはいけません。ここにOMソーラーのような省エネ技術が果たす役割があるのですが、規模が違うわけです。これだけのことをあと20年の間に行うというのは天文学的な努力を要します。もはや、「地球温暖化に宣戦布告」するしかないのです。その位の気合でやらなくてはいけないことです。チームマイナス6%どころじゃなくて、マイナス80%、2050年にはマイナス80%にしなくてはならないのです。

環境技術は「選択肢の一つ」ではなく「義務」

建築業界について言えば、地球破壊型建築を許してはいけないのです。法律でしっかりと縛らなくてはいけません。ヨーロッパでは「エネルギーゼロ住宅」じゃなければ建築を許さないという方向になっています。実際にイギリスでは4、5年以内に法制化されるものと思われます。

日本も、今のような甘い規制ではいけません。建築業界はものすごく反省する必要があると思います。「環境」以前に、「耐震偽装」「建材偽装」など、生命に関わる偽装を平気でやってきたわけですから。徹底的に経済的なインセンティブと法律による規制を行うべきで、それと併せて技術革新、あらゆる環境技術を総動員しなくてはならないでしょう。これまでのように何でも自由というのはあり得ないのです。

CO2の何が問題かというと、IPCCの第四次報告書にあるように、化石燃料起源の炭酸ガスを一旦大気中に放出すると、放出量の約20%は数千年間も大気中に漂うということです。

何を意味するかというと、炭酸ガスを出した人は、数千年間地球に対して責任を負わなくてはいけないのです。100年、200年の問題ではありません。炭酸ガスを垂れ流す、エネルギーをたくさん使う住宅をつくるということは地球的犯罪といえるのです。省エネのランクを付けて、レベルの低い住宅には固定資産税を十倍取るなど、ありとあらゆる政策を動員してリフォームさせなくてはいけません。

要するに社会の意思、国家の意思が問われています。これまでのように、環境に優しいからとか、お金が余ったからやりましょうという次元の話ではないのです。地球市民の義務ということです。主には政策の問題になるかもしれませんが、いずれにしても激しく取り組んで欲しいですね。

日本政府もようやく本気になった

もちろん、エネルギーゼロだからその他を全て犠牲にしていいというものでもありません。これまでは快適さが優先されていましたが、順序が逆になるということです。長寿命でエネルギーゼロでなおかつ快適であるということです。

もちろん、ライフスタイルによってエネルギーを使う量にも違いが出てきます。それらには炭素税の導入などと併せて規制されていく必要があります。世界的には一人2トン(年間のCO2排出量)でいこうというのが今のところの流れです。日本人は平均10トン程度出していますから、8トン減らさなくてはいけません。それ以上出したい人は排出権を買わなくてはなりません。

今世界でCO2だけで年間265億トン出ていて、CO2以外も入れるとCO2換算で年間430億トンも出ています。こんな状態が続けられるわけがないのです。とにかく政策、技術、文化の大転換が必要です。

日本政府もエコイノベーションに2兆3000億円投入するとダボスで発表しましたし(2008年1月)、2050年までに50%以上は削減すると初めて言いました。50%では足りないのですが、2008年7月には洞爺湖サミットがありますし、政策的にも2008年夏にかけて明らかに変わっていくでしょう。昨年のIPCCの第四次報告、北極海氷の予想以上の減少、アマゾンの熱帯雨林のダメージなどの報告を経て、日本政府も本気になったと思います。

住宅・建設は環境問題の最前線

この10ヶ月、2008年に世界はガラリと変わるはずです。北極海氷の消滅の一方で私たち自身の意識も変えていかなくてはいけません。私はそのことを「グリーンチッピングポイント(緑の臨界点)」と呼んでいます。自然界がチッピングポイントを超えていくのに人間が超えられないとどうなるか、そこには大量の犠牲が伴うのです。

また、今後エコイノベーションの分野で国際競争力が問われていきます。すでにEUがマーケットの3分の1を支配しているという見方もあるようですが、日本の国際競争力という点でも、国家の意思を明確に、そして早急に示す必要があるのです。

私もいろんな機会でこのようなお話をしていますが、受け手の反応も変わってきていると感じています。市民の立場としてはエコハウスを建てる上で、どのくらいの初期投資でどの程度回収できるのかなどが一目で理解できることが大切です。金利政策など、経済的なインセンティブを含め、メニュー化されていくことが社会に浸透していく条件になるでしょう。

いずれにせよ住宅・建設という分野は、つくるエネルギー、そこで使うエネルギーなど影響が大きく、資源エネルギー・環境の戦いの最前線です。OMソーラーなど、すでにアイデアは出揃っています。実行が問題です。私は「最先端の科学技術を禅の高僧良寛さんの心で使いこなす」というのが理想だと考えています。皆さんの実行に期待しています。

山本良一(やまもと・りょういち)

東京大学生産技術研究所教授。
東京大学工学部冶金学科卒業。工学博士。専門は材料科学、持続可能製品開発論、エコデザイン。
文部科学省科学官、エコマテリアル研究会名誉会長、日本LCA(ライフサイクルアセスメント)学会会長、環境経営学会会長、国際グリーン購入ネットワーク名誉代表、環境効率フォーラム会長、「エコプロダクツ」展示会実行委員長など多くの要職を兼務。
著書に『地球を救うエコマテリアル革命』(徳間書店)、『戦略環境経営エコデザイン』、『サステナブル・カンパニー』などの他、『一秒の世界』、『世界を変えるお金の使い方』、『気候変動+2℃』(以上、ダイヤモンド社)の責任編集を担当。

山本良一(やまもと・りょういち)